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離婚を切り出すのは夏がベスト?配偶者に離婚を切り出すタイミングと注意点を弁護士が解説

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:アフロ)

1 はじめに

暑い日が続いています。こんな時期に「離婚」なんて切り出したら相手の怒りを買って、まとまるものもまとまらなくなりそう…。そんな風に思われる方もいらっしゃると思います。

写真:アフロ

私は、兵庫県西宮市で家事事件を中心に扱っている法律事務所を経営している弁護士ですが、経験上、離婚を切り出すのに最適なタイミングや時期があり、失敗すると離婚問題がこじれてしまい、取返しがつかなくなることも多々あると感じています。

そこで、今回は、配偶者に離婚を切り出すにあたりどのような点に気をつけないといけないか、離婚を切り出した後のタイムスケジュール等について実務上の注意点等を具体的にアドバイスしたいと思います。

さらに私が離婚を切り出すのは夏がベストと考えている理由についてもお伝えできればと思います。

2 離婚を切り出す際に注意すべきこと

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離婚を切り出す際に注意すべきことは、何と言っても感情的にならないことです。

感情的に話してしまっては、それこそまとまるものもまとまらなくなります。

冷静に話し合いをするためには、離婚したい理由や離婚条件を事前に紙にまとめておくことをおすすめします。

その上で、相手は離婚に同意するのかどうかの意思確認をすることが最も重要です。

同意の有無によって、今後の進め方が変わってきます。

次に、相手に不貞行為(浮気)やDV、モラハラなどの明確な「離婚原因」があるかどうかを確認することも重要です。

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離婚原因は民法770条に規定があります。

① 不貞行為があったとき※相手方配偶者があなた以外の異性と性交渉を行った場合

② 悪意を持って結婚生活を放棄したとき※相手方配偶者が勝手に家出をしたり、相手を家から追い出したり、生活費を家計に入れないなど

③ 3年以上生死不明の状態にあるとき

④ 重い精神病にかかったとき

⑤ その他、婚姻生活を継続しがたい重大な理由があるとき※DV、モラハラや別居により夫婦関係が破綻していると認められた場合など

相手に上記の離婚原因がない場合、離婚を切り出すこと自体はもちろん可能なのですが、明確な離婚原因もなく、かつ相手が離婚に同意しない場合には離婚の話し合いが長引く可能性があります。

一方で、離婚の話し合いをスムーズかつ優位に進めるためには、日ごろから証拠集めをしておきましょう。

写真:イメージマート

証拠を突きつけて説得的に話をすれば、相手も反論ができなくなり、結果的に話し合いがスムーズにいく可能性が高くなります。

最後に、離婚条件の提示に関してですが、よく見かけるケースとして、自分に有利な条件ばかり提示する方がおられますが、あまりおすすめしません。相手が「この人は自分のことしか考えていない」などと不信感を持ってしまうと逆に離婚の話し合いがスムーズにいかない可能性が高くなるからです。

離婚後の相手の生活状況にも配慮したバランスの良い離婚条件を提示した方が実際には効果がある場合が多いです。

3 離婚を切り出すのはなぜ夏がベストなのか?

離婚は、夫婦の一方の意思だけでは前に進みません。夫婦間の話し合いが不可欠です。

話し合いの機会を持つためには、やはり長期の休みの際に離婚を切り出した方が良いでしょう。

子供の夏休みやお盆休みの時期は、両親や義理の両親に子供を預かってもらうなどして夫婦でゆっくり話し合うことが可能となります。

話し合いで双方が離婚に同意した場合には、財産分与や面会交流などのいわゆる離婚条件についても余裕を持って取り決めることができます。

お子さんが未成年の場合には、お子さんの生活環境をなるべく変えないように配慮する必要があります。

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苗字が変わったり、学区が変わるような場合には、小学校、中学校、高校、大学への進学時期に合わせて離婚を成立させるのがベストです。

