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生活意識は全体と比べややゆとりあり…高齢者の生活意識の変化をさぐる(2023年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
現役を引退した高齢者はゆとり感がどれほどあるのだろうか(写真:アフロ)

生活のゆとり感はお財布の中身だけでなく、さまざまな要素で判断される。現役を引退した人達はどのような心境なのだろうか。厚生労働省の定点観測調査「国民生活基礎調査」(※)の公開値から、その推移と現状を確認する。

今回対象とする「生活意識の状況」は毎年調査が行われており、複数年の調査結果の値を取得できる。これは生活意識について「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」の5選択肢から1つを選んでもらい、その回答を集計したもの。そのうち高齢者世帯(65歳以上の人のみで構成するか、またはこれに18歳未満の未婚の人が加わった世帯)における各年の結果を抽出し、グラフ化したのが次の図。なお2020年は新型コロナウイルス流行の影響で調査そのものが実施されておらず、回答値も存在しない。

↑ 生活意識別世帯数の構成割合(積み上げグラフ、高齢者世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(積み上げグラフ、高齢者世帯)

↑ 生活意識別世帯数の構成割合(折れ線グラフ、高齢者世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(折れ線グラフ、高齢者世帯)

昔から現在に近づくに連れて「苦しい派」(「大変苦しい」「やや苦しい」の合計)が増加していたのは全体値における動向と同じだが、「普通」の減少が2005年前後でほぼ止まり、最近ではむしろ微増の動きすら見られたのが「全体値」との大きな違い。全体値では「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」の値が互いに近づきあう雰囲気すらあるが、高齢者世帯に限ればその動きは顕著なものではない。時代の流れとともに生活への厳しさが積み増しされる点では変わりないが、「全体」と比べて非常にペースはゆるやかといえる。

2014年は「苦しい派」が大きく上昇している。消費税率の引き上げは高齢者世帯の景況感には大きく作用したようだ。それ以降では「苦しい派」がいくぶんの減少を見せているのも全体値と変わらない。直近の2022年では新型コロナウイルス流行による景況感の後退が生じた2021年の反動からか、「苦しい派」が減り、「普通」と「ゆとり派」(「大変ゆとりがある」「ややゆとりがある」の合計)が増えている。

この状況を分かりやすくするため、全体・高齢者世帯ともに「苦しい派」の動きを見たのが次のグラフ。

↑ 生活意識別世帯数の構成割合(「大変苦しい」+「やや苦しい」、全体値と高齢者世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(「大変苦しい」+「やや苦しい」、全体値と高齢者世帯)

1997年と2005~2006年にはほとんど差異が無い状態になったものの、それ以外の期間ではおおよそ5%ポイント前後の違いが生じている。ただ、2014年以降はいくぶん差異が小さくなったように見える。

ただし一つ前のグラフを見返し、「苦しい派」のみで動きを見ると、2005年で約半数に達した後は大きな動きは無かったものの、内部では確実に「大変苦しい」が増加していたのが分かる。「苦しい派」の中でも「大変苦しい」が増加していたこと、それが「苦しい派」を底上げしていたのが、2014年ぐらいまでの高齢者におけるトレンドといえる。そして2015年以降は逆に「大変苦しい」の減少が「苦しい派」の値を下げる要因となっていることも事実ではある。

今件データは「世帯が調査日時点での暮らしの状況を総合的にみてどう感じているかの意識」を選択肢から選んでもらったもの。回答者一人一人の主観によるところが大きい。例えばエンゲル係数や可処分所得の推移のような具体的な数字の変化ではないため、その点を留意しておく必要がある。つまり心理的影響が多分にある。

その上で、高齢者世帯においては全体平均と比べ、生活で余裕があるか否かの点ではやや余裕がある状態が続いている。この実情は把握しておいても損はあるまい。

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※国民生活基礎調査

今調査は全国の世帯および世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2022年6月2日に世帯票・健康票・介護票、同年7月14日に所得票・貯蓄票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収され、集計されている(一部は密封回収)。回収の上集計が可能なデータは世帯票・健康票が20万3819世帯分、所得票・貯蓄票が1万9140世帯分、介護票が5499世帯分。今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2022年分)は大規模調査に該当する年であり、世帯票・健康票・介護票・所得票・貯蓄票すべての調査が実施されている。

また1995年分は阪神・淡路大震災の影響で兵庫県の分、2011年分は東日本大地震・震災の影響で岩手県・宮城県・福島県(被災三県)の分、2012年は福島県の分、2016年は熊本地震の影響で熊本県の分、2020年は新型コロナウイルス流行の影響で全体のデータが取得されておらず、当然各種結果にも反映されていない。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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