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大沢たかお、南米ペルーで歴史の目撃者になった

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
「大沢たかお インカ帝国 隠された真実に迫る」番組ロケ。天野氏撮影・提供。

誰もが映像を撮れ、発信できる時代に、テレビ屋にとってモノを作るベースとはいったい何なのか、、、。プロデューサーやディレクターにそんな話をじっくり聞くシリーズ第3回目の人物を探っているところに、第1回目でご登場いただいたTBSビジョン天野裕士氏から連絡が入った。「大沢たかおさんと世界初の大発見に立ち会いました。南米ペルーで大変なものが出てきたんですよ。これが予定調和ではないテレビの作り方!」という。何が起こったのか、再び話を伺わせてもらった。

番組は「大沢たかお インカ帝国 隠された真実に迫る」(BS-TBS)のタイトルで今晩1月12日(金)と19日(金)の2週にわたって夜7時~8時54分枠で放送される。インカ帝国の遺跡で知られる天空都市「マチュピチュ」から始まるインカ最後の都「ビルカバンバ」の謎に挑むもの。世界の古代文明の発掘番組を作り続けている天野氏はその「ビルカバンバ」に着目し、大沢たかおさんの出演からペルー当局との交渉に至るまで奔走し、「世界初の大発見」をカメラに収めたのだった。

そうは言ってもこの時代に、「テレビでそんなホンモノが発見できるのか。はじめから筋書きがあった話ではないか」と疑いの目も向けられそうだが、自身の耳で聞いてみないことにはわからない。大沢たかおさんと過ごした南米ペルーの取材の旅の話を続けてもらった。(以下、太字=筆者/回答=天野氏)

仕事でマチュピチュに行くことになると、知り合いに言われていた

世界の古代文明の発掘番組を作りづけている天野氏。(写真右)番組スタッフ撮影
世界の古代文明の発掘番組を作りづけている天野氏。(写真右)番組スタッフ撮影

発掘取材は発見ができればスクープに繋がりますが、番組を成立させる難しさもあると思います。それを敢えてなぜ、こだわり続けているのですか?

今の世の中は飛行機でどこにでも行けてしまいますが、未だに人間が簡単に足を踏み入れることができないところが三つあります。一つが天体望遠鏡の先、二つ目は顕微鏡の先とも言えます。そして三つ目は古代の土の中。だからでしょう。今回もその土の中にこだわり、大沢たかおさんとその思いを共有することができました。

大沢たかおさんは今回の番組にはじめから興味を示されていたのですか?

今回のインカの番組をぼんやりと考えていた時、「夢の中で誰かの背中を追い続けるうちに、いつの間にか自分自身の背中とそれとが重なって、気がつくとインカの人としてそこにいた…」というキービジュアルが浮かびました。この時はまだ、大沢たかおさんと一緒に南米を旅するとは思う由もなかったのですが。すると、今度は大沢たかおさんが夢に出てきたのです。すぐさまスタッフに大沢さんの事務所にアポをとるように伝えて、後日、ご本人とお会いすると、「なぜ僕を選んでくれたのか」と聞かれました。正直にその夢の話をしたら、大沢さんは意味ありげに笑って、「仕事でマチュピチュに行くことになると、以前、知り合いの方に言われたのをふと思い出したんですよね」と。

不思議な話でもありますが、出演の承諾を得て、計26日間もの過酷な南米ペルーの撮影に大沢さんは実際に参加されましたよね。関係者周囲から反対などされなかったのですか?

9月の本番ロケを終え、実は諸々スケジュールがずれて、11月に発掘取材のためだけにペルーを、それも日本から5日間もかかる高地ジャングルの現場を再訪したのです。「行くとしても、ディレクターとカメラマンだけだよね?まさか、大沢さん…行くわけないですよね?そもそも、ホントに何か出るの?」と周りには言われましたよ。これが、昨今のテレビの常識らしいですが、有り難いことに、大沢さんと何か不思議とシンクロしていましたから。

