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情報機器を使わない高齢者の理由をさぐる(2019年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ パソコン教室で必死に勉強する高齢者の姿も見受けられるが、それすらしない人も。(写真:アフロ)

「必要性を感じない」が一番

少なからぬ高齢者がFaxやパソコン、携帯電話などの情報機器は使っていない。なぜその人達は使っていないのか。主要国の実情を内閣府が2016年5月に発表した高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(※)の最新版から確認する。

今調査対象母集団では少なからぬ高齢層が情報機器(Faxやパソコン・携帯電話そのものやそれを使ったインターネットの利用までも含む)を使っていないと回答している。

↑ 情報機器の利用状況(60歳以上、複数回答、「いずれも使わず」、国別・年齢階層別)(2015年)
↑ 情報機器の利用状況(60歳以上、複数回答、「いずれも使わず」、国別・年齢階層別)(2015年)

そこでその項目で「情報機器を使っていない」と回答した人に、なぜ使っていないのかを複数回答で尋ねた結果が次のグラフ。諸国とも一番多くの人が同意を示したのは「必要性を感じない」だった。日本とドイツで7割台、アメリカ合衆国で6割近く、スウェーデンでも4割強の人が答えている。

↑ 情報機器を利用しない理由(60歳以上、複数回答、使っていない人限定、国別)(2015年)
↑ 情報機器を利用しない理由(60歳以上、複数回答、使っていない人限定、国別)(2015年)

国ごとに多少の違いはあれど、「情報機器を使っていない」の次に大きな理由は「使い方が分からない」で2割前後。これは「必要性を感じる、使いたいと思っているが、使い方が分からないので使えない」と解釈することができ、情報機器を普及させるべきであると考えるサイドにとっては、「必要性を感じない」よりも可能性の高い属性だと言える。

高齢層の情報機器普及率に関し、世間一般でよく理由として想定される費用の問題「お金がかかる」はスウェーデンでゼロに近く、他国でも1割前後でしかない。それを理由にしている人は存在するが、少数意見でしかない。また同様に、高齢者の身体的な問題に絡んで大きな理由として語られる「文字が見にくい」も1割足らず。

実のところ「高齢者の情報機器離れ」の原因は、多分に「生活の中で必要性を感じない。必要のないものを使う理由が無い」「使いたい、興味はあるが使い方が分からないので使えない」の2要素であることが分かる。

日本の実情を属性別に

続いて日本に限るが、属性別の動向を確認する。まずは男女別。

↑ 情報機器を利用しない理由(日本、60歳以上、複数回答、使っていない人限定、男女別)(2015年)
↑ 情報機器を利用しない理由(日本、60歳以上、複数回答、使っていない人限定、男女別)(2015年)

男女で大きな違いは無い。男女ともに必要性を感じないのがトップで、次いで使い方が分からない、その次にコストの問題がつく。文字が見にくいはその次となる。中には「文字が見にくい」以外の身体的な理由、例えばスマートフォンならフリックやタップが難しいとの人もいるだろうが、少数派でしかない。

次は年齢階層別。

↑ 情報機器を利用しない理由(日本、60歳以上、複数回答、使っていない人限定、年齢階層別)(2015年)
↑ 情報機器を利用しない理由(日本、60歳以上、複数回答、使っていない人限定、年齢階層別)(2015年)

「必要性を感じない」の85歳以上でイレギュラーが起きている感があるが、おおよそ年を取るに連れて「必要性を感じない」が減り、「使い方が分からない」が増えていく。つまり現状の高齢層のうち情報機器を使っていない人においては、若い人たちほど利便性を知らず、年上の人ほど使いたい・興味関心があるけれど分からないので使えないとする人たちが多いことになる。他の項目は年齢階層による法則性のある差異は見られない。

一つ注意してほしいのは、今件は最初のグラフにある通り、「情報機器を利用しない人」に限定していること。情報機器非利用者は年上ほど比率的に増える傾向があるため、若い年齢の人達は「必要性を少しでも感じている人は自発的に使いこなしている」にシフトしている可能性が高い。

「必要性を感じない」が、現状の日々の生活で満足しており、何か新しいことをするために努力をしたりコストを投入して覚える必要性を感じないのか。それとも生活にもプラスとなり存在を知れば利用に前向きとなるはずだが、その存在を知らないだけなのか。あるいは利便性を多少は認識しているが、費用対効果を考えると不必要と判断しているのか。どれかまでは分からないが、社会情勢上は高齢層への情報機器の普及が望ましい昨今において、考えさせられる結果には違いない。

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※高齢者の生活と意識に関する国際比較調査

今調査は5年毎に行われているもので、最新分は2015年9月から12月にかけて日本、アメリカ合衆国、ドイツ、スウェーデンにおいて、60歳以上の男女(老人ホームなどの施設入所者は除く)に対して調査員による個別面接聴取方式によって行われたもので、有効回答数は各国とも1000件強。それぞれ男女別・年齢階層別・地域・都市規模などを基準にウェイトバックが行われている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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