インフラ存続危機 いま考えるべき今後のまちづくり

老朽化した水道管(著者撮影)

道路、橋梁、水道・・・公共インフラが朽ちていく

 最近、インフラの存続が危ないという情報を頻繁に目にする。

 筑波大、高知工科大の報告(2017年)では、道路橋の老朽化に伴う架け替えを含めた修繕費用は、今後50年間で約27兆円。政令指定都市を除く市区町村の場合、単純計算すると1自治体当たり、年1億5000万円程度の負担となる。小規模市町村では財源確保は難しいとされる。

 水道施設の老朽化も進む。土木学会の推計(2017年)によると、老朽化対策のために2040年までに水道事業を営む団体の91%が値上げを迫られる。小規模自治体でとくに影響が大きく、料金が4倍以上に引き上げられる自治体もある。

 下水道施設の老朽化も深刻だ。下水道管の総延長は約47万キロだが、下水から発生する硫化水素の影響で腐食が激しく、定期点検を義務付けられた管は約5000キロ。しかしながら定期点検が終わった管路は全体の1割に過ぎない。下水道管老朽化に伴う道路陥没事故は年間3000件超発生。地下に埋設されている水道やガスなどのライフラインが寸断されれば、日常生活に甚大な影響を与える。

 公共インフラの老朽化が進むなか、国や自治体が主導し、道路、橋梁、上下水道など、個別に対策している。しかし、インフラを「いかに維持するか」という視点では根本的な解決につながらないだろう。まずは、人口減少期における「都市のあり方」を見直す必要がある。

都市の役割とは何か

 都市はそこに集まる人たちが「豊かな生活」を実現するための「手段」と言える。たとえば、モノやサービスを交換する役割、 集まったモノやカネを再配分する役割をもっているが、そのあり方は多様であってよい。

 しかしながら、戦後の日本の都市は「経済成長」を主たる目的としていた。

 このとき大きな役割を担ったのが土地、住宅、インフラである。

 日本に「持ち家志向」が広がったのは戦後のこと。

 戦前の都市では借地・借家が主流だった。1931年に東京市社会局が行った「東京市住宅調査」では借家率は70.5%、1941年の「大都市住宅調査」では75%。持ち家は25%に過ぎない。

 戦後、持ち家志向が醸成された理由は3つある。

 

 1つ目は、貸家経営の崩壊。

 戦時中からのインフレ拡大や実態を無視した地代家賃統制令の施行で貸家経営が苦しくなる。その後、戦災による貸家の損壊に加え、戦後は建築資材の不足、地代家賃統制の継続で経営は行き詰まり、財産税の徴収もあって貸家を供給してきた旧来の都市富裕層が没落した。

 2つ目は、敗戦直後の住宅政策。

 戦後ヨーロッパでは国が住宅供給に力を注いだが、日本では第二次産業の復興が急務という方針から、政府は国民に自力で家を建てることを求めた。

 3つ目は、住宅ローンの整備。

 市民が土地と家を所有するのは容易ではないが、1950年に住宅金融公庫が設立された。民間の銀行の住宅ローンなどに比べて低利で固定金利。審査基準も厳しくない。

 経済成長のためには、市場に多くの人に参加してもらう必要があるが、一般市民が借金をして土地や住宅を購入し、住宅ローンを返済することで経済市場に参加し続けることになった。借金返済の期間が長くなればなるほど、人々は経済市場と長期的な関係をつくる。都市は長期間、変わることのないプレーヤーを獲得した。

 持ち家志向を含めた不動産信仰を決定的にしたのは地価の上昇である。バブル崩壊までの戦後40年間、日本の地価はほぼ一貫して上がり続けた。土地・建物は所有していれば価値が上がり、キャピタルゲインを得ることができた。しかし、そんな時代は終わっている。

インフラの本来の役割は?

