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フォロワー30万人のトラック運転手による飲酒投稿~トラックと酒を繋ぐ無責任な大人たち<後編>

橋本愛喜フリーライター
トラックと朝焼け(読者提供)

※本稿には、飲酒に関する記述・表現が含まれます。

前編では、トラックドライバーが意識して酒と距離を置くべき理由、中編では、インフルエンサーのトラックドライバーがSNSで飲酒投稿をすることで運送業界に与える深刻な影響を中心に言及してきたが、後編の本稿では、飲酒投稿をもてはやすメディアの責任や飲酒するドライバーをPRに利用する大人の責任について述べていく。

問題は「周囲の倫理観の低さ」

トラックドライバーのインフルエンサーが、毎日のように飲酒姿を投稿することによる業界への影響は深刻だ。

しかし結論から言うと、この一連のトラックめいめい氏(以下、「めいめい氏」)による飲酒投稿問題は、本人以上に「周囲の大人」により大きな問題があると、今回の取材を振り返ると強く感じる。

これまでにも述べている通り、めいめい氏は現場に出て5年足らずだ。

社会経験も現場経験も浅いことを考えると、意識や知識の低さは不思議なことではない。

無論、若くてもプロ意識の高い人もいるし、ハンドルを握れば年数やプロアマも関係ないが、社会人やドライバーとして同氏は「成長過程」であり、本人の未熟さに対しては周囲から指摘されこそすれ、批判されるものではない。

一連の件においてなにより問題だと思うのは、周囲の大人たちが彼女の行為を止めるどころか後押ししたり、利用したりすらしているところにある。

「ビールを運送企業の冷蔵庫で冷やす」の異常

現在、フジテレビ系列配信サイトFODなどで配信されている「トラックガール」は、めいめい氏が原案・モデルのドラマだ。

その各話では、トラックドライバーや運送業界の「あるある」を紹介しているが、なかには実際の運送業界では現実には起きない、起きたら問題になるようなシーンが少なくない。

なかでも看過できないのが、昨晩飲みすぎてアルコールチェックに引っかかったドライバーが周囲から面白おかしくイジられ、さらに代わりに走った酒好きのドライバー(主人公)への差し入れとして、会社の冷蔵庫にビール1ケースを冷やしておくシーンだ。

実際の通常の現場では、このようなことは絶対に起き得ない。

「うちはアル検(アルコール検査)引っかかったら懲戒解雇です」

「検査引っかかった人は乗車禁止になり、会社全体が緊張する。万が一荷主でのアルコールチェックで飲酒運転が発覚した時は懲戒解雇。社内の冷蔵庫はもちろん、社内にアルコールを持ち込むこと自体異常」

「運送企業にアルコールを持ち込むとかあり得ない。メディアが間違ったイメージを発信することで現場が誤解される」

中編でも紹介した通り、アルコールが検知されたら事務所中にサイレンが響き渡るような会社もある。

酒に関するルールのない他業種においても社内に酒を持ち込むことは非常識なことだ。

にもかかわらず、なぜ酒と最も距離を置くべき運送業界をわざわざ酒と絡めて描写するのか。

ましてやアルコールチェックに引っかかったドライバーが、差し入れのビールを運送会社の冷蔵庫で冷やしておくようなシーンをなぜ採用したのか。

業界を知らない人たちがこのドラマを視聴すれば、運送業界を「酒に緩い業界」と誤解する恐れすらある。

同ドラマだけでなく、先月出版されためいめい氏の書籍においても、「疲れ」を「最高のツマミ」とするタイトルが使用されているが、前編でも伝えた通り、ドライバーの労働環境はその疲労のせいで酒と近くなりやすくなる。

