Yahoo!ニュース

新型コロナウイルスの第6波、何をしたらいい? 医学と心理学からの視点

原田隆之筑波大学教授
(写真:アフロ)

 年明け早々、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が急激に増加し、もはや「第6波の入り口」に入ったとの観測もあります。

 前回の記事では、「医学と心理学の対話:この1年、われわれはコロナとどう闘ってきたのか」として、感染症の専門家である大阪大学教授・忽那賢志先生に、2021年のコロナ対策を振り返っていろいろとお話を伺いました。

 今回は、第6波を見据えて、今後の感染対策、そしてワクチン接種などについてお話を伺いました。

第6波を見据えて

原田:今、一番気になるのは第6波ということだと思うのですが、これは今のところ先生はどのようにご覧になっておられますか。

忽那:今の感染が比較的落ち着いた状態が長く続くことはないだろうというのは、恐らく間違いがないだろうと思います(*この対談は、2021年12月7日に行われました)。今、ワクチン接種をしてからまだ時間がたっていない人が、日本の場合はほとんどなんです。かなり短期間に接種を進めていますので。そういう意味で、今は感染予防効果が高い集団になっていますけれども、時間とともにだんだんその効果が落ちてくることが分かっていますから、そういう意味ではブースター接種を進めていかないことには、また流行は起こってしまうだろうと思います。オミクロンが入ってくるとさらにそれが加速されてしまうかもしれません。

 けれども、それは変異株うんぬんと関係なく、流行というのはいずれまた起こってしまうだろうと思います。感染状況が落ち着いていると、「ブースター接種を」と言っても、ちょっと危機感が伝わりにくいところがあるんですけれども、ブースター接種をしていかないとまた繰り返してしまうのかなと思います。

 ただ、繰り返すと言っても、重症化する人はおそらく減るだろうと思いますので、全く同じことの繰り返しということではないのです。ただ、そういう中でも感染者が増えて、分母が増えるとやっぱり分子で重症者数も増えてしまうと思います。ですから、あまりにも社会がコロナを許容し過ぎて感染者数が爆発的に増えてしまうと、また医療機関が逼迫してしまうことにはなり得ると思っています。

原田:そのブースター接種に関して申し上げますと、私が2021年9月に実施した研究で、9月の時点でのワクチン接種態度と、さかのぼって4月はどうだったかというのを比べてみると、9月の時点ではどの世代も8割、高齢の世代だと9割以上の人が「もう既に打った、打ちたい」というふうに言っていたんですね。しかし、4月の時点だと若い世代の接種希望は、4割ぐらいだったんです。このようにワクチンへの態度というのは、短期間でも状況によってすごく変化するんですね。現実に日本では、8割以上の人が接種したわけですが、だからこれで安心していいかと思うとそうではない。まさに先生が今おっしゃったように、危機感がなくなると、接種態度も変わってくる可能性がある。

 今回、9月にたくさんの人が「打ちたい」と言ったのは、まさに危機の真っただ中にあったわけですね。デルタ株が出現し、医療崩壊だと言われた最中のことで、やっぱりコロナに対する不安とかリスク認知みたいなものが高まっていた。それらが接種態度とすごく関連をしていて、実際の接種率を押し上げたことがこの調査から明らかになっています。しかし、逆に言うと次は下がる可能性もあって、これは本当に安心できないなというふうに思っているんです。特に若い人が今後ブースター接種をするかというと、今、危機感があまりない状態で、何かいい対策というものはあるんでしょうか。

忽那:やはり、若い方々にとっては高齢の人と比べると、そもそも、自分自身に対するメリットというのは相対的には低いと思いますので、なかなか、接種動機につながりにくいとは思うんですが、1つは、「2回目とそんなに副反応は変わりませんよ」というのをお伝えするようにしているんですね。「そうは言っても2回目も副反応は十分つらかったから嫌だ」と言う人ももちろんいるんですけれども、「1回目よりも2回目のほうがつらかったから、3回目はとんでもないことになるんじゃないか」と思っている人も中にはいらっしゃるので、そういう方には情報提供をして、ブースター接種の必要性とともにどれくらいの人で副反応が起こってということをお伝えするようにはしています。

