地下の巨大空間 もしも下水道が損壊したら

東京都内の下水道管(著者撮影)

2階建ての家がスッポリ入る巨大な地下空間

 下水道管の大きさは、直径25センチから8・5メートルに及ぶものまでさまざま。2階建ての家がスッポリ入る高さ8・3メートル、幅7・2メートルの四角いタイプもある。上水道管との違いは、上水道管が水で満たされているのに対し、下水道管は長雨や豪雨の時以外は基本的に空洞部分が大きいこと。すなわち地下に巨大な空間があり、破損するとそこに土砂が引き込まれる。

下水道管の大きさを2階建て家屋と比較(著者作成/2階建て家屋はいらすとやのイラストを使用)
下水道管の大きさを2階建て家屋と比較(著者作成/2階建て家屋はいらすとやのイラストを使用)

 東日本大震災では下水道システムも被害を受けた。国土交通省によると、震災時に16都県の109の下水処理場が被災した。

 被災地は鼻を切り裂くようなにおいと激しい砂塵に襲われた。仙台市の7割の下水を処理する東北最大の南蒲生浄化センターは津波で稼働停止になり、下水道管から汚水が溢れ出し、まち全体に臭気が漂っていた。

 誰しも自分より上流の水は気になるが、下流の水はほとんど気にかけない。家庭の場合、上流は水道の蛇口、下流は台所や風呂場などの排水口ということになる。蛇口の上流には浄水場がある。浄水場が壊れたり、汚染されたりするととても気にする。一方、排水口の下流には下水処理場がある。浄水場に比べて下水処理場への関心は一般的に低い。

 それは水道インフラのない開発途上国でも同様だ。上水道は求めるが下水処理にはあまり関心がない。しかし、上水道が整備されると水使用量が増える。大量の汚水を流すようになる。そのときはじめて下水処理の必要性を感じる。

 下水処理場の機能停止や下水汚泥の汚染の深刻度は極めて高かった。

 一般的に、下水道は以下の4つの役割を持っている。

  1.  汚水を処理して、衛生的な生活が営めるようにすること。汚水がたまらず、害虫や悪臭の発生が防げ、衛生状態が保たれる。
  2.  トイレが水洗になり嫌なにおいがなくなり、快適な生活が送れる。
  3.  降った雨をすばやく排除して、浸水からまちを守る。
  4.  汚水を浄化して川や海などに戻すことで水質保全すること。

 下水道が機能しなくなり、まちはこの4つを失った。

 汚水は傾斜を利用して流すため下水処理場は沿岸に多い。家庭から出た汚水や側溝から入る雨水を、傾斜を利用して管で流すので、処理場は標高の低いところに設けられる。

 沿岸部の下水処理場の大半は津波で冠水し壊滅的な被害を受けた。大津波によってポンプなどの設備が故障。海水の流入と停電で生物処理の機能は失われた。全国の自治体が給水車を派遣したり設備修繕の支援をしたりしたが、本格復旧には3年かかった。

 設備の故障で汚水中の有機物を微生物で分解除去する本来の工程は省略された。池に汚物を沈殿させ、上澄み水を塩素消毒する簡易処理をしたのち、川や海に流した。水の汚れを示す生物化学的酸素要求量(BOD)は水質汚濁防止法の基準を下回っていたが、通常に比べたら約20倍の汚れた水を流した。

 下水管も陥没などで破損し、千葉県浦安市などで液状化現象によってマンホールが隆起し、管路が断絶した地域もある。下水管や処理場が復旧しないと、汚水が路上にあふれ疫病を引き起こす恐れがあった。

トイレをめぐる省庁の縦割り

 被災地ではすぐに水洗トイレが使えなくなった。便器に糞尿がたまった。そのほかにもたくさんの汚水が出ては垂れ流された。その結果、衛生環境が悪化し感染症の多発が懸念された。実際、肺炎や破傷風にかかった人に何人も会った。

 トイレの管轄は3つの役所にまたがっている。トイレを流す水は水道水なので厚生労働省。トイレから流される糞尿は下水道を通るので国土交通省といいたいところだが、そうとはいいきれない。国土交通省が管轄するのは下水である。下水とは糞尿+それを流す水のこと。被災して水が使えなくなると糞尿は下水ではなくなり、環境省の管轄になる。ただ、そこでスムーズに業務のバトンタッチが行われるはずもなく、糞尿はたまっていく。被災者はしかたなく自力で糞尿を下水管に捨てていた。