仮に進学時期に合わせることができなくても、翌年の3月には離婚を成立させておけばお子さんに与えるダメージは少ないですし、実際に法律相談に来られた方で3月までに離婚したいという親御さんは多いです。

そういう意味で、来年の3月までに離婚を成立させるためには、やはり配偶者に離婚を切り出すのは今年の夏がベストということになります。

配偶者が離婚に同意せずに協議が決裂し、離婚調停の申立てをせざるを得ないような場合には、どのようなタイムスケジュールになるのかをご説明します。

写真:イメージマート

例えば8月に離婚調停を申し立てると、9月に1回目の調停期日が開かれる場合が多いです。

そうすると、離婚調停は1ヵ月~1ヵ月半に1度開かれますから、12月までには2、3回程度の調停期日が開かれることとなります。

12月は年末ということもあり、新年に持ち越したくない、今年中にカタをつけたいという心理が働きますから、離婚が成立する確率が高くなります。

12月に離婚が成立すると、翌年の3月までに余裕をもってお子さんの生活環境を整える準備ができるということになります。

お子さんのためにも、中途半端な時期に転校したり、苗字が変わったりすることだけはできる限り避けた方がよいでしょう。

翌年の3月に離婚を成立させるためには、冬休みに離婚を切り出すのではあまり時間がないですし、春休みでは間に合いません。

やはり、夏休みに離婚を切り出すのがベストということになります。

配偶者が定年を迎える等、退職金の給付がある場合

いわゆる熟年離婚の場合、配偶者が定年を迎え、それに伴い退職金の給付がある場合は特に注意が必要です。

配偶者の退職時期を把握し(3月が多いと思われます)、事前に離婚を切り出しておく必要があります。

退職金は老後の生活のための重要な夫婦の財産です。

離婚をする際は退職金も夫婦共有財産になり得ますので、相手が勝手に消費したり隠匿しないように、必ず事前に離婚を切り出して、退職金は夫婦の財産であると注意を喚起しておきましょう。

客観的に見て隠匿される可能性が高いような場合には、事前に弁護士等の専門家に相談して財産の散逸を防ぐ手段を講じておくことが大切です。

翌年3月の退職金を視野に入れるためには、やはり前年の夏に法律相談に行くなど離婚に関する何らかのアクションを起こす必要があります。

離婚を切り出したものの、相手が離婚に納得せず、「悪いところは直すから、もう一度考え直して欲しい」と懇願してくる場合もあります。

離婚は本人だけでなく、子供や周囲の人の人生を変えてしまうこともあり得るだけに、本当にもう一度やり直せるのか、相手の改心の本気度を一度見てもよいでしょう。

夏に離婚を切り出した場合、年末までを目途に猶予期間を与えてみるのも一つの手だと思います。

4 おわりに

今回は、離婚を切り出すタイミングについて夏がベストだと考える理由をお伝えしました。

写真:アフロ

もちろん、配偶者の性格や取り巻く生活状況によって具体的な事情は千差万別ですし、離婚を切り出すベストタイミングはそれぞれの夫婦ごとに異なり一概には判断できません。

夏に離婚を切り出しても、離婚条件について揉めに揉め、結局2年後に離婚が成立したという方もいらっしゃいます。

また、お子さんがおられないご夫婦の場合は、3月に離婚を成立させることにそれほどこだわる必要はないでしょう。

それでも、年末に離婚が成立するケースは実際には多いですし、年末に間に合わせるためにはやはり夏に離婚を切り出すのがベストだと思います。

「離婚」という重大な人生の局面を何とか乗り切っていくためにも、最初の関門である離婚を切り出すタイミングや注意点については事前にしっかりと準備をすることが重要です。

そのうえで、離婚を切り出すタイミングや注意点、配偶者の性格や周囲の状況などを慎重に把握し、時には専門家の意見を聞きながら最適なタイミングを見計らって離婚を切り出せばスムーズに話が進む可能性はかなり高くなると思います。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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