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なぜか12月に多い南海トラフ地震、戦時下に起きた東南海地震から79年

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
内閣府ホームページより

東南海地震から79年

 79年前の今日、1944年12月7日13時36分ごろに、昭和東南海地震が発生しました。想定される南海トラフ地震の震源域の東側で起きた巨大地震で、地震規模はマグニチュード(Mj)7.9(モーメントマグニチュード(Mw)8.2)とされています。強い揺れや液状化、津波による被害が甚大でしたが、太平洋戦争真っ只中の地震であったため、国民に被害実態は知らされず「隠された地震」とも呼ばれています。被災地の名古屋周辺には軍需施設が集中しており、強い揺れで三菱重工名古屋航空機製作所道徳工場や中島飛行機山方工場などが倒壊し、翌週12月13日には飛行機エンジン工場の三菱発動機が米軍の空襲により被災しました。同日には東洋一の動物園と称された名古屋市の東山動物園の猛獣が空襲時に危険だという理由で射殺されています。さらに翌月45年1月13日未明に誘発地震とも言える三河地震が発生し、東南海地震で損壊していた家屋の多くが倒壊しました。

 この時点で戦争を終結する決断ができていたら、その後の東京大空襲や沖縄戦、原爆投下などでの民間人の犠牲を防げたと思うと無念でなりません。戦争終結後にも、46年昭和南海地震、48年福井地震が起きました。1923年関東大震災から福井地震までの四半世紀で、我が国は大正デモクラシーの民主的な時代から敗戦後の貧困の時代へと大きく変わりました。その後の復興は、1950年朝鮮戦争の特需によるものであることも忘れてはいけないことだと思います。

最近4回の南海トラフ地震はすべて12月に発生

 東南海地震を始めとした最近4回の南海トラフ地震は何れも12月に発生しました。昭和東南海地震は44年12月に起き、その2年後の46年12月21日には、震源域の西側で昭和南海地震が起きました。昭和の地震は小ぶりで、駿河トラフの震源域が割れ残ったこともあり、駿河トラフ周辺で起きる東海地震が切迫していると考えられ、1976年に東海地震説がとなえられました。

 安政地震の時は、1854年12月23日に安政東海地震が、32時間後の翌日12月24日に安政南海地震が起きました。さらに12月26日には豊予海峡の地震も起きています。何れも12月です。安政南海地震による津波被害の様子は、かつて国語教科書にも掲載された「稲むらの火」の物語で有名です。ちなみに、この日は旧暦の11月5日に当たるため、11月5日は「世界津波の日」や「津波防災の日」に指定されています。

 過去に南海トラフ沿いで発生した中でも最大級の地震である宝永地震(1707年10月28日に発生)では、南海トラフ沿いの震源域全体が同じ日に地震を起こしました。実はこの4年前に起きた元禄関東地震は03年12月31日、宝永地震の49日後に起きた宝永の富士山噴火は07年12月16日と、これらも12月です。最近では、21世紀最大の地震だったスマトラ島沖地震が2004年12月26日に発生しました。12月も余すところ24日、何事もなく新年を迎えたいものです。

連続する地震と南海トラフ地震臨時情報

 昭和、安政、宝永の過去3回の地震を見るだけでも、南海トラフ地震の起き方は多様なことが分かります。宝永地震のように震源域全体が一度に活動したり、安政や昭和の地震のように東西で分かれて起きたりします。宝永と安政と昭和の時間差はそれぞれ147年、90年で幅がありますし、東西の地震の時間差もほぼ同時、32時間(30時間という説もあります)、2年と差があります。宝永・安政・昭和の地震規模は大・中・小で、大きな地震が起きると次の地震までの時間が長く見えます。そのような考え方(時間予測モデル)に基づいて、政府地震調査研究推進本部は、今後30年間の地震発生確率を70~80%と評価しています。ただし、この確率はモデルの考え方によって相当に変動するので注意が必要です。

 過去の南海トラフ地震では、半割れの地震(想定震源域のうち東西どちらかの半分で地震が起き、大きな被害が出ている地域とまだ被害が出ていない地域がある状態)が発生すると、その後、残りの場所でも地震が起きています。世界中の同様の地震を調べると、先発地震の直後に後発地震が起きやすいようです。このため、東西のどちらかで半割れの先発地震が起きたら、気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)を発表し、警戒を呼び掛けることになっています。とくに、津波からの避難の猶予時間が不足する地域は、自治体が事前避難対象地域に指定し、1週間の事前避難を呼びかけます。その時にうろたえないよう、是非、内閣府のホームページなどで南海トラフ地震臨時情報について調べてみてください。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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