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メガソーラーによる土砂災害を防ぐ法改正はできるか。林地開発と治水・治山はトレードオフの関係にある

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
メガソーラー(イメージ)(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

自治体ごとに精度に差のあるハザードマップ

 近年多発している洪水や土砂災害への対策として、今国会で「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案」(流域治水関連法案)が審議される。

 流域治水は、ダムと堤防に頼る従来の治水から展開し、流域全体でハード対策、ソフト対策を行っていく。市民も居住地について防災の視点で再考することが求められる。

 すでに昨年「宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する命令」が施行され(2020年8月28日)、不動産業者は契約時に、ハザードマップを提示し、取引対象物件の所在地の説明が義務化されている。また、今年1月からは、大手損害保険会社の火災保険料(水害を含む)は、自治体のハザードマップによる水害リスクに応じた保険料に変わった。さらに来年4月からは「災害レッドゾーン」「浸水ハザードエリア」への新規の施設建設が原則禁止となる。

 それなのにハザードマップの精度は自治体によって大きく異なる。

 水害ハザードマップで言えば、精度が高い自治体では、一級河川だけでなく、二級河川、普通河川、下水道、農業用水路、小溝までのリスク評価が反映されている。しかし多く自治体のハザードマップは、一級河川のリスク評価しか反映されていない。また、2015年の水防法改正前のハザードマップを現在も使っている自治体、ハザードマップがない自治体もある。

内閣府の自治体向けアンケート(令和元年台風第19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ)
内閣府の自治体向けアンケート(令和元年台風第19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ)

 ハザードパップは防災の基礎資料。国は全国一律に精度の高いハザードマップ作成を支援すべきだ。

ハザードマップから読み取れないリスクを考えるべき

 ハザードマップからは読み取れないリスクもある。洪水や土砂災害が発生した地域では、大規模な皆伐、皆伐された場所への大規模太陽光発電所(以下メガソーラー)建設、地形、地質、地下水の流れを無視した土地利用、放置されたままの老朽化ため池などがある。

 ここを流域治水関連法案でいかに対応するかが法律作成のポイントになる。

 上記のうち、メガソーラーの設置には、住民が反発するケースが増えている。環境省の調査(「太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書」)によると、太陽光発電事業における環境保全等に係る問題事例数が69件あり、主な問題点としては、①土砂災害等の自然災害の発生、②景観への影響、③濁水の発生や水質への影響、④森林伐採等の自然環境への影響、⑤住民への説明不足、があげられる。

「太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書」(環境省)よりhttps://www.env.go.jp/press/files/jp/110948.pdf
「太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書」(環境省)よりhttps://www.env.go.jp/press/files/jp/110948.pdf

 最近では、奈良県平群町では周辺住民およそ1000人がメガソーラーを建設の差し止めを求める訴えを起こした。森林伐採によって土砂災害の危険性が高まると主張している。

メガソーラーをめぐる事業者と自治体の対立も生まれている

 規制に動く自治体も多い。遠野市は2020年6月「1万平方メートル以上の太陽光発電事業は許可しない」という条例を設けた。山梨県は太陽光発電事業の規制条例案を6月議会に提出することを目指している。

 事業者と自治体の対立も生まれている。埼玉県日高市は2019年8月、「太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例」を公布・施行した。森林保全区域、観光拠点区域など「特定保護区域」が指定され、事業区域が「特定保護区域内」にある場合には許可されない。するとメガソーラー建設ができなくなった事業者が「条例は違憲、無効」との訴えを起こした。第1回口頭弁論で原告側代理人は「条例により、森林法の林地開発許可手続きに入ることを阻害された。条例自体が、営業の自由を保障した憲法に違反する」と主張した。

本当に住民を守る法律ができるか

 林地開発許可制度によれば、事業者に森林開発を認める条件として、当該開発行為により、1)災害を発生させるおそれがないこと、2)水害を発生させるおそれがないこと、3)水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないこと、4)周辺地域において環境を著しく悪化させるおそれがないこと、とされている。さらに、農林水産省は「災害の未然防止等に向けた林地開発許可制度の厳正な運用について」と文書を各都道府県林務担当部長あてに通知している。このなかに「開発行為による災害を発生させるおそれのないよう、開発行為をする地形、地質、周辺の土地利用の実態等を十分考慮」することと明記されている。

 このうち地質(とそれにともなう水の流れ)に注目すべき例をあげる。

 宮城県伊具郡丸森町では、計画されている太陽光発電建設に対し、林地開発許可制度の正しい適用を求める動きがある。令和元年東日本台風(台風19号)は、関東、甲信、東北地方などで記録的な大雨となり、甚大な被害をもたらしたが、丸森町では、10人死亡、1人行方不明と、自治体単位では全国でも最多の犠牲者を出した。

 事業予定地の地質を「産総研地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図」 で確認すると大部分が前期白亜紀(K1)の阿武隈花崗岩類(約1億4600万年前~1億年前にマグマが地下の深いところで冷えて固まった阿武隈花崗閃緑岩)で構成される(薄紫色部分)。

 近年の豪雨災害に伴う土砂災害は、多量の降雨と花崗岩、花崗閃緑岩地域が重なった場所で多発している。花崗岩が風化するとマサ土が形成される。マサ土は浸食に弱く、雨が降ると水で削られ、運ばれ、堆積する。降雨が直接マサ土に当たり崩れるケースである。

 花崗岩の上面が別の地質・岩盤に覆われている場合、少雨では崩れない。風化によってマサ土がつくられても、別の地層や岩盤に覆われているため、マサ土は水による浸食を受けない。

 それでも地下水の動きに注目する必要がある。

 こうした場所では雨が少ない時期でもマサ土に帯水した地下水が湧出し、沢などの水量が豊富である。雨が強く降るとマサ土内の地下水の流れが急激に増え、粒子と粒子の間の摩擦が弱くなり、コアストーンだけでなく上に乗っている地質・岩盤もろとも崩れる。すると下流に巨礫を含んだ土石流を発生させるため、被害が甚大化する。

林地開発と治水・治山はトレードオフの関係にある

 地球温暖化への対応として、再生可能エネルギーを推進していくことは喫緊の課題である。ただし、それは日本の土地の適正に合わせたものでなければならず、ゾーニングが必要だ。林地開発は進みやい。なぜなら所有者にとっては、所有や管理が面倒で、貸したり売却したりしたほうがメリットが多い。 事業者は総合的に低コストで事業が行える。しかし、大規模な皆伐、地形や地質、地下水の流れを無視したメガソーラーの建設が行われれば、土砂災害を誘発し、人の命を奪う。森林の開発の前に、農地とのソーラーシェアリングや、耕作放棄地に設置するほうが優先だ。

 流域治水とは流域内の水循環の健全化をもって達成する。森林、農地、宅地、河川、水インフラなど個別に見ていても安全は守れない。一体的に見る必要がある。それは省庁の垣根を超える必要がある。地下水を含む水の流れ、土地利用を健全にすることが命を守る。そこを踏まえた議論が求められている。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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