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相次ぐ私人逮捕系YouTuberの逮捕:痴漢対策に関わってきた犯罪心理学者が思うこと

原田隆之筑波大学教授
(写真:アフロ)

私人逮捕系YouTuberの逮捕

 いわゆる「私人逮捕系YouTuber」が相次いで逮捕された。11月13日には「煉獄コロアキ」を名乗る男性が、名誉毀損容疑で逮捕された。

 彼は、チケットの不正転売をしていると誤解した女性を執拗に付け回し、その動画をYouTubeにアップした。しかし、女性は不正転売などには関わっておらず、顔にモザイクもかけずに動画を公開したことが逮捕につながった。

 そして、11月20日には「ガッツch」というYouTubeチャンネルで、痴漢や覚醒剤撲滅を謳って私人逮捕動画を繰り返し公開していた男性が、覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕された。

 ネットの「裏掲示板」で覚醒剤に関するやり取りをしていた男に対し、覚醒剤を持ってくるように応答しておびき出し、相手がやってきたところで、警察に通報しようと計画したのだが、それが覚醒剤所持を教唆したということでの逮捕となった。

私人逮捕の何が問題か

 私はいずれの容疑者についても、犯罪撲滅という目的自体には賛同できるが、やはりその手段には問題が多く、活動内容やそれが犯罪の抑制に及ぼす効果については大いに疑問がある。

 まず、犯罪とは無関係の人を犯罪者と決めつけてネット上に晒すなどというのは問題外である。また、犯罪を教唆してその相手を逮捕しようなどというに行為に至っては、犯罪撲滅どころか、自らも犯罪の共犯者となっているだけである。

 彼らはいずれも犯罪撲滅という正義を大義名分としているが、実は正義を掲げて賞賛を得たい、あるいは視聴数を増やして収益を上げたいという個人的欲求による行動でしかないと批判されても仕方ないであろう。

 今回の逮捕容疑以外にも、ガッツtvでは、駅構内を長時間うろついていただけの人を、盗撮犯だと決めつけて動画を撮影したり、彼らがターゲットとした人を私人逮捕する際に相手を投げ飛ばしたり、羽交い絞めにしたりして制圧したりするという行為が、やりすぎであると多くの人々から批判の的となっていた。

 もっとも、私人逮捕自体は違法ではない。しかし、それにはいくつかの条件があり、重要な条件は現行犯であることだ。そして、その際にも過度な暴力や制圧は許されない。

 したがって、彼らの行為は、一言で言うならば正義の名を借りた人権侵害にすぎない。痴漢や覚醒剤などを本気で撲滅したいと思うならば、何も派手なパフォーマンスをして、その動画を撮影する必要はないし、ましてやそれを公開して収益を得る必要もないはずだ。ガッツchには25万人の登録者がいたというから、それなりの収益を上げていたことが想像できる。

痴漢を減らすには

 煉獄コロアキさんの逮捕を受けて、ガッツchの開設者は、X上で自身のYouTubeチャンネルでの収益が凍結されたことを報告し、今後は政治団体を立ち上げて痴漢撲滅を目指すことを明らかにしていた。同時にクラウドファンディングでの支援を求めていた。

 その際に彼が強調していたのは、あまりにも社会の痴漢対策が遅れていることであり、日常的に多くの女性が被害に遭っているにもかかわらず、それが放置され続けていることへの義憤であった(もっとも、痴漢被害に遭っているのは女性だけではない)。この点については、私も強く同意できる。

 特に大都市圏においては、痴漢が多発しているにもかかわらず、政府や鉄道会社などは、根本的な対策をまったく行っていない。盗撮行為については、刑法が改正されて「撮影罪」が新設され、一定の厳罰化がなされたが、残念ながら厳罰化されたところで犯罪が抑制されるというエビデンスはない。

 現在のところ、痴漢や盗撮などの繰り返される性犯罪を最も効果的に抑止する方法は、こうした犯罪を行った人々に対する「治療」である。なぜなら、この種の犯罪には依存症的なところがあり、罰を受けてもその抑止効果は時間とともに減少し、しばらくするとまた繰り返してしまうからだ。覚醒剤などの薬物使用を繰り返す場合も同じで、当然ながら薬物依存症の治療が必要となる。

 治療を行えば、再犯率は30%下がるとのエビデンスがある。しかし、こうした治療がほとんどなされていないのが現状である。残念ながら、わが国では、これら犯罪行為への「治療」というものが、欧米諸国に比べて著しく立ち遅れている。

 私は、2006年に刑務所内において「性犯罪再犯防止プログラム」が開始されたとき、そのワーキングチームの一員としてプログラムの開発に携わった。そして、その後も精神科クリニックにおいて、性犯罪者の再犯防止を目的とした治療に10年近く携わっている。

 覚醒剤についても、刑務所で実施されている「薬物依存治療プログラム」の開発に携わったほか、長らく国内外で覚醒剤依存症者の治療に携わっている。

憎悪や嫌悪からは何も生まれない

 私人逮捕系YouTuberは、犯罪者を晒し者にして、畏怖させることで犯罪を抑制しようとする。さらに、視聴者にも犯罪者に対する憎悪や嫌悪を煽る。

 もちろん、痴漢などの性犯罪は、撲滅されるべき卑劣な犯罪である。また、当然のことながら、犯罪者は罰せられるべきである。しかし、法治国家であるわが国では、それは法の下で適正な手続きを踏んで行われるべきであり、晒し者にして社会的制裁を与えることは許されるべきではない。

 国連人権規約(B規約)では、以下のように規定されている。

第九条

1 すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する。何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない。何人も、法律で定める理由及び手続によらない限り、その自由を奪われない。

第十条

1 自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、取り扱われる。

 そして、性犯罪者といえども、罰を受けた後は、死刑や無期懲役でもない限り、必ず社会に戻ってくる。そのとき、永遠にデジタルタトゥーとして彼らのことがネット上に残されていれば、そして社会の側では憎悪や嫌悪が渦巻いていれば、行き場をなくした彼らは、いったいどうなるだろうか?

 社会の中に居場所がないのであれば、再び犯罪に至るリスクは増大する。皮肉なことに、罪を犯した者を社会から排除すれば、さらに犯罪リスクが高まるという悪循環にしかならないのだ。

 したがって、ここで重要ことは、彼らが二度と罪を犯さないように、科学的な治療を行って、彼らの犯罪リスクを下げることに尽きる。

 これはなにも性犯罪者や薬物犯罪者に甘くしようと言っているのではない。彼らを憎しみで排除するのではなく、刑罰に加えて治療を行うことで、改善更生と社会復帰を後押しすることこそが、安全な社会の実現のために絶対に必要なことなのである。

 今回、私人逮捕系のYouTuberが逮捕されてしまったが、彼らとて同じである。彼らの容疑が、今後どのように司法の場で判断されるかはわからないが、彼らはいずれ社会に戻ってくる。そのときに、彼らが今回の事件を反省し、社会復帰を目指すのであれば、彼らを憎んだり、嘲笑したりして、社会から排除するのではなく、受け入れる寛容さが社会には求められている。

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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