街を元気にしたい、札幌ローカルコンテンツ事業の香港会議

香港フィルマートで札幌IDC事業の会議が行われた。(写真:アフロ)

全国初のコンテンツ事業を立ち上げた札幌市。ドキュメンタリー番組を使って札幌の魅力を海外発信しようと昨年12月から活動を開始し、先ごろ香港でその集大成が発表されたところだ。自治体が目指す理想の街づくりに近づいているのか。

企画段階から共同制作の相手探しと資金調達

札幌市はドキュメンタリー番組を使って、札幌の魅力を海外発信する新たな国際共同制作支援事業(SAPPORO INTERNATIONAL DOCUMENTARY CO-PRODUCTION PROGRAM、略称IDC)を昨年12月から開始した。事業の背景やキックオフイベントの模様については前回伝えた通りである。https://news.yahoo.co.jp/byline/hasegawatomoko/20161221-00065707/

初年度は、参加する地元放送局や制作会社、独立系の映像制作者がアジア最大のエンターテイメントコンテンツマーケット、香港フィルマートで企画提案し、国際共同制作の道を探ることが最終ゴールに置かれた。その過程に、企画提案のノウハウを学ぶワークショップがあり、元日本テレビチーフディレクター、現在フリーランスの千野克彦氏や香港PCCWメディアクリエイティブマネージャーのサイモン・ライ氏らを講師に迎え、準備を進めてきた。

その集大成が香港フィルマート期間中の3月16日に香港コンベンション&エキビションセンター内の会議室で行われたというわけだ。

今、企画提案は世界の国際映像流通マーケットで盛んに行われている番組流通トレンド。企画提案すること=“ピッチング”と呼ばれている。企画段階から共同制作の相手を探し、資金を集めるために行われるもので、公開形式や非公開、商談ベースなどかたちは様々。制作費を調達できるキーマンを前にプレゼンテーションする、まるで「¥マネーの虎」のようなかたちのものは東京で毎年行われているTokyoDocsなどがある。https://news.yahoo.co.jp/byline/hasegawatomoko/20161111-00064316/

今回、札幌の事業が行ったのは招待者限定の非公開形式で、関係者中心に出席した。しかし、企画提案会議が国際マーケットで定着しつつあるのは確かだが、日本の映像制作者がこうした会議に参加する機会はまだまだ少ない。地方在住の制作者にとっては、東京で行われるTokyoDocsに参加することさえもハードルが高い。それでも札幌市はローカルコンテンツ事業のモデルケースを作ろうと海を越え、香港を舞台に会議の場を作った。

招待者限定の非公開で行われたピッチング。
招待者限定の非公開で行われたピッチング。

中国・広州国際ドキュメンタリー映画祭との連携を示唆

札幌からの企画案は3社から4本。企画の成立を探る海外の相手は香港の放送局TVBとViuTV(PCCW)が参加した。日本語、英語、広東語のトリリンガル通訳が1名つき、1企画30分の時間配分で進められた。

4つの企画案の内容は日本とオーストラリアを行き来する渡り鳥を描く「God of the Snipes 10,000km journey」(プロデューサー:山田佳晴氏・北海道テレビ)、知床のヒグマを扱った「Distance humansand bears」(同)、北海道物産展を追う「7 Magicians of HOKKAIDO FOOD FAIR」(プロデューサー:田中敦氏・北海道放送)、札幌市で結成された逆輸入メタルバンドGYZE密着ロードムービー「Midnight Runners」(ディレクター:山口洋介氏・フリー/プロデューサー:林健嗣氏・制作会社a)というもの。それぞれ10分程度の番組イメージをまとめたトレーラー映像も見せながら、番組内容を説明していった。

すると、TVBとViuTVプロデューサーからは「子ども向きに制作した方が売れる」「1本30分のシリーズ展開に可能性がある」「北海道だから撮影できるという特権があることが魅力的」「音楽ドキュメンタリーは香港では難しい。台湾でニーズがあるのでは」など、次々と具体的なコメントが発言され、熱気を帯びていった。

出席した香港TVBとViuTVのプロデューサー。
出席した香港TVBとViuTVのプロデューサー。

会議も終盤に入り、出席した札幌市経済観光局国際経済戦略室IT・クリエイティブ産業担当太田貴之係長は事業の想いを語り始めた。

「IDCは札幌市が新たに立ち上げた事業で、本日の企画提案会議も全面的に運営をサポートしています。札幌市は映像の力で街を元気にし、世界から注目される街となるよう、地元のテレビ局や映像事業者の方々の海外展開支援に力を入れています。また行政によるサポートのあり方に、日々検討を重ねています。IDCはそのような意識のなかで生まれた、全国初の試みになります。地方レベルの取り組みではありますが、日本の各地域はそれぞれ固有の文化や価値観を持っており、海外に目を向けたとき、そこから創り出されるコンテンツは高いポテンシャルを持つものと信じています。」

これに応えるかのように最後に、キックオフイベントから同事業に協力してきたPCCWのサイモン氏から新たな提案が出された。それは毎年11月から12月にかけて開催される中国最大規模の映画祭「広州 国際ドキュメンタリー映画祭」との連携を示唆するものだった。国際共同制作ドキュメンタリーを推進する広州の映画祭へのプロジェクト参加や人材育成を含めた交流などを構想する。日本とこうした連携はこれまでない。

同事業が継続の方向に進めば、新たな展開も望める。そもそも、自治体がマーケットトレンドに合わせて、コンテンツ事業を探り、クリエイターを育てるという試みは珍しい。日本ではこれが先行事例になっているが、隣国の韓国をはじめアジアや欧米の他国の動きに比べるとむしろ遅い。動画配信勢の勢いが増し、メディア環境が変化している今、市場の流れに合わせた番組事業が必要なはずだ。コンテンツ特区だった札幌市が積極的に進めることにも意味はある。やり方もひとつではない。理想の街づくりに着地させ、札幌市のクリエイターやロケーションを活かすことが大前提になるだろうが、例えば地域を越えて在京のプロデューサーやディレクターが参加できるような自由度があってもいいのかもしれない。助成金を活かしたい自治体と、支援を受けたい映像制作者が同じ方向に目を向けることができるテストケースに今後も育っていくのか注目したい。

札幌IDC事業初年度の集大成となった香港のピッチング会議。
札幌IDC事業初年度の集大成となった香港のピッチング会議。