今井月「原点回帰」

写真:PICSPORT/中村博之

再び、世界舞台へ

リオデジャネイロ五輪200m個人メドレー日本代表の今井月(豊川高校)が、今年も200m個人メドレーで世界水泳日本代表に内定した。積極的に飛び出すレースを展開、得意の平泳ぎを含めた後半の粘りは素晴らしかった。

レース後は、「タイムは遅いです。不安だらけだったんですけど、自分の泳ぎができました」と笑顔を見せた。

泳ぎがかみ合わない苦しさ

昨年のリオデジャネイロ五輪を経験し、世界で戦うことの難しさを実感した彼女は、3年後に向けて練習に励んでいた。しかしその思いとは裏腹に、得意の平泳ぎがかみ合わない苦しい時期を過ごしていた。

昨年、今井は幼少時代から通っていた岐阜の本巣スイミングスクールを卒業し、同じ東海圏の名門・豊川高校へ進学。練習環境の変化とともに練習量が一気に増えた。昨年末に会話した際は「練習についていくので必死です」と充実した表情を見せていた。

しかし、年が明け、日本選手権へ向けてスピードを上げていく中で、平泳ぎがしっくりこないことに苛立ちを覚える。レースでも練習でも気持ち良く泳ぐことができない。悶々と過ごす中で、ひとつの答えを見つけた。

初めてのSOS

悩んだ末、今井がSOSを送った相手は、小学4年生から指導を受けてきた恩師の芝辻泰宏コーチ(本巣スイミングスクール)だった。「2月下旬に本人から連絡がきてね。豊川の小池先生からも連絡もらって。3日で4回練習をみたよ。ドリルをやった。今までやっていた細かい筋肉の陸トレができてないね。特に内転筋が。だから平泳ぎのキックが最後まで打ち切れていなかった。昔やったことをおさらいしようかって」短い時間の中で、かつての恩師はすぐさま課題を見出し、泳ぎを修正して今井を送りだした。その約1ヶ月後に行われたレースでは、短水路(25m)ながら自己ベストタイムを更新。今井は自信を取り戻した。

プライドを捨てて

大きな試合前は、今井とLINEで連絡を取り合うという芝辻コーチだが、「私がアドバイスを送ったのは豊川高校に進学してから初めてですよ。指導者が二人いると迷うでしょ。練習量が増えたし、筋力もついている。豊川でいい練習はできているから。持久力は心配してないね。あとは泳ぎがかみ合えば。私は暇ですから。いつもでウエルカムですよ」と笑顔で話す。

芝辻コーチが話したように、指導方法が違えば、選手は混乱し、泳ぎが崩れることも十分にある。それに加え、新しい環境でスタートした際、現在、指導するコーチとしては、古巣へ戻すことは大きな覚悟がいる。プライドだってあるだろう。

しかし、現在、豊川高校で今井を指導する小池隆治先生は「平泳ぎに関しては、しっくりきていないと聞いていました。本人から芝辻コーチにアドバイスをもらいたいと相談を受けて、迷いはなく、行って来なさいと送り出しました。泳ぎを見てもらうこともありましたが、気分転換になればいいとも思いました」と当時を振り返る。

今井は「本巣(スイミングスクール)に帰るなんて。自分から出て行ったのに、と思っていた。プライドを捨てて話に言った。壁があったので。でも原点に返ることができた。良かった」と心に感じていた壁を取り除くことができた。

二人のコーチ

選手と二人の指導者・・・三者の信頼関係がなければ成り立たない。「本人にとって一番いい方法を考えてあげないといけないですから」と小池先生。「強くなってくれたら」と芝辻コーチも同じ思いだ。

三人に共通していることは、シンプルな気持ち。『強くなりたい』という今井の真っ直ぐな想いと、彼女を『強くしたい』という指導者二人の熱い想い。迷ったとき、立ち止まったときに、帰る場所があることは幸せなことだ。

「チーム ルナ」

代表を内定させた今日の200m個人メドレー決勝前、最後の調整練習をしていた今井の元には、小池先生と芝辻コーチの姿があった。「今日のアップのときも二人がいてくれて」と笑顔を見せた。プライドの壁を越えた先には、笑顔があった。

持久力のアップと共に粘り強さを生んだ小池先生。泳ぎの修正を行った芝辻コーチ。「チーム ルナ」の絆が、より強くなった瞬間だった。

日本選手権最終日。今井がもう一種目、代表権を狙っている200m平泳ぎが行われる。「200m平泳ぎでも気を抜かず、代表になれるように頑張ります」今井がどんな泳ぎを見せてくれるのか、楽しみに待ちたい。