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世界手洗いの日。世界の家庭の40%に手洗い設備なし。日本では水道施設の老朽化進む

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
WaterAid/ James Kiyimba

感染症の感染予防、食中毒の予防などに大きな効果

 10月15日は「世界手洗いの日」。手洗い習慣の大切さを多くの人に知ってもらう目的で、2008年に制定された。世界各地で「Hand Hygiene for All」など手洗いの重要性をうったえる取り組みが行われている。

 手洗いは手指についた汚れ、菌、ウイルスを取り除き、感染症や食中毒の予防などに大きな効果がある。身近でシンプルな方法だが、健康に大きく関係する。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に拡大した今年3月、国連が「手や指の衛生は、COVID-19および他の多くの感染症の拡散を抑えるために不可欠です。水と石けん、あるいはアルコールなどをつかって、定期的に手を洗うことを忘れないでください」("ALL HANDS ON WORLD WATER DAY"/UN Water)と呼び掛けたのは記憶に新しい。

 しかし、手洗いは多くの人にとって「当たり前」ではない。以下のようなデータがある。

 世界の40%の家庭には、水と石けんを使うことのできる手洗い設備がない(National Center for Biotechnology Information)。

 後発開発途上国では、人口の約4分の3が、水と石けんを使うことのできる手洗い設備を使えない(Progress on house hold drinking water, sanitation and hygiene)。

 世界の43%の保健医療施設には、水と石けんを使うことのできる手洗い設備がない(WASH in Health Care Facilities: Global Baseline Report 2019)

 世界の47%の学校には、水と石けんを使うことのできる手洗い設備がない(Drinking Water, Sanitation and Hygiene in Schools: Global baseline report 2018)

 開発途上国の水と衛生を支援する国際NGOウォーターエイド(日本支部・ウォーターエイドジャパン)と大手調査会社YouGovは、「世界手洗いの日」にパキスタンと南アフリカ共和国などで手洗いに関する調査を行った。南アフリカ共和国の新型コロナの累計感染者数は69万3359人、死亡者数は1万7863人、パキスタンの累計感染者数は31万9848人、死亡者数は6588人である(WHO報告、2020年10月13日現在)。

 ウォーターエイドのレポートでは「新型コロナのパンデミックの際、家や職場、交通機関などで、『手を洗いたいと思ったが、実際には手洗いが困難だった』という経験をした人は、パキスタンで10人中7人(69%)、南アフリカで半数以上(55%)」「パキスタン人全体の7%は『水が高過ぎる』、28%は『利用可能な水がない』と述べた」とされている。

 手洗いの設備の未整備を指摘する声は、感染者の多いインド(累計感染者数717万5880人、死亡者10万9856人/WHO、2020年10月13日現在)からも上がっている。インドの公衆衛生の専門家は「都市部のスラムなど過密な住環境での飛沫感染とともに、手洗い設備の未整備が感染拡大の主な要因。基本的な手洗い設備がない病院も多い」と指摘する。

 一方で、英紙「ガーディアン」は「マスクではなく手洗いに焦点を合わせたことがCovid-19の感染拡大を助けたか?」という記事のなかで、飛沫感染対策の重要さを強調する。英国の累計感染者数は66万5343人、死亡者数は4万3018人で最近感染者は再び増加している。それでも記事中に「手洗いの重要性を否定するものではない」という記述があるし、公衆衛生設備の整った先進国とそうではない開発途上国の状況は分けて考えるべきだ。

 世界の3割の人は自宅に水道が通っていない。遠くの水源まで水をくみに行かなくてはならない人も多い。経済的に貧しい国ではせっけんは高価で手が届かない。後発開発途上国(開発途上国のなかでも特に開発が遅れている国)では人口の約4分の3が、水と石けんを使うことのできる手洗い設備を使うことができない。リベリアで99%、エチオピアで92%、マラウイで91%、ザンビアで86%の人が、水と石けんを使うことのできる手洗い設備施設をもたない。

 世界的に新型コロナを収束させていくには、飛沫感染対策とともに手洗い設備を普及させる必要がある。

 ウォーターエイドは従来から、活動する複数の国において、現地政府と連携しながら、正しい衛生習慣の普及のための大規模な取り組みを展開してきたが、新型コロナウイルスやその他の感染症の蔓延を防ぐため、医療施設、学校、公共の場所に焦点を当てた、手洗い設備への緊急かつ大規模な投資を求め、5つのアクションプランを示している。

1)国のデータ容量に投資して、サービス提供のギャップを特定する(特に最も脆弱で限界に達したグループや地域)

2)手洗い設備と手洗いサービスを、サービスの行き届いていないコミュニティに優先的に支援する(人と一定の距離を保つなど他の予防策が不可能な都市部の集落など)

3)手洗い設備の設置とともに、給水、衛生、適切な廃水管理を提供する

4)各国政府の健康や教育プログラムに基づいた、持続的で全国的な行動変化キャンペーンに資金を提供する。

5)国際的なパートナーシップ(「Hand Hygiene for All」など)を資金面、その他で支援する。それによって、各国が手洗い設備に関する計画を実行に移すための、政治的コミットメントや調整、民間セクターの給水、衛生、排水管理などでの技術革新を促進する。

「#あわあわハイタッチ」キャンペーン

 手洗いについての課題をあらためてまとめると、

・手洗い設備をもてない(水環境面、資金面に課題)

・手洗い設備を支えるしくみ(給水、衛生、排水管理などの設置や維持管理)が脆弱

・手洗いの重要さが理解されていない(習慣面の課題)

・政策決定者にとって手洗い施設、手洗いサービス拡充の優先順位が低い

 などがある。

 手洗いウォーターエイドジャパンは、世界手洗いの日に「#あわあわハイタッチ」キャンペーンを実施する。バーチャルなハイタッチを通じ、手洗いの大切さを確認し、手洗いが誰にとっても「当たり前」になることを願うという目的がある。

<やり方>

1)まずは石けんと水で手を洗おう!(石けんを使って指先が「あわあわ」になるまで十分に手洗い)。

2)「あわあわ」になった手のひらを広げて写真をとる(誰かとハイタッチしていることをイメージしながら、「あわあわ」になった手のひらを広げて写真撮影。写真の代わりに動画や「あわあわ」の手だけを撮った写真などもOK。指先まで泡だらけにすることで指紋の読みとりによるサイバー犯罪からも身を守る)

3)撮影した写真をSNSに投稿(ハッシュタグ「#あわあわハイタッチ」「#世界手洗いの日2020」「#HandHygieneForAll」などと一緒にTwitter、Instagram、Facebookなどでシェア)

 日本では水道を使った手洗いは「当たり前」と考えられているかもしれない。「当たり前」の反対は「ありがとう」だという。「ありがとう」は「有り難し(めったにない)」が変化したもの。

 水道は高度経済成長期を中心に整備され、現在の普及率は98%。しかし、水道管が古くなっている。法定耐用年数40年を経過した管路(経年化管路)は15%あり、法定耐用年数の1.5倍を経過した管路(老朽化管路)も年々増えている。管路だけでなく浄水場などの施設の老朽化も大きな問題だ。

 「世界手洗いの日」に手洗い設備が気軽に使える「有り難い」環境について、いま一度考えてみたい。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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