このような業界の労働背景に配慮することなく、キャッチーなフレーズを安直に掲げてしまうメディア関係者には、つくづく無責任さを感じる。

ドライバーとして未熟な原案者の話を鵜呑みにし、そのまま作品に反映させてしまうのは、ドラマのつくり手のリテラシーがあまりにも低いとしか言いようがない。

エンタメならば、実際の現場の現状を無視したり問題を軽視したりして描写していいことには決してならない。

ドラマ「トラックガール」公式ウェブサイトより画像引用
ドラマ「トラックガール」公式ウェブサイトより画像引用

認識の甘いビール会社

前出のドラマにおいて、もう1つ言及すべきなのが、トラックドライバーが主人公であるドラマで、実在する某ビール会社の商品が全話で使われていることだ。

商品をストーリーに溶け込ませるこうした広告手法は「プロダクトプレイスメント」と呼ばれ、多くの作品でも取り入れられているが、運送業界の実態を紹介したり、実際のトラックドライバーをモデルにしたりするなど、「運送業界の現実」に寄せているドラマにおいて「実在するビール」を使用するのは、あまりにも無配慮である。

商品をドラマに使用されたビール会社にその経緯を取材したところ、「弊社はドラマのスポンサーではありません。ドラマに自社製品が使用された経緯においてはコメントする立場にございません」とのことだった。

そこで、ドラマを制作したフジテレビにも実在する企業製品の使用の経緯や、トラックにまつわる作品で実際のビールを使用することへの見解を取材したところ、「番組制作の詳細についてはお答えしておりませんが、当ドラマにスポンサーはついておりません」という短い回答が、回答期限後に返ってきた。

トラックと酒のイメージ付けは、クルマに携わる側からすると最も避けるべき行為である。

運送業界に携わるある団体の役員は、

「酒を豪快に飲むトラックドライバーが主人公のドラマが許されるのか。これまで酒とのイメージを断ち切るために努力してきた運送業界にとっては彼女の酒に対する言動は大きなマイナスになると思う」

と語る。

また、ある国内トラックメーカーの広報担当者は、自動車メーカーにとって、酒とのイメージ付けは絶対的にやらない、やってはいけないことだという。

「メーカーはイメージを非常に気にします。例えば、イベントでドアを閉める際の音が事故時の音と似ていたら効果音を変えるほど。トラックをはじめ自動車メーカーは、酒とのイメージ付けももちろんしません。酒にまつわることをSNSで発信もしないし、インフルエンサーを起用する際も、その人が過去にどんなことを発言し、活動しているか最大限の神経を使っている。メーカーは、社会的な影響を考える必要があると思っています」

報道番組が取り上げる浅はかさ

めいめい氏のメディア露出に関して、ドラマや漫画以上に問題なのは、いくつかの「報道番組」が酒のイメージのあるめいめい氏を「インフルエンサー」として紹介し、「2024年問題」と絡めて紹介していたことだ。

そのなかには、公共放送であるNHKの朝の報道番組もある。

同番組では、めいめい氏を取り上げるうえで「飲酒姿」は紹介されなかった。

当然である。朝の報道番組で酒を豪快に飲酒するトラックドライバーなど紹介できるはずがない。

ならば、なぜ「インフルエンサーになった経緯を紹介できるはずがないドライバー」を取り上げたのか。

運送業界に86万人ものトラックドライバーがいるなかで、なぜ統計上「外れ値」になる、よりによって酒のイメージのある女性ドライバーを公共放送であるNHKが紹介するに至ったのか。

放送のタイミングも最悪だった。

同報道番組がめいめい氏を取り上げたのは、飲酒運転によって2人の子どもが亡くなった千葉県八街市の飲酒トラック事件からちょうど2年が経つ2日前だった。

飲酒運転について真剣に考えるべき時期に、公共放送が飲酒投稿で有名になったドライバーを取り上げた理由は何だったのか。

筆者はこれらについて、同氏を取材したNHKの記者や番組関係者への取材を同局に申し込んだところ、

「取材・制作の詳しい過程はお答えしていませんが、ニュースや番組、WEBでお伝えする内容は、自主的な編集判断に基づいて、その都度、総合的に判断しています。飲酒運転は決して許されるものではなく、そうした姿勢で報道に取り組んでいます」

との回答があった。記者への取材やめいめい氏を起用した経緯など、質問に対する回答を得ることはこちらでもかなわなかった。

2021年6月28日に起きた八街事件現場(2023年6月28日筆者撮影)
2021年6月28日に起きた八街事件現場(2023年6月28日筆者撮影)