 あとは、「これがいつまで続くんだ」ということをよく聞かれます。つまり「4回目も5回目も必要になるのか」ということですが、これはもう分からないとしか言えないのです。私自身は、多分、2回目と3回目を8か月間隔で打つとして、4回目がもし必要になったとしても、多分、もっと長い間隔になるだろうとは思っています。なので、そんなに短い間隔でどんどん打つということはないだろうとは思いますが、現時点では何も証明できていないので、絶対的なことはなかなか言えないのです。だから、「こんなのいつまでやっているんだ」というような人に、どう伝えていくのかというのは本当に難しいなと思います。

 今の2回接種は8割の方に接種していただきましたが、ブースター接種だとやっぱり8割よりは低くなると思います。そこで何とかブースター接種の接種率を高く持っていければ、日本としても全体として感染者もかなり減らせるのかなとは思っています。それがうまくいけば、ようやく少し光が見えてくるのかなとは思っているんです。なので、そうしたことをどううまく伝えていくのかが私の中でもちょっと課題ではあります。

原田:私自身は何度でも打つつもりではいても、私の周りには20代の学生とかがいて、彼らは「副反応がつらかったから、3回目は絶対に嫌だ」と口をそろえて言うんですね。

忽那:そうですよね。

原田:やっぱり、確かに彼らの気持ちも分かるなというふうにも思って、実際に若い人にはそんなにメリットがあるかどうかも分からないし、こんな嫌な思いをしてまでという気になることは分かる。でも、その反面、もちろん自分自身や家族の感染リスクや重症化リスクは減る。ワクチンを打ったから安心して対面の授業も徐々に始まっているし、旅行に行ったり帰省もできたりというふうなメリットもある。そのへんの合理的な判断というか、これもまた科学的なコミュニケーションの話になるんでしょうけれども、それを地道に続けていくということがやはり大事なことなんでしょうね。

ワクチンパスポートの是非

忽那:そうですね。原田先生は、例えばワクチンパスポートみたいな、そういうワクチン接種者に何かメリットがあるようなことって、やっぱり行動変容にはつながり得るわけですよね、どうなんでしょう。

原田:これは、心理学的に見ると一番効果があると思います。

忽那:やっぱりそうなんですね。

原田:人間というのは利己的にできているので、自分の行動の直後、特に直後であればあるほどいいわけですが、何か行動の直後にいいことがあると、それがその行動をすごく強化してくれるんですね。これは「随伴性強化」と呼ばれるものですが、心理学ではエビデンスがたくさんあるんです。だから、ワクチンパスポートにはいろいろ倫理的な問題も言われるけれども、非常に大きな効果が出ると思います。逆に罰を与えるよりかは、よっぽどこちらのほうがよいですね。罰というか、「未接種の人は仕事に就けません」とか何かネガティブな方向を出すよりは、「接種をするとこんなことができます」というふうな、これも情報の伝え方ということになるんでしょうけれども、すごく効果があることは間違いないと思います。

忽那:阪大病院も流行が落ち着いていた一時期だけ面会制限を緩和していたんですけれども、「ワクチン接種を2回完了した人か、PCR検査で3日以内に陰性を確認している人は面会できるようにします」ということにしていたんです。ワクチン接種者だけってすると、「じゃあ、ワクチン接種していない人は面会できないのか」みたいなことになってしまうので、ワクチン接種をしていない方も面会できる方法を提示するというようなご提案の仕方にしたんです。なので、先生がおっしゃるとおり、ワクチン接種をしていない人にデメリットがあるような見え方にすると結構いろんな反発が大きいので、どちらかって選択肢が与えられていればいいのかなと感じています。

原田:そうですね。あとは、やっぱり、何かもともと持っている権利をなくすのではなくて、プラスアルファというほうが不平等感はなくなりますよね。だから、今は旅行はある程度行ってもいいし、居酒屋でも何人まで飲んでもいい。それは全員に与えられた平等な権利だということにして、ただ、ワクチンを打っていると、ここがお得になりますとかいう方法もありますね。この間、私は久々に出張したときに、ホテルで「ワクチンを接種している人は朝食が無料です」というのがあって、これはプラスアルファの比較的小さなメリットということで、とてもよい方法だと思いました。そんなに大きなメリットでなくてもいいので、何か工夫をしながらみんなが引きつけられるような魅力的なものがあるといいとは思いますけれども、なかなかそのへんの工夫が難しいですね。

第1弾「医学と心理学の対話:この1年、われわれはコロナとどう闘ってきたのか

(2021年1月5日公開)

第3弾「医療従事者へ感謝を あの熱気はどこへ行ってしまったのか

(2021年1月9日公開)

も併せてご覧ください。

(この続きはまた、明日公開します)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

原田隆之の最近の記事