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「真の失業率」も算出・「仕事はしたいが求職活動はしなかった」人の最新動向

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 「仕事はしたいけど就活はまだ先でいいや」的な人も居る

「完全失業者ではないが就職を希望する人たち」とは

世間一般に語られる失業率とは「完全失業率」を意味し、これはILOの国際基準に則る形で算出されている。具体的には「完全失業者÷労働力人口×100(%)」との計算式があり、この「完全失業者」とは「仕事についていない」「仕事があればすぐにつくことができる」「仕事を探す活動をしていた」の3条件すべてに当てはまる人を指す。

一方でこの3条件のうち一つでも当てはまらず、かつ現在雇用されていない人は「非労働力人口」に該当する。2015年分の労働力調査によると、日本の非労働人口は4467万人。そのうち「就業希望者(就業を希望しているものの、求職活動をしていない人)」は412万人となる。

↑ 非労働人口のうち就職希望者合計の推移(万人)
↑ 非労働人口のうち就職希望者合計の推移(万人)

「非労働人口のうち就職希望者」の実情はさまざま。「この景気では就職活動をしても無駄骨になりそう。就職はあきらめるか」と考えた人、「病気で身体を壊して静養の必要がある。就職したいが、無理はしないでおこう」との考えを持つ人、「子供が生まれるので出産と育児で忙しい。仕事は断念」な人などなど。

そこで、その内訳を示したのが次のグラフ。「非労働人口のうち就職希望者」で一番回答として選ばれそうな、「適当な仕事がありそうにない」人は2015年では121万人。「非労働人口のうち就職希望者」全体に占める割合は29.4%、3割近くを占めている。

↑ 非労働力人口のうち就業希望者の内訳(2013~2015年)
↑ 非労働力人口のうち就業希望者の内訳(2013~2015年)

昨今これまで以上に注目を集めている「育児休業」と密接な関係がある「出産・育児のため」の値は1/4近く。また今後さらに大きな社会問題化しそうな「介護・看護のため」の回答が5%前後いるのが確認できる。「適当な仕事がありそうにない」は減少しており喜ばしい状況だが(121万人、前年比マイナス3万人)、「出産・育児のため」「介護・看護のため」の2項目は今後特に注目していく必要がある。

「適当な仕事がありそうにない」と「景気が悪くて就職活動をあきらめた人」と

上記「非労働力人口のうち就業希望者の内訳」で、「適当な仕事がありそうにない」に関してその内訳を細かく確認し、人数推移を示したのが次のグラフ。

↑ 非求職理由のうち「適当な仕事がありそうにない」の内訳別にみた、就業を希望するが就職活動はしていない「非労働人口」の推移
↑ 非求職理由のうち「適当な仕事がありそうにない」の内訳別にみた、就業を希望するが就職活動はしていない「非労働人口」の推移

「リーマンショック」の2009年以降、「非労働人口」においても、それ以前とは状況が異なる様相を見せていることが把握できる。景気連動性の高い「今の景気や季節では仕事がありそうにない」の動きを見る限り、直近では2009年を直近における最悪期として、労働市場の最悪期は脱しつつあると考えられる。

直近年となる2015年においては「勤務時間・賃金などが希望にあう仕事がありそうにない」「近くに仕事がありそうにない」が1万人増加し、「自分の知識・能力に合う仕事かありそうにない」が横ばいとなった一方で、「今の景気や季節では仕事がありそうにない」「その他適当な仕事がありそうにない」は減少。特に「今の景気や季節では仕事がありそうにない」はデータが取得できる2002年分以降では最低値にまで低下している。地域による格差はありそうだが(「近くに仕事がありそうにない」の増加がそれを示唆している)、全体的には労働希望者の選り好みによる就職活動の回避の動きが強まり、労働市場が改善しつつあることがあらためて認識できる。

冒頭で触れたように、「完全失業率」にはミスマッチを懸念しての敬遠では無く、「景気が悪くて就職活動をあきらめた人」(2015年では5万人)は入っていない。「だから本当はもっと失業率・失業者は上のはずで、公表値はまやかしだ」との話を見聞きする。この意見に基づき、2015年の完全失業者数(222万人)と比較すると、5万人との値はそれなりに大きな値となる(2.3%分)。

仮に概算すると、労働力人口が6589万人・完全失業者数は222万人、ここに5万人を追加して、(222+5)÷6589=3.45%。これが一部で語られている「真の失業率」となる。公式の完全失業率の3.37%とは0.08%ポイントの差。

仮に「ミスマッチの懸念による就活忌避もすべて失業者とすべきだ」との意見を取り入れ、「適当な仕事がありそうにない」(121万人)をすべて「真の失業者」として計上すると、この値は5.21%にまで上昇するが、この仮定はあまりにも無理がありすぎる。「(完全)失業」との言葉の定義そのものの根底から再検討しなければならなくなる。あるいは不完全失業率とでも提起すべきか。

「仕事を探す活動」の定義

余談ではあるが、「完全失業者」の要件の1つ「仕事を探す活動をしていた」に関して、これを「ハローワークに登録していること”のみ”」と誤解している人が多い。しかし実際には「労働力調査に関するQ&A」にある通り、

公共職業安定所(ハローワーク)に登録して仕事を探している人のほかに、求人広告・求人情報誌や学校・知人などへの紹介依頼による人、直接事務所の求人に応募など、その方法にかかわらず、仕事を探す活動をしていた人が広く含まれる

と定義されている。誤解なさらぬよう、ご注意あれ。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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