子どもに「なぜ洪水が起きるの?」と聞かれて、パッと答えられますか?身近な道具でわかる洪水のメカニズム

(写真:ロイター/アフロ)

洪水を防ぐ(あるいは適応する)には、洪水が発生する原因を理解する必要がある

 現在、国会では「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案(流域治水法案)」の審議が行われている。

 国は、従来の堤防やダムの整備だけでは洪水は防げないと、貯水池の整備や避難体制の強化など、自治体や住民と連携して取り組む「流域治水」へ転換し、これにともなう法改正が行われている。

 気候変動にともない雨量が増えれば、洪水も頻発するだろう。

 だが、そもそも「洪水がなぜ起きるのか」と考えたことがあるだろうか。洪水を防ぐ(あるいは適応する)には、洪水が発生する原因を理解する必要がある。

 そもそも洪水というとマイナスのイメージがあるが、私たちは洪水でつくられた土地のうえに暮らしている。

 日本に住む9割の人が平野部に住んでいるが、平野は洪水によってつくられた。水が長い時間をかけて山の斜面を削る。狭い谷を通りながら、谷底や谷の両側も削る。川は削った砂や土を運び、低い土地の上に長い時間をかけて積み上げた。

 山を下る川のスピードは速い。だが、平野に出ると緩やかになる。

 川は運んできた土を底に落とす。川底が上がる。すると水は低い場所をもとめて横へ移動する。川はいつも同じ場所を流れているわけではなく、低い場所を流れながら、そこに土を落として高くし、新たに低くなった場所へ流れる。

写真:yamaoyaji/イメージマート

 川が砂や土を運ぶのは洪水のときだ。平時の川面を見ると、水は土色に濁っていない。つまり、土を運んでいない。一方、豪雨時には、茶褐色の水が渦を巻いて流れていく。岩が粉々に砕かれ、水は土とともに渦を巻きながら流れる。そして平野部に土砂を広げる。

洪水が起きるしくみを身近な道具で実験しよう

 では、なぜ洪水が起きるのか。それは雨の量と川の特徴によって異なる。ここでは身近な道具をつかって説明してみたいと思う。

著者作成
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 ジョウロは雨の量、ジョウゴ、雨樋は川の特徴、タオルは森林の土など水を吸収するものを表している。

 ジョウゴが表しているのは「流域」と言って、降った雨が集まる範囲。流域面積が広ければ広い範囲の雨を集める。狭いと狭い範囲の雨を集める。

 ジョウゴの内側のタオルが表しているのは、森林の土壌など水を吸収するもの。よく水を吸うタオルがあると、雨が川に集まる時間は緩やかになり、タオルがなければ、雨は早く川に集まる。

 雨樋の幅や高さは、川の幅や高さ=水が流れる量を表す。大きな雨樋は水位の上昇に時間がかかるが、いったん溢れると大量の水が出る。小さな雨樋はすぐに水位が上昇する。

 雨樋を設置する角度は、川の傾斜を表す。水の流れるスピードと水位の上がり方は川の傾斜によって変わる。急で短い川ほど水位の上昇は早い。

著者作成
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 身近なものでできるので、ジョウロ、ジョウゴ、雨樋などの大きさを変えたりしながら、どのようなときに洪水が起きやすいかを実験してみるといい。

 流域面積が大きく(ジョウゴが大きい)、下流の傾斜が緩やかな川(雨樋の設置角度が緩やか)でも、台風などで流域の広い範囲に長い時間、強い雨が降り続く(ジョウロが大きい)と、とても大きな被害が発生する可能性があるし、流域面積が小さく(ジョウゴが小さい)、川幅が短く急な川(雨樋が小さく設置する角度が急)は、一気に水が流れ出すので、急激に水位が上昇する。

基本高水って聞いたことある?

 さて、これまでの治水の基本は堤防だった。つまり、上の実験で言えば、雨樋の高さを上げるということだ。堤防によって増えた水を川から溢れさせることなく河口まで流す。水を溢れさせないためには、同時に川の水位を低くする必要があり、主に以下の4つの整備方法が行われた。

 1)ある場所で水を貯める → ダム・遊水地など

 2)川の幅を広げる    → 河川拡張工事

 3)川の底を掘る     → 浚渫工事

 4)水を別の場所に誘導  → 放水路など

 こうした河川整備の基本方針、河川整備計画の治水対策を策定する際の「基本」になっているのが「基本高水」というものだ(河川用語としての読み方は「きほんこうすい」だが、「降水」「洪水」との混同をさけるため、専門家の多くは「きほんたかみず」と言う)。

 これは、ダムなど人工的な施設により洪水調節が行われていない状態で、流域に降った計画規模の降雨(通常は100〜200年に1回の割合で発生する洪水を想定して決められる)が、そのまま河川に流れ出た場合の河川流量を表現している。

 基本高水流量からダムなど洪水調節施設での洪水調節量を差し引いた流量を、計画高水流量といい、河道を設計する場合には、この計画高水流量を収容できる河道断面(河川の幅、堤防の高さ)が基本となる。

 ダムや河道、遊水池といったすべての治水施設は、この基本高水をもとに機能と規模が決定されており、いわば基本高水は近代治水の根幹をなす数値である。

 治水が変わるなかで、あらためて基本高水について学ぼうという人に、おすすめなのが『洪水と確率 基本高水をめぐる技術と社会の近代史』(中村晋一郎/東京大学出版会)である。

筆者撮影
筆者撮影

 著者は「基本高水はその重要性にもかかわらず、その設定方法や考え方に関する研究がきわめて少ない。その理由の一つは、日本で確率主義にもとづく基本高水の設定方法が誕生したのが1958(昭和33)年のことであり、その後の高度経済成長に伴う治水事業の拡大も相まって、技術者の間では基本高水やその考え方は長らく既定のものと考えられてきた点にある。現在では、確率主義が誕生した当時の考え方や背景、そしてこの設定方法に込められた技術思想のほとんどは忘れられてしまっており、基本高水自体が歴史学として扱うべき対象である。」と語り、近代以降の基本高水をめぐる歴史を、技術と社会の両面から明らかにしていく。

 気候変動で降水量が増えれば、基本高水についても考え直す必要があるだろう。

 基本高水をそのままにして、川から水を溢れさせるのだとすれば、その水をどこに集めるのか、人命をいかに守るのかなどを考えなくてはならない。

 いずれにしても、今後は洪水が頻発する可能性が高く、身近に流れる川のことを、もっともっと知る必要がある。ジョウゴの大きさはどのくらいなのか、ジョウゴの内側にタオルはあるか、雨樋の大きさや角度はどのくらいなのかなどと、考えることからはじめよう。