 さらに都市の発展にインフラは欠かせない。インフラストラクチャーとは「下支えするもの」のことで、福祉の向上と経済活動に必要な公共施設を指す。道路、上下水道、橋梁などの基盤整備が進み、設備投資をして便利になれば土地は黙っていても上がった。

 その効果も限定的になっている。

 たとえば、リニア中央新幹線の経済効果。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートでは、品川ー名古屋間が開業した後の経済効果は、2050年までに10.7兆円、大阪まで一括で整備された場合に16.8兆円と推計されている。その内訳は外国人観光客の増加や地価の上昇で、東京・名古屋・大阪だけでなく途中駅周辺でも経済効果が見込めるとされる。

 しかし、実際には限定的になるだろう。始発駅である名古屋駅と品川駅の周辺では地価の上昇が期待できるが、それ以外の地域では土地がすでに余っており、影響は少ないと考えるのが普通だ。

 設置が予定されている山梨県甲府市、長野県飯田市、岐阜県中津川市でも駅から徒歩圏内の住宅地では地価の上昇が期待されるが、リニア新幹線の開通に伴う住宅地への影響は極めて限定的だろう。

 インフラは本来都市を「下支えするもの」であって、経済成長のための注射ではない。都市住民が豊かになるためのインフラを模索することが大切だろう。

どういうまちにするか、そこにはどんなインフラが必要か

 今後の都市を考えるうえで、まずは大きな構造変化をおさえるべきだろう。

 1つ目は、人口減少社会の到来。

 少子高齢化が進み、土地の需要が減る。都市部では需要が横ばいになり不動産価格は緩やかに低下するだろう。郊外や地方では人口減少が激しくなり、空き家が増え、不動産価格は大きく下落するだろう。

 2つ目は、未利用地化した土地がまだら状に増えていくこと。

 市街地、市街化調整区域、農地、いずれの場所でも未利用地が増えていく。また、固定資産税に比した収益を上げることが難しくなっていく。こうなると土地や住宅を所有する意欲が減少する。

 今後は多様な住民で集まり、まちづくりを検討する必要がある。

 これまでのように、行政が住民に説明するというスタイルではなく、人口動態、土地利用状況、財政など客観的な情報を、行政、住民で共有しながら一体となって考える必要がある。

 都市のなかに、まだら状に空き地が増えることを考えると、さまざまな施設が小さな規模で分散型に存在し、その総和によって住民の満足度を高める工夫が必要だ。

 これまでのように経済成長だけを豊かさと考えず、さまざまな価値観を実現するために、多様なライフスタイルを実現できる成熟したまちを作っていくという考えが重要になるだろう。

 まちづくりが変われば、公共インフラのあり方も変わる。

 設備を維持するという発想から、どの設備を残し、どの設備を失くすかという議論は当然起きる。大規模で効率的な設備から、小規模で分散型の設備が選択されることもある。

 すでにインフラ計画の縮小も起きている。

 一例を上げれば、岩手県滝沢市は下水道事業計画の大幅な見直しに踏み出した。滝沢市の下水道事業は赤字が状態化しており、一般会計から3億円を繰り入れて収支バランスを取っていた。

 建設費に充てるための借入額は57億円に達し、その返済に年間4億円を負担する。

 さらに1400ヘクタールの未整備地区があり、計画を実現するには、40年間で100億円の事業費が必要だ。そこで市は2014年、採算が見込めない地域は下水道の供用をやめ、合併浄化槽の設置を促す方針へとかじを切った。サービス供用区域を6割にせばめ、事業費は40億円節減する見通し。供用区域から外れる世帯向けには、浄化槽設置費用の補助制度を導入する。

 今後は道路のあり方も変わるだろう。

 こんな話がある。昭和30年代、民俗学者の宮本常一が佐渡を訪れたとき、道はいたるところで寸断されていた。そのことを知った宮本は、集落と集落をつなぐ周回道路をつくるべきだと各地で力説した。その道をつくることによって各集落の産業振興がはかれる、というのが宮本の考えだった。

 一方、田中角栄は、佐渡の道を自分の選挙区である新潟3区につながる海上の道と結び付け、やがて東京と直結する道路を計画した。

 田中と宮本の発想はまったく対照的だ。

 宮本は、離島振興には内部からエネルギーを起こさなければならないと考え、田中は、道路で中央と直結するしかないと考えた。直線的な道路は効率的で経済成長を促すエンジンとなった。

 都市の目的が経済成長だった時代のインフラとしては良かったのかもしれない。

 しかし、今後の都市の多様な役割を考えると、宮本常一が提唱していた都市の中を周回する道路の価値が高まるだろう。

 いずれにしても都市の役割を再考し、多様な意見をもちよりながら、自分の住むまちの方向性を決めていく必要がある。それによってインフラのあり方も変わるはずだ。