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4マスは両社ともすべてマイナス(電通・博報堂売上動向:2017年9月分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 電車内の広告も立派な広告。日本の主要広告代理店の動向は…(ペイレスイメージズ/アフロ)

4マスは両社ともすべて前年同月比でマイナス

日本の広告代理店で売上ではツートップとなる電通と博報堂(※)。両社の月次売上で直近分となる2017年9月分が出そろった。その内容を精査する。

まずは両社の主要項目ごとの前年同月比を計算し、グラフ化する。

↑ 二大広告代理店(電通・博報堂)の2017年9月分種目別売上高前年同月比
↑ 二大広告代理店(電通・博報堂)の2017年9月分種目別売上高前年同月比

昔ながらの主力メディア、具体的にはテレビ・ラジオ・新聞・雑誌の動向を確認すると、今月は紙媒体ではすべてマイナス、ラテと呼ばれる電波媒体もすべてマイナス。全体的には軟調。

電通の紙媒体はここしばらくの間軟調さが続いているが、今月は新聞・雑誌共にマイナスで1割超えの下げ幅。インターネットなどにいくぶんのコンテンツの移行がなされているとはいえ、紙媒体離れが確実に進んでいるようだ。

インターネットは博報堂のみプラス。わずかながらもプラスを計上した博報堂だが、前年同月でもその時の前年同月比でプラス38.9%を計上しており、反動による大きな足かせを振り払い、さらに上昇した次第(2年前同月比を試算するとプラス43.9%)。この傾向は数か月継続した動きで、博報堂におけるインターネット広告の成長ぶりがうかがえる。なお電通は前年同月(プラス15.5%)の反動を受けて沈んだ形となったが、2年前同月比を算出するとプラス11.1%となる。

4マスやインターネット以外の一般広告は電通がやや軟調。博報堂は「その他」が大きく伸び、それ以外も全部がプラス。グラフの方向性では下半分において大よそ青(電通)が左で赤(博報堂)が右となっている。

両社の各年9月の売上総額の推移

次のグラフは電通の今世紀(2001年以降)、博報堂の2006年以降における、毎年9月分の売上高総額をグラフにしたもの。年を隔てた上で同月における比較となるので、選挙やオリンピック、FIFAワールドカップのような、広告と深い関係を持ち、売り上げに大きく影響を与える事象が無い限り、季節による変動を気にせず中期的な動向を確認できる。

↑ 電通月次売上総額推移(各年9月、億円)(~2017年)
↑ 電通月次売上総額推移(各年9月、億円)(~2017年)
↑ 博報堂月次売上総額推移(各年9月、億円)(~2017年)
↑ 博報堂月次売上総額推移(各年9月、億円)(~2017年)

電通では2011年の大きな伸び(「その他」部門が躍進したのが記録にあるが詳細は不明)を除いて考えると、リーマンショックによる不況で落ち込んだ2009年を底に順調に回復していたものの、2016年を天井に景況感が失速しているように見える。博報堂でも2011年にイレギュラー的な上昇とその後の大きな下落があったものの、それを除けば少しずつだが順調な伸びを継続している感はある。直近の2017年9月は前年同月と比べて落ちてはいるが、正直なところ誤差の範囲。

今件記事では日本の大手広告代理店として、売上高、取扱い領域の幅広さ、対象地域の広さ、日本国内に与える影響力など、多数の面で最上位陣営となる電通と博報堂2社の動向を精査している(もちろん日本には両社以外にも多数の代理店が存在する)。一方で両社は同程度の規模では無く、売上・取扱広告の取扱範囲には小さからぬ違いがある。

そこで次に両社部門の具体的な売上高を併記したグラフを生成し、その実情を確認する。それぞれの部門の具体的な市場規模や、両社間における違いが、成長度合いでは無く現状の売上の観点で把握できる。

↑ 電通・博報堂DYHDの2017年9月における部門別売上高(億円)
↑ 電通・博報堂DYHDの2017年9月における部門別売上高(億円)

インターネットは毎月目覚ましい成長率を計上しているものの、売上金額=市場規模としては他のメディアと比較すると特段大きいわけではない。また、4マス以外の一般広告市場が大きな規模を示していること、テレビの広告市場がひときわ巨大であることなどが一目でわかる。テレビは電通、博報堂共に、各社の全売り上げの約4割もの額面を示している。

一方電通と博報堂との間では、全項目で電通の方が単月売り上げは上。部門によって得手不得手があるため、ラジオのようにあまり変わらない部門もあれば、テレビのように大きな差を示す部門もある。

今回分の2017年9月分は4マスが不調、インターネットで博報堂が好調なことなど、ほぼいつも通りの動き。ただし電通の軟調ぶりが気になる。

↑ 月次における4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(電通、2015年1月以降)
↑ 月次における4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(電通、2015年1月以降)

最近では額面の大きなテレビがプラス圏を大よそ維持していたが、直近6か月ではマイナスに沈んだままで焦りを覚える。また新聞や雑誌の軟調さは相変わらず。雑誌のプラス圏への顔見せは2015年4月と8月、2017年6月の3か月、新聞は2016年8月と2017年2月の2か月に限られている。このまま沈んだままなのだろうか。

■関連記事:

30年近くに渡る広告費推移をグラフ化してみる(経済産業省データ)(上)…4マス+ネット動向編

30年近くに渡る広告費推移をグラフ化してみる(経済産業省データ)(下)…ネット以外動向概況編

※グラフなどにおける社名や項目の表現について

項目名は両社で多少表現を違えているが、インタラクティブメディア(電通)=インターネットメディア(博報堂)=インターネット、OOHメディア(電通)=アウトドアメディア(博報堂)である。

一部で博報堂について博報堂DYHDと表記しているが、これは博報堂DYホールディングスを指す。博報堂DYホールディングスは「博報堂」「大広」「読売広告社」と「博報堂DYメディアパートナーズ」を完全子会社として傘下に置く広告グループの持株会社で、今記事では公開されている「博報堂」「大広」「読売広告社」の広告代理店子会社3社の売上を合算して各種計算を行い、博報堂(DYHD)の売上としている。また、記事中の表記も原則として「博報堂」は「博報堂DYホールディングス」を意味する。子会社の博報堂単体の動向では無いことに注意。

(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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