下水に集まった放射性物質

 さらに下水に集まった放射性物質が汚泥処理の工程で再び大気中に抛出され、二次汚染を起こすことが懸念された。たとえば、学校が夏を前に放射性物質が含まれている疑いのあるプールの水を排水すれば、それは下水に集まっていく。

 福島市の下水処理場からは5月8日に、汚泥1キログラムあたり最大44万6000ベクレルの放射性セシウムが検出された。原発から出る放射性廃棄物は10万ベクレルを超えた場合、コンクリートで囲んだ地下への埋め立てが必要になるが、その4倍以上だ。その後、東日本各地の下水処理施設の汚泥から相次いで放射性物質が検出され、影響が広がっている。行き場のない汚泥や焼却灰はたまる一方だ。セメントや建築資材、あるいは肥料などとして再利用されていたが、受取りを拒否する業者が相次いだ。

 そこで国は6月16日に新しい処理基準を示した。

・セシウムが1キログラム当たり8000ベクレル以下……防火対策をし、居住地や農地に使われなければ埋立地処分できる

・8000ベクレル超10万ベクレル以下……住民の年間放射線量が10マイクロシーベルト以下になるよう対策を取れば埋め立て処分できる

・10万ベクレル超……遮断できる施設で保管することが望ましい

 国土交通省によると全国の汚泥の年間発生量は約220万トン(乾燥時)にのぼる。

下水道由来の道路陥没は全国で年間4000カ所

 下水管の総延長は約47万キロ。そのうち下水から発生する硫化水素の影響で腐食リスクが大きく、定期点検を義務付けられた管は約5000キロある。

 道路陥没全体の発生件数について、国の統計はない。ただし、地中の下水道管破損を原因とする陥没が圧倒的に多く、国土交通省のまとめでは、全国で年間約4000カ所も道路陥没が起きており、10件程度が物損事故につながっている。

 2015年、世田谷区瀬田の国道246号の歩道が陥没した。下水道管のつなぎ目がずれて、周辺土砂が管に流入したことが原因。現場では路面に一辺約30センチの穴が開き、その下に縦約1メートル、横約50センチ、深さ約50センチの空洞が生じた。

 2013年には北区赤羽の区道が下水道管の破損により陥没し、歩いていた近所の男性が転倒し一時意識不明に。道路表面1メートル四方に深さ10センチのくぼみができており、地下2メートルに埋めた下水道管二本を接続する箇所に穴が開いて土砂が流れ込んでいた。

 同じく2013年、大阪府豊中市内で市道に深さ2・4メートルの穴が突然でき、幼児を抱えながら自転車を押していた30代の女性が転落し、二人とも負傷。1966年ごろに敷設された下水道管が劣化し、事故前数日降り続いた雨の影響で陥没が拡大したとみられる。

 下水道管は、重力を利用して生活排水、汚水(トイレやお風呂の水)を流す。管自体を坂道になるように敷設し、一定の距離ごとにポンプを設置し、下水を汲みあげて坂道を流し、下水処理場まで運ぶ。

 コンクリート製の下水道管は詰まったりゆるんだりすると硫化水素ガスが発生し、酸化すると硫酸になり、下水管を溶かす。この状態が続けば下水管に穴が開き、周囲の土砂が吸い込まれて空洞ができる。そこに車両などの重みが加わると陥没事故につながる。

 下水管は敷設から50年程度、下水処理場の施設は15年程度で更新する必要があり、施設の老朽化が徐々に深刻化している。計画的に下水道を点検している自治体は約2割にとどまり、更新も進んでいない。

 下水道経営は水道以上に厳しい。今後更新時期を迎えるが、費用は水道の3、4倍かかり、一般会計からの繰り入れが必要になるだろう。そうなると教育や福祉などに使うはずの予算が削られ、私たちは下水道を維持するために税金を支払うようになる。

 各自治体はこうした状況を住民に周知し、下水道の維持が本当に必要なのか、別の方法で前述の4つの機能を果たすことができないかと考えていく必要がある。

 まちとインフラについて考え直す時期にきている。インフラをいかに維持するかという視点だけでは、対症療法的な議論ばかりになって、根本的な解決につながらない。そうした意味で、都市とは何かということから考え直す必要がある。