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2022年の災禍を振り返る、地震、電力ひっ迫、漏水、通信障害…社会インフラの脆さが露呈した1年

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
明治用水頭首工(著者撮影)

コロナ第6波の感染拡大と共に始まった2022年

 2022年も残り1週間を切りましたので、この1年を振り返ってみたいと思います。今年も、コロナのまん延から始まりました。第6波の感染拡大により、年明け早々の1月9日に沖縄、山口、広島の3県でまん延防止等重点措置が適用され、1月21日に13都県が、さらに、1月27日に18道府県、2月5日と2月12日に和歌山県と高知県が追加され、37都道府県に拡大適用されました。そして、3月21日にすべてが解除されました。この時の新規感染者数は、1日当たり最大10万人程度でしたが、7月に訪れた第7波では、8月19日に26万人を超える新規感染者が出ました。10月には少し収まりましたが、その後増加に転じ、先週21日には再び20万人を超えました。重症患者は減っているようですが、人が集まる年末年始が心配です。

トンガの海底火山噴火によって日本にまで津波が到達

 1月15日に、南方のトンガにある海底火山のフンガ・トンガが大規模噴火しました。この噴火によって、世界各地の沿岸で潮位変化が観測されました。日本でも奄美大島で1.2mの潮位変化を検出したため、北海道から沖縄県の太平洋岸に津波警報や注意報が発令されました。それまでは、津波は地震によるものと考えられていましたが、防災上の観点から発表されました。日本列島の広範囲に津波警報や注意報が発表されたのは2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以来のことです。

日向灘沖の地震で南海トラフ地震臨時情報に一喜一憂

 1月22日の午前1時8分ごろに日向灘の深さ45キロでM6.6の地震が発生し、大分県や宮崎県で最大震度5強を観測しました。震源は南海トラフ地震の想定震源域の近くですが、沈み込むフィリピン海プレートの内部での地震でした。南海トラフ沿いでの地震に関しては、気象庁マグニチュード6.8以上の地震が起きると「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」が、モーメントマグニチュード7.0以上の地震では「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が、プレート境界上でのモーメントマグニチュード8.0以上の地震では「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が、気象庁から発表されることになっています。

 この地震では、気象庁は、1時8分44.8秒に地震波を検知し、4秒後の1時8分48.8秒に緊急地震速報第1報と緊急地震速報(警報)を発表しました。このときは、震源深さ10km、M7.2、最大予測震度6弱程度以上と推定されました。緊急地震速報の最終報は第26報で、1時10分40.4秒に発表され、深さ40km、M6.8で、最大予測震度は5強程度以上でした。その後、震度速報の発表と共に、速報値として深さ40km 、M6.4が発表され、さらに暫定値として、深さ45km、M6.6が示されました。Mが6.8を下回ったので、南海トラフ地震臨時情報は発表されませんでしたが、マグニチュードの変化の中、気象庁の担当者は一喜一憂したのではないかと想像されます。もし、南海トラフ地震臨時情報が発表されていたら、初めてのことで、日本中大騒ぎになっていたと思われます。

 ちなみに、12月16日には、南海トラフ地震臨時情報とよく似た仕組みが、日本海溝・千島海溝沿いの地震に対しても導入されました。北海道・三陸沖後発地震注意情報と言い、M7.0以上の地震が発生すると気象庁から発表されることになります。

新幹線が脱線し大規模停電も発生した福島県沖の地震

 3月16日23時36分32.6秒に、福島県沖の沈み込む太平洋プレート内の深さ57kmでM7.4の地震が起き、宮城県と福島県で最大震度6強、宮城県北部で長周期地震動階級4の揺れを観測しました。この地震では、3人が死亡し、5万棟近くの住家が被害を受けるとともに、営業中の東北新幹線が脱線し、大規模な停電が発生しました。

実は、この地震の2分前の23時34分27.0秒に、福島県沖の深さ57kmを震源とするM6.1の前震が発生していました。前震による緊急地震速報(警報)が23時34分52秒ごろに発表されたため、本震による強い揺れが到達する前に新幹線は停車していました。もしも前震が起きていなかったらと思うと、ぞっとします。

 この地震では、多数の火力発電所が停止し、東北地方や関東地方などで大規模な停電が発生しました。とくに東京電力管内ではブラックアウトを防ぐため、安全装置が作動して200万戸を超える停電となりました。3月21日には、発電所の停止と悪天候・気温低下に備え、経済産業省がはじめて「電力需給ひっ迫警報」を発出しました。