番組の顔になる方とどのようなかたちであれ信頼関係を築くことこそが何よりも大切だと言えそうですね。

キービジュアルのイメージについても大沢さんと共有していることがわかりました。大沢さん自身、遠い南米のインカにすでに懐かしさを感じていたのです。インカ発掘を企画したことは必然であったと確信しています。人は12年で同じ周期を繰り返すこともあるようなので、かつて、アマゾン発掘を取材した時からちょうど12年目の昨年、同じ南米のインカ発掘を企画しようと思ったことも理由のひとつにありました。僕に南米を教えてくれた先輩ドキュメンタリストの今は亡き中村稔さんという方がそろそろもう一度南米で発掘をやれと言っているようにも思えたのですよね。ロケハン時にペルーの文化省の担当者が代わったことで話が二転三転してしまい、諦めかけた時にも中村さんの命日である9月10日に現地から風向きが変わった知らせもあったりと。大沢さんはこの12年周期の話にも共感してくれました。「その話、よくわかります。最近ずっと12年のことを考えていて、でも他人に言ってもあまり通じない。昨年、49歳の年は秋くらいから急激に運気がよくなるかもと何となく思っていました。南米の旅で変わると思います」と、本当に嬉しそうに笑っていました。

ロケ台本は書かない。世紀の発見は演出してできることではなかった

赤坂にある番組ビジュアルポスター。天野氏撮影。
赤坂にある番組ビジュアルポスター。天野氏撮影。

限られたロケの期間に、どのようにして発見することができたのですか?

発掘のひと月半前に、現場のまだ手付かずの地面を見て、大沢さんとこんな会話も交わしました。「天野さんが言っていた出そうな場所ってここのことですか?」「はい。ここです」と答えると、「やはり長年、発掘現場を見てきているからわかるのですね、ここから僕も絶対出ると思いますよ」と、大沢さん。でも、何世代もかけて発掘してさえ、そう簡単に発見に結びつくことなどないので、ロケ前にも周りから「大発見なんて、そうそうあるわけない。取り返しがつかなくなる前に止めた方がいい」と言われたこともありました。だって何もやってみないで諦めるのは、悔しいじゃないですか。笑。でも結局、発見しましたからそれでいい。直感に導かれるまま、やらせてもらえて感謝しています。

発見するまで真剣勝負の撮影現場。どのような演出をイメージして撮影されていたのでしょうか?

そもそもロケ台本は書かないので、ロケ台本がないことに戸惑うスタッフもいますが、まず自分を含めてみんなで予想すらできないような、予定調和的ではない驚きを共有しようと思っています。ロケでは僕と大沢さんとの掛け合い漫才のようなリズムの会話が楽しかったです。これまで番組で旅をご一緒させていただいた伊藤英明さんも大森南朋さんも、大沢さんももちろん、言い方はあれですが、飾らない感じで撮れています。大沢さんが感動して感極まるシーンがあるのですが、これも演出して出来ることではありません。

「恋をしなさい」というタイトルの番組テーマソングまで、天野さんご自身が作られていることに驚きです。

さすがに、自分では歌っていませんが。山田タマルさんという素敵なシンガーソングライターにお願いしました。インカやマチュピチュのイメージをお伝えし、テーマソングとは別の曲を山田タマルさんに作ってもらってもいます。実は今回、発掘以外にぜひご覧いただきたいのは、マチュピチュのドローン撮影です。世界各国の撮影クルーの中で僕たちのチームだけが唯一許されました。それは相棒の矢口信男カメラマンが長年をかけ、マチュピチュの最高責任者の学者からその技術を認められ、信頼を得ているからです。その壮大な映像を飾るのが山田タマルさんの天翔ける歌声です。花は過剰エネルギーがあると咲きます。自分のことをまず好きでいないと過剰エネルギーは生まれない。過剰エネルギーゆえ、人のことも好きになるし、世界をより鮮明に感じることもできるのかもしれない。ものづくりは真ん中にいる人の思い込みが強くないとできない。ひとりの思い込みがあるからこそ、真ん中にひとつの作品が完成すると思っています。

発掘番組を通じて、伝えたいことは何ですか?

今のテレビに足りないのはテレパシーです。テレパシーがなければ恋愛もできません。今のテレビに必要なものは、運と過剰エネルギーとテレパシーの3つです。選ばずに偶然を待つことがポイントです。今回の番組では僕と大沢さん、その出会いがはじめからひとつになって見えていた気がします。これも、テレパシーかな。笑。何かを選ぶ人は偶然を偶然としてやり過ごしてしまう。でも選ばれる人は偶然の中に泳いでいます。選んでいるようで、選んではいないのです。軟体動物のようにフラフラと巷間を泳いでいると、右斜め45度あたりから偶然がやってきますよ。そもそも、テレビの人間がテレビの可能性を疑ってしまっては終わり。僕自身は恩返しもしたいから、テレビの灯を消したくないし、まだまだ可能性はあると思っています。

番組を通じて、歴史的な発見の目撃を共有する価値はある。その目撃者となった大沢たかおさん、話を伺わせてもらった天野氏をはじめ、番組に関わった作り手の信念もみえてきそうだ。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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