このように、酒とクルマの距離が取れない大手メディアのリテラシーにも呆れるが、筆者がより絶望したのは、物流を専門的に扱う業界紙が新春号一発目に彼女を一面で取り上げたことだ。

酒のイメージのあるドライバーと、物流の専門知識のない経済学者の対談を新春号の一面に載せる業界紙に「プライドはないのか」とさえ思った。

こちらにもめいめい氏を起用した経緯について同特集を執筆した記者に取材したところ、

「特集の柱のテーマが『物流の持続可能性』だったため、自分事として10年先、20年先を考えていただけるであろう、若い方を第一に考えた。(トラックドライバーの飲酒問題は)仕事の後の飲酒を難しくさせる労働環境、商慣行に問題の根っこがあると考えている」

との回答があった。

しかし、業界紙が「トラックドライバーの仕事の後の飲酒を難しくさせる労働環境に問題がある」と考えること自体、認識が甘い。

繰り返すが、トラックドライバーの労働時間外の飲酒行為は罰するものではもちろんないが、積極的な肯定や促進もしてはいけない。

ましてやメディアは、リテラシーや倫理観を守るのが仕事である。

一億総発信者時代の昨今、メディアとして一般発信者と一線を画す最も大きな存在意義の1つは、この「高いリテラシーと倫理観」だ。

そんななか、報道が世間の倫理観に合わせにいってどうする。

昨今の日本のメディアには、その判断力が欠落していると強く感じる。

飲酒運転事故数ワーストの県警が本人を1日署長に

こうした「酒×クルマ」に対する認識の甘さは、メディアだけではない。

先日、運送業界関係者を驚愕させたのは、飲酒運転の撲滅を謳う茨城県警が、めいめい氏を「一日警察署長」に任命したことだ。

10月某日、この情報が発信されると、警察に対して一部の運送業界関係団体役員やトラックドライバーから問題視する声が聞かれた。

よりによって茨城県は、毎年他県と飲酒運転事故数ワーストをゆずり合っている(同県警ウェブサイトより)。

そんななか、なぜ本人と縁もゆかりもない茨城県の警察が、毎日のように酒を飲む姿を投稿するトラックドライバーをわざわざ1日署長に選出したのか。

茨城県警のウェブサイトより引用。同県は飲酒運転による死亡事故発生件数が全国ワースト
茨城県警のウェブサイトより引用。同県は飲酒運転による死亡事故発生件数が全国ワースト

この件に対して取材したところ、同県警は「本人の起用は妥当だ」と言い切った。

「ご本人は飲酒運転をしているわけではない。今回は車両盗難についてのキャンペーンであり、飲酒撲滅の話ではない。拡散力もある。地域性などは気にしていない」

「飲酒運転していない」からといって、毎日のように飲酒し。その姿をSNSに投稿するトラックドライバーを「1日署長」に任命する警察の無神経さには閉口するばかりだ。

以前も言及した通り、規制に絡む法律は「最低条件」である。

いわゆる「赤点のライン」であり、社会的責任のある人物や組織は、そのラインで彷徨っているべきではない。

とりわけ警察のような「規範」を重んじ、違反を取り締まる組織が、そのギリギリのラインで飲酒運転のトリガーになり得る人物を1日署長にするのは、実に認識が甘い。

「さすが飲酒運転事故ワーストの県の警察は認識が甘い。この人を署長に起用することのリスクを全く考えていない。同県で大きな事故を起こした時、格好のネタにされるのでは」(運送団体関係者)

茨城県警の「一日警察署長」のイベントに出席するトラックめいめい氏(10月14日筆者撮影)
茨城県警の「一日警察署長」のイベントに出席するトラックめいめい氏(10月14日筆者撮影)

もし「男性トラックドライバー」だったら

めいめい氏の飲酒投稿がここまで人気を博した要因は、本人の魅力はもちろんだが、なにより「若い女性×ブルーカラー×酒」という掛け算の"意外性"によるところが大きいといえる。

例えばもし、トラックドライバーの中央値にいる50歳前後の男性や、トラックドライバーと同じようにアルコールチェック義務のあるパイロットがめいめい氏同様、毎日のように酒を豪快に飲んでいたら、世間はどう思うだろうか。