能登半島での群発地震

 6月19日にはM5.4の地震が発生し、珠洲市で最大震度6弱の揺れを観測しました。能登半島先端部では、2020年12月から地震活動が活発になり、6月20日にM5.0、最大震度5強の地震が、9月16日にM5.1、最大震度5弱の地震が発生するなど、本年だけでも震度4以上の地震が10回も発生しています。この群発地震の原因としては、地下から上昇した流体に伴う岩盤の膨張などが指摘されています。ちなみに、能登半島周辺では、2007年3月25日にM6.9の能登半島地震が、1993年2月7日にM6.6の能登半島沖の地震が発生しており、今後の地震活動の推移が心配されます。

連続して来襲し激甚災害に指定された台風14号と台風15号

 9月には、台風14号と15号が相次いで来襲しました。台風14号は、日本列島に接近する直前に中心気圧が910hPaと、1959年伊勢湾台風(929hPa)や1934年室戸台風(911hPa)を上回る強さになりました。このため、最悪の事態も心配されましたが、9月18日に鹿児島市付近に上陸したときには中心気圧は935hPaとなり、九州を横断した後、日本海側を通って東北地方を横断して温帯低気圧になりました。各地で記録的な大雨や暴風が発生し、死者5名を出すなど、沖縄県から秋田県に至る27県で被害が報告されています。

 一方、台風15号は、規模は大きくはなかったものの、静岡県の中西部を中心に猛烈な雨が降り、3名の犠牲者を出すとともに、7万6千戸で断水などが生じました。14号と比べ、事前の気象情報が十分でなかったことが指摘されたりしました。

明治用水頭首工の漏水から始まった社会インフラの不具合

 5月17日に愛知県を流れる矢作川の明治用水頭首工で漏水事故がありました。パイピングによって水を貯められなくなり、明治用水に取水できなくなりました。建設して60年を超える施設だったこともあり、社会インフラの老朽化がクローズアップされました。明治用水は、碧海台地を「日本のデンマーク」と呼ぶ田園地帯に変えた日本三大農業用水の一つですが、現在では、西三河工業用水や市町の水道水にも利用されています。田植え時期を迎える中、農業生産額1000億円に加え、出荷額30兆円弱の製造業を支えているため、石炭火力発電や自動車生産などへの影響が心配されました。幸い、農業者の配慮や、産業界が進めていた水の備蓄や井戸の活用などの自助・共助によって影響は最小限にとどまりました。

電力需給のひっ迫

 福島県沖の地震後に出された3月21日の電力需給ひっ迫警報に加え、6月26日には東京電力管内で電力需給ひっ迫注意報が発令されました。季節外の猛暑だったため、定期点検中の発電所も多く、需要が発電を上回る事態となりました。再生可能エネルギーの増大に伴う発電所の稼働率の低さが、古い発電所の除却や新設発電所の建設抑制に繋がったことや、ウクライナ侵攻に伴う燃料価格の高騰で新電力の経営が厳しくなったことなども関係していそうです。エネルギー自給率が12%しかない国ですから、エネルギー施設の安全性向上に真剣に取り組む必要があります。

大規模な通信障害

 7月2日には、auの携帯電話などで、音声通話やデータ通信の障害が起きました。メンテナンス作業に伴う通信回線のルート変更時に設備障害が発生して、連鎖的に被害が波及したようで、約81時間にもわたって3043万回線に影響が出ました。障害発生の原因は、作業マニュアルの取り違えによるルーターの設定ミスだったそうです。単純なミスによって、長期間にわたって通信障害が発生し、情報通信に頼る社会が混乱した様子を見て、現代社会の脆さを感じます。この事故を経験し、総務省は通信障害時に、他社キャリアの通信網に乗り入れるローミング構想を発表しています。

これからに備えて

 水、電気、通信はいずれも社会の維持には欠かせないものです。平時ですらこのような事故が頻発している状況は気がかりです。大規模災害が起きると、こういったことが同時発生する恐れがあります。経済合理主義の中で進めてきた自由化の流れを問い直し、社会を支えるインフラの強化に関心を持つとともに、各々が備えを進めることが大切だと思います。

 この一年間の様々な災禍や事故を教訓にしつつ、新たな年が災いの少ない1年であることを願います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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