現在、運送業界では慢性的なトラックドライバーの人手不足を解消すべく、あらゆる対策・議論が講じられている。

前回紹介した「トラックドライバー職に対する外国人技能実習生受け入れ」の議論もそのうちの1つだが(筆者はこの案に反対している)、同問題に対してもう1つ業界が力を入れているのが、「女性の受け入れ促進」だ。

自衛隊より少ない女性の割合

内閣府男女共同参画局」によると、令和2年度における女性の就業者は約2968万人、男性は約3709万人で、女性の割合はおよそ44.5%にのぼる。

一方、同年度の女性トラックドライバーの数は約3万人程度。男性ドライバーが82万人で、女性の割合はわずか3.5%にすぎない。

※全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2020

同じく男性社会といわれている「自衛隊」の同割合ですら約7.4%であることからも、日本の女性トラックドライバーの少なさがよく分かる。

※防衛省「女性職員の活躍推進のための改革

『日本のトラック輸送産業-現状と課題-2020』より
『日本のトラック輸送産業-現状と課題-2020』より

こうした「超男性社会」であるブルーカラーの現場には、ある共通点がある。「ジェンダーに対する意識の低さ」だ。

それは、現場の作業員に限ったことではない。各企業や団体、さらにはその業界に関わるホワイトカラーたちからも、「現場の女性観」に対する無理解を感じることがある。

運送業界において、その様子が顕著に表れているのが、2014年に国交省が始めた「トラガール促進プロジェクト」だ。

時代に逆行する"トラガール"

運送業界における女性の活躍を促進するために始まった同プロジェクト。男性社会の業界に女性参画を促すためには、こうした活動は不可欠ではあるのだが、元トラックドライバーの筆者は、これに賛同していない。

真っ先に挙げられる理由は、この"トラガール"という呼称である。

同プロジェクトが始まったあたりから、筆者自身もよく「元トラガールの橋本さん」と紹介されることが増えた。

しかし、筆者には自分が「トラガール」だったという認識も、「ガール」とされて喜ぶ感覚も全く持ち合わせていない。

同じく現役女性トラックドライバーからも、この呼称に対する違和感を耳にすることが少なくない。

「"ガール"と呼ばれるほど若くないし、仕事の現場にこの呼び方はふさわしくないと感じます」(30代女性中距離食品系)

「女だからといってなんでもガールを付けるのはやめてほしい。舐められた気分になるから」(20代女性長距離)

「わざわざそんな言葉をつくって男性と差別化されると、ただでさえ力やスピードの差でバカにされることがあるのに余計仕事がしづらくなる」(50代女性元地場食品系)

トラックの世界だけでなく、男性社会では総じて女性がやたらと「女子」や「ガール」とつけられ、性別での差別化、それも「幼さ」「かわいらしさ」を押し付けられる傾向がある。

しかし、「看護師」や「キャビンアテンダント」、「保育士」などと、職種におけるジェンダーの境をなくそうという時流の中、わざわざ逆行して「トラガール」とするのは、時代錯誤以外のなにものでもない。

特に体力や筋力を要する現場の女性ブルーカラーは、そうでなくとも一部から「女は使えない」、「女性だからといって力仕事を手伝ってもらえるのに給料は男性と同じ」という偏見を持たれることがある。

そんな中、国がすすんで「幼さ」や「かわいらしさ」を醸し出す言葉を使うのは、あまりにも無神経ではないだろうか。

「業界イメージの改善に向けた積極的な情報発信を行う」とする同プロジェクトのウェブサイトには、こうも書いてある。

「近年、少しずつではありますが、業界に華やぎを与える女性ドライバー(トラガール)が増えてきました」

女性トラックドライバーは、業界に"華やぎ"を与えるために入ってきているわけではない。

こうした感覚を国が発信すること自体が「業界のイメージを改善する」どころか、むしろ悪化させていることに気付けないほど、国や業界のジェンダー意識は遅れているのだ。

国土交通省「トラガール促進プロジェクト」のウェブサイトにはピンク字で「華やぎを与える女性ドライバー」とある
国土交通省「トラガール促進プロジェクト」のウェブサイトにはピンク字で「華やぎを与える女性ドライバー」とある

ピンク&水玉柄のトラック

筆者がこの国交省のウェブサイトに紹介されているもので、“トラガール”と並んでズレていると感じるものがある。

女性のために某メーカーが開発したとされるトラックだ。

女性のために開発されたとされるトラック(国土交通省「トラガール促進プロジェクト」より)
女性のために開発されたとされるトラック(国土交通省「トラガール促進プロジェクト」より)

女性トラックドライバーに関する講演会でこのトラックを見せると、会場からは毎度悲鳴と失笑が飛び交う。

「乗りたいと思うか」にうなずく女性ドライバーは、今のところ1人も現れていない。

しかし、筆者がある種ショックのようなものを覚えたのは、このピンク&水玉柄のトラックを開発したのが、トラックメーカーの女性社員たちだったということだ。

「女性の女性による女性のためのトラック」と謳っているが、同じ業界で働く同じ女性であっても、「ピンク&水玉柄のトラック」を開発することが現場の女性ドライバーのためになると思えてしまうその感覚に、ブルーカラー女性に対するホワイトカラーの「無意識の偏見」を感じてしまう。

幸か不幸か、彼らのこうした言動には悪意がない。

しかし、オフィスで働く彼女たちが「ピンク&水玉柄のオフィスを手配され、『事務ガール』」などとされても、違和感を覚えないのだろうか。

男性社会において、女性労働者を取り込むための手段が、毎度どうして「労働の現場では一切見ることのないピンク色」なのだろうか。

無論、中には「トラガール」を自称する女性トラックドライバーもいる。もしかするとピンク&水玉柄のトラックに乗りたいと思う女性もいるかもしれない。

が、「自称や個人の欲求」と「上からのイメージの押し付け」は、その意味合いが全く違う。

現在、同プロジェクトのウェブサイトはほとんど更新されておらず、2代前の総理大臣と国土交通大臣の掲載で止まっているところに鑑みると、同プロジェクトはあまり積極的に稼働していないように見える。

更新されないことそのものが、現場の女性の扱われ方を暗に示しているともとれるのだが、先述した通り、男性社会の業界に女性参画を促すうえでは、こうした活動自体は必要なことだ。

女性トラックドライバーを増やすのに必要なのは、「かわいさを表す呼称」でも「ピンクのトラック」でもない。「現場の女性観に対する理解」である。

この「ピンク色を使っておけば現場の女性が喜ぶ」、「『ガール』や『女子』を謳っていればその業界に入るハードルが下がる」とする「机組」の考えをまず改めない限り、どの現場においても女性参画は成功しない。

※ブルーカラーの皆様へ

現在、お話を聞かせてくださる方、現場取材をさせてくださる方を随時募集しています。

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