人気を博すどころか、むしろ「プロ意識が足りていない」「ドライバー失格」という声が上がっていたのではないだろうか。

いや、むしろ話題にすらなっていなかったはずだ。

日本には酒が強いことを褒めたりもてはやしたりする習慣があることは中編でも紹介したが、その対象が「女性」になるとなおさらその風潮は強くなる。

実際、「女の子なのによく飲むね」「女の子が豪快に酒飲んでるところ見てると気持ちいい」というコメントが散見される。

ブルーカラーの業界においては、人手不足やイメージアップが必要な際、毎度この「若い女性」がPR要員にさせられるケースが非常に目立つ。

ブルーカラーの現場はどこも9割以上が男性で、年齢の中央値も40~50代だ。

ことトラックドライバーにおいては、86万人のうち女性ドライバーはわずか3%。その割合は自衛隊の女性の割合(約8.7%)よりも少ない。

労働環境の過酷さゆえに人手不足になっている業界で、体力差やインフラ面から労働環境がより過酷になりやすい女性ばかりを利用してその業界を語るのは、現場の女性作業員に対する軽視であり、そもそも正しい現場の現状ではない。

実際、昨年まで国土交通省のウェブサイトにさえも「近年、現場に華やぎを与える女性ドライバー(トラガール)が増えてきた」という文言があった。

女性ドライバーは華やぎを与えるためでも、業界をPRするためでもなく、「荷物を運ぶため」に現場にいるのだ。

「女性活躍」「女性平等」という言葉を都合よく利用し、2024年問題の「救世主」として酒を豪快に飲む女性ドライバーをPR要員にすれば、結果的に現場に蔓延る深刻な問題を矮小化させることにも繋がる。

いや、矮小化どころか、女性ドライバーはもとより運送業界全体に対する間違ったメッセージの植え付け、誤解や軽視の助長という、新たな問題を引き起こす原因にさえなる。

実際、めいめい氏の言動に対しては、先のような褒め言葉とは逆に「所詮現場の女のすることはこの程度」、「女性の酒飲み、トラック運転手というだけでバズる要素」、「酒で人を募る業界」というコメントも見聞きする。

こうして酒で売ってきたインフルエンサーが万が一、アルコール依存症になったり事故を起こしたりすれば、世間は当事者だけでなく、すべてのトラックドライバーに対して「トラックはやはり酒に甘い」という偏見や疑惑を抱くことになる。

運送業界の形態は、事業活動の多くを「人間の労働力」に依存する「労働集約型産業」だ。

この集約型産業には、「人間による労働」以外に付加価値をつけにくい。

つまり逆を言うと、運送事業者が顧客である荷主に対して絶対的に守らなければならないのは、安全に荷物を届けるという「信頼の提供」になる。

荷物を無事に届けることが使命であるドライバーが、リスク要因にしかならない「飲酒」を肯定的に捉え、わざわざその姿を毎日のように世間に晒す行為は、顧客である荷主に対して信頼性を損ねることになる。

いや、信頼性が損なわれるのは荷主だけではない。世間にも「同じ道路を走る大きなクルマ」として、不安や誤解を与える因子になるのである。

マネジメント会社の存在

筆者のもとには前編、中編を公開して以来、「他にも飲酒投稿をしているドライバーがいるのになぜ指摘しないのか」「個人で投稿しているめいめい氏をわざわざ指摘する必要はない」というコメントが多く届く。

中編では、それに対して「めいめい氏の言動を指摘すべき、他のSNSユーザーと違う点が2つある」とした。

1つは中編でも述べたように、同氏が「運送業界に関して発信しているインフルエンサー」であることだ。

フォロワー34万人を抱え、本人原案のドラマや書籍、漫画などを次々発信していることからみても、同氏はもはや私人という立場の人物ではない。

そしてもう1つ、それはめいめい氏が「個人」で活動しているわけではないからだ。

今回の一連の取材で、めいめい氏の周辺にはタレント・インフルエンサーのキャスティング、SNSアカウント運用、広告制作などを手掛けるクリエイターのマネジメント企業が存在していることが分かった。

