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キングコング西野さんも被害!婚姻届を勝手に出されたらどうすればいい?【弁護士が解説】

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:イメージマート)

1 はじめに

お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣(41)さんが15日、身に覚えのないところで婚姻届を出されていたことを明らかにしました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/ae8d74e693345d699b6975af0aee6cff9c90421d

このニュースを見て、「婚姻届を勝手に提出されることなんてあるの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

私は兵庫県西宮市で家事事件を中心とする法律事務所を経営する弁護士ですが、婚姻届を勝手に出されていたケースは実際に発生しています。

ストーカーや昔の交際相手など付き合っていない異性が勝手に出したとか、彼氏や彼女が勝手に出した、あるいは犯罪に巻き込まれていたといったケースもあります。

今回の西野さんのケースでは、婚姻届に不審な点が多数あったため役所が受理しなかったそうですが、形式面が整っていれば基本的に受理されてしまいます。

いったん役所が受理してしまうと戸籍が書き替えられますので、結婚しようとした際にすでに別の人と入籍していたことが判明した…などといった最悪の事態も十分あり得るのです。

それでは、そもそも知らない間に勝手に婚姻届を出された場合、婚姻は有効になってしまうのでしょうか?

今回は、婚姻届を勝手に出された場合の対処法について解説します。

2  勝手に出された婚姻届は有効?

写真:アフロ

日本では、婚姻が有効に成立するためには、本当に夫婦になろうとする意思(「婚姻意思」と言います。)と婚姻届を提出しようとする意志(「届出意志」と言います。)が必要だとされています。

民法でも「人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき」は婚姻が無効になるとしています(民法742条第1項)

ですので、婚姻届を出されたとしても、婚姻の意思がなければ婚姻は無効となります。

3 婚姻届を勝手に出された場合の対処法

写真:イメージマート

婚姻は無効となりますが、いったん役所に受理されてしまうと、虚偽の内容が戸籍に反映されてしまいます。

なお、虚偽の婚姻届によって戸籍に誤った記載がされないように、婚姻届を提出する際には役所の窓口で運転免許等による本人確認を行います。

婚姻届が婚姻する2人のうちの1人や、親族や友人によって提出された場合には、提出した人の確認を行うとともに、婚姻する2人のうち窓口で確認できなかった人に対しては、婚姻届が受理されたことを通知し、通知書に添付されている葉書を返送するといった手続が必要とされています

虚偽の婚姻届が役所に受理された後、そのまま放置しておくと、婚姻を認めたとみなされてしまい、婚姻が有効になる可能性がありますので、必ず戸籍を元に戻しておく手続きをする必要があります。

戸籍を元に戻すためには、以下のような裁判所での手続きが必要となってきます。

写真:イメージマート

① 婚姻無効確認調停の申立

「婚姻無効確認調停」とは、婚姻届を勝手に出した相手に対し、婚姻が無効であるとの確認をするための話し合いをする手続きです。

話し合いで婚姻が無効であることを確認できれば、合意に相当する審判によって婚姻を無効にできます。

② 婚姻無効確認の訴え提起

婚姻無効確認調停を申し立てても、相手が婚姻の無効を認めないような場合には、家庭裁判所に「婚姻無効確認の訴え」という訴訟を提起し、判決によって婚姻が無効であることを確定する必要があります。

身に覚えのない婚姻届を勝手に出されたようなケースは、ほぼ訴えは認められます。

4 犯罪になる可能性は?

写真:アフロ

婚姻届を勝手に偽造し、提出した場合は下記のような犯罪が成立する可能性があります。

①有印私文書偽造、行使罪

勝手に婚姻届に他人の署名押印をした場合、有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立します。

そして、婚姻届を役場に提出した場合は、偽造有印私文書行使罪(刑法161条1項)が成立し、刑罰はいずれも3か月以上5年以下の懲役刑となります。

②電磁的公正証書原本不実記録等罪

「電磁的公正証書原本不実記録等罪」(刑法157条1項)という犯罪があります。

戸籍は公的な電子記録に該当しますので、偽造の婚姻届を提出して役場を騙し、戸籍を間違った内容に書き換えさせると電磁的公正証書原本不実記載罪が成立します。

刑罰は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金刑となっています。

③ストーカー規制法違反

婚姻届を勝手に提出されただけでなく、つきまとい等の被害にあっている場合には、「ストーカー規制法」が適用できる可能性があります。

深刻なトラブルにならないうちに、早めに警察に相談することをおすすめします。

5 不受理届の提出のすすめ

このように、婚姻届が勝手に出された場合でも、いったん役所が受理してしまうと裁判手続きに依らざるを得ず、煩わしいことこの上ありません。

しかも相手が嫌がらせのために、何度も婚姻届を提出する可能性もあります。

このような事態を防止するために、心当たりのある方やご心配な方は「婚姻届不受理申出書」を提出しておきましょう。

不受理届とは、本人の意思に基づかない届出が勝手に提出されて、戸籍に登録されることを防ぐ制度であり、戸籍法で定められています(戸籍法第27条の2第3項)。

事前にこの申請をしておけば、婚姻届を相手が勝手に出しても、本人の意思確認なしに婚姻届が受理されることはありません。

6 おわりに

婚姻届を勝手に出されることは、今回のキングコングの西野さんの事件のように実際に発生しています。

とは言え、婚姻届よりも「離婚届」を勝手に出したケースの方が圧倒的に多いようです。

写真:イメージマート

婚姻届や離婚届を役所に受理されないようにするためには、不受理の届出をすることが有効です。

婚姻届にしろ離婚届にしろ、勝手に出されるかもしれないといった心当たりやご心配がある方は、1人で悩まず、早急に専門家に相談することをおすすめします。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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