その存在が明らかになったのは、ドラマや書籍、漫画化よりもずいぶん前の今年3月ごろだった。

メディア関係者への取材では複数の関連企業の名が挙がっているが、今回取材を申し込んで返事があったのは1社(以下「A社」)のみ。

そのA社のウェブサイトには、「熱量の高い消費者を形成し、クライアント、クリエイター、消費者の三者が盛り上がっていく“共騒”をつくりあげ、従来の広告以上の効果を狙う」といった趣旨の文言が記載されている。

このA社には、筆者がNHKやビール会社に申し込んだ取材内容を、筆者が各広報から回答を得るよりも先に把握できる、大手企業やメディア広報担当者に精通する人物がいることも確認している(本稿ではその確認手段の説明は差し控える。また、NHKには、なぜ筆者が送った同局への取材内容をA社側に漏らしたのか問い合わせたが、質問内容を汲んだ回答は返ってこなかった)。

3月、そんなA社にメールにて取材を申し込んだところ「弊社はファンから送られてくるプレゼントを預かっているだけ」という趣旨の回答が返ってきた。

めいめい氏への差し入れを預かることになった経緯に対しての問いには回答はなく、「めいめい氏と弊社は関係ない」とのことだったが、A社に送ったはずの質問事項が、めいめい氏を有志でサポートしているとする「トラックめいめい事務局」のフリーメールに転送され回答がきていることから、事務局とA社が繋がっている、または同一組織であることは間違いない。

余談だが、筆者が出した取材内容はごく一般的な内容だったのだが、返ってきたメールの件名には、「〇〇弁護士より」とあった。

が、弁護士は普通、自身のことを「〇〇弁護士」とは名乗らない。メールの内容から法律を知っているようにも思えず、弁護士登録番号を聞いたが、その後返事が返ってくることはなかった。

筆者のもとに送られてきためいめい事務局からのメール。A社から転送されているのが分かる
筆者のもとに送られてきためいめい事務局からのメール。A社から転送されているのが分かる

A社(回答はめいめい事務局名義、送信元はA社)に、めいめい氏をサポートするきっかけになった経緯を聞いたところ、

「大手代理店からの問い合わせをはじめ、本人(めいめい氏)の意図に反して影響力が広がってしまい、当人および関係者からの相談があったため事務局を構成した次第です」

とのことだった。

めいめい氏においては「某大手広告代理店の案件」との憶測が飛び交っていたが、ドラマのウェブサイトには、実際別の大手広告代理店系列の名前があるため、恐らく同社からの問い合わせを指していると思われる。

また、このA社やめいめい事務局においては、関係する複数の人物が、SNSにおいてその身分を明かさないままめいめい氏を売り込む、いわゆる「さくら」行為をしていることも確認している。

本稿の趣旨とは逸れるため、今回は深く追及しないが、大手メディアなどと繋がる立場の行為としては、非常に危ういものだと感じる。

なぜ同社の存在の公表を避けているのかの問いには、「安全性を考えて」との回答が返ってきたが、「個人で活動をしている」、としたほうがむしろ安全性は脅かされるうえ、ただでさえ「ステルスマーケティング(ステマ)」が問題視されている昨今、A社をはじめとする「プロ」の存在を公開せず、あたかもめいめい氏が個人で活動しているように見せることは、同氏にとってむしろ逆効果だ。

実態の分からない人物が影響力をもつ不気味さ

一連の取材で、女性元ドライバー・ブルーカラーの筆者が最も強く抱いた感情は、メディアやビール会社、警察、さらにはこうしたプロのマネジメント会社といった"多くの大人"が、トラックドライバーへの間違った印象操作に加担している「絶望感」と、「若い女性×酒×トラック」に関する古い価値観を引っ提げ、ブルーカラーの過酷な労働環境を搾取していることに対する「憤り」だった。

筆者がこのシリーズの前編を出した直後、このA社・めいめい事務局関係者はSNSに「投稿画像に写っている酒を全部飲んでいるわけがないだろ」と投稿している。

が、もし投稿している酒をすべて飲んでいないのならば、本当に飲んでいる場合以上に、ある意味悪質だ。

飲んでもいない酒を、よりによってトラックドライバーがわざわざ何本も並べて投稿すれば、業界の印象が悪化することは火を見るよりも明らかであるのに、なぜクリエイターのマネジメントやSNSマーケティングを手掛けるプロの会社や大手のメディアがそれを後押しするのか。

こうした発言からも、ホワイトカラーたちが作り上げた勝手な先入観や価値観によってブルーカラーの現場が「"ホワイト"ウォッシュ」され、搾取される感覚を強く抱く。

筆者が一連の問題で最も感じる憤りは、やはりここにある。

まだまだ根絶しない運送業界の飲酒運転だが、酒と近くなりやすいトラックドライバーがそれでもここまでに抑えられてきたのは、運送業界の酒に対するドライバーへの研修や啓発があったからだ。

未熟なドライバーの経験を鵜呑みにした現場の現状も知らない人たちが、「若い女性×酒×トラック」という意外性と、2024年問題というタイミングに乗り、「自分たちが描くブルーカラー像」をビジネスにした結果、世間には間違った現場イメージが植え付けられ、業界内には最も距離を置かねばならない酒に対しての秩序が保てなくなる。

そんな焦りから、これら3編を執筆するに至った。

今回、めいめい氏所属の運送企業、NHK、フジテレビ、ビール会社、マネジメント会社、そしてめいめい氏本人に取材を申し込んだが、事実上、ほとんどから的を射た回答を得られなかったか、または取材拒否だった。

ジャニーズ問題でメディアの責任が取り沙汰されているのと同様に、もし今後トラックドライバーによる飲酒事件が起きた時、今回の取材にもろくに答えず、安易に彼女を取り上げたメディアはどんな報道をするつもりなのか。

本人はよく「ネガティブな発言はしない」と発言しているが、そのポリシーがあるからといって、都合の悪い取材に答えなくていい免罪符にはならない。

社会的責任・影響力のある人物には、「説明責任」も付いてまわる。

もし今後、トラックの飲酒運転による重大事故が発生した時、彼女に関係なかったとしても、彼女だけでなくトラックドライバー全体が「酒に甘い」とされる。

自分だけアルコールチェックに引っかかっていなければいい、都合の悪い取材には答える必要はない、と考えるのは、インフルエンサー、いや、マネジメント会社としても無責任としか言いようがない。

こうした指摘や憶測に対する取材を受けない、実態のよく分からない人物や組織がこうして人気・社会的影響力をもつこと、もててしまうことに、筆者は個人的に情報社会における不気味さや、危機感を覚えるのだ。

酒では向上しない「ドライバーのイメージ」

一方、社会的にも業界的にも未熟なめいめい氏自身が、周囲からやってくる「誘い」に対して善悪の判断が付かないのは、全く不思議ではない。

だからこそ冒頭で言及した通り、今回の飲酒投稿をするトラックドライバーの問題は、めいめい氏本人より、飲酒投稿をもてはやしブルーカラーを安易にビジネス化する企業やメディアに問題があると感じるのだ。

2024年問題を目前に、めいめい氏は「トラックドライバーのイメージを変えて貢献したい」と言うが、トラックドライバーのイメージは、「酒」では決して向上しない。

めいめい氏自身は、未熟とはいえ運送業界の魅力を伝える投稿も多い。

なにより、彼女は酒を飲まずとも十分魅力的だ。「酒を飲むトラックドライバー」というキャラクターでないとやっていけない存在ではない。

多くの問題を抱える運送の世界で頑張る若い世代は心から応援したい。

SNSをうまく正しく使い、今後も業界は発信する中心人物となってほしいと、陰ながら強く応援している。

※ブルーカラーの皆様へ

現在、お話を聞かせてくださる方、現場取材をさせてくださる方を随時募集しています。

個人・企業問いません。世間に届けたい現場の現状などありましたら、TwitterのDMまたはcontact@aikihashimoto.comまでご連絡ください(件名を「情報提供」としていただけると幸いです)。

フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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