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「北海道・三陸沖後発地震注意情報」がスタート 被害を減らすために避難意識を

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

東日本大震災では2日前にM7.3の前震が発生

 2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、津波などによって2万人を超える犠牲者が出ました。3月11日14時46分ごろに発生したモーメントマグニチュードMw9.0の超巨大地震でしたが、51時間前の3月9日11時45分ごろにもMw7.3の前震が発生していました。被災地の小中学校の中には、前震が起きたときに津波避難のあり方について話し合ったことで、本震後に的確に避難できた学校があると聞いています。

 日本海溝・千島海溝沿いで発生した地震の中には、他にも前震を伴った巨大地震があります。1963年10月13日に発生したMw8.5の択捉島南東沖地震です。18時間前にMw7.0の前震が起きていました。択捉島沖では、1978年にも、3月22日にMw6.7、3月23日にMw7.5、3月25日にMw7.6の地震が続発しています。日本海溝・千島海溝沿いでは、1904年から2017年に発生したM7クラスの地震が125事例あり、そのうち5事例でMw8クラス以上の後発地震が発生しています。世界でも、Mw7.0以上の地震の発生後にMw8.0以上の地震が1%程度の確率で発生しているそうです。

 こういったことから、M7クラスの地震が発生したときには、M8クラスの後発地震の発生に注意する必要があることが分かります。

日本海溝・千島海溝沿いで心配されている超巨大地震

 房総半島東方沖から三陸海岸の東方沖を経て択捉島の東方沖まで続く日本海溝・千島海溝沿いでは、様々な地震が発生しています。なかでも、2011年に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、事前の想定を遥かに超えるM9.0の超巨大地震でした。

 また、岩手県から北海道の太平洋沿岸地域では、津波堆積物の資料などから、最大クラスの津波が約340年~380年の間隔で襲来してきたことが分かっています。前回は17世紀に発生していることから、早期の地震発生が心配されています。地震調査研究推進本部が公表している海溝型地震の長期評価でも、千島海溝沿いでM8.8以上の巨大地震が、今後30年間に7~40%の確率で発生すると評価されています。

 このため、中央防災会議の作業部会は、東北地方太平洋沖地震の震源域の北側に位置する領域での地震に対して被害推計を行いました。具体的には、岩手県から北海道えりも岬沖合の日本海溝沿いの領域と、えりも岬から東の千島海溝沿いの領域の2つの震源域を対象としていて、それぞれ日本海溝モデル、千島海溝モデルと称しています。

日本海溝・千島海溝沿いでの最大クラスの地震による想定被害

 作業部会で予測された津波高は、日本海溝モデルでは、岩手県宮古市で30m、青森県八戸市で27m、千島海溝モデルでは、北海道えりも町や釧路町で28mなどと推計されています。震度も、岩手県大船渡市や青森県六ケ所村で6強、北海道えりも町や厚岸町で7の強い揺れが予測されています。

これらの地震・津波による被害は、積雪時の冬の深夜に起きた場合が最悪で、死者数は日本海溝モデルで約19万9千人、千島海溝モデルで約10万人にもなります。被災者人口が遥かに多い南海トラフ地震での死者、最大32万3千人に比べ、死亡率が極めて高くなっています。また、津波から逃れた後に低体温症で死亡するリスクが高まる低体温症要対処者も、日本海溝モデルで約4万2千人、千島海溝モデルで約2万2千人と推計されています。

 建物被害は、積雪により建物が重くなり、出火のおそれが高まる冬の夕方が最大で、日本海溝モデルで約22万棟、千島海溝モデルで約8万4千棟にのぼります。経済被害も、日本海溝モデルで約31兆円、 千島海溝で約17兆円モデルと推計されています。

 これらの被害は、様々な防災対策を行うことで大きく減らすことができます。特に、死者数については、避難意識の改善や、避難ビル・タワーなどの活用・整備によって、2割以下に減らすことができるとされています。

 そこで、導入されることになったのが、北海道・三陸沖後発地震注意情報です。

巨大地震による被害を軽減するために

 上に述べたように、日本海溝・千島海溝沿いでは、M7クラスの地震が発生した後に、M8クラス以上の地震が発生した事例が知られています。このため、巨大地震による被害を少しでも軽減するため、日本海溝・千島海溝沿いの想定震源域周辺でMw7以上の地震が発生した場合に、大地震の発生可能性が平時よりも相対的に高まっているとして、注意を促す情報を発信することとなりました。情報の名称は、北海道・三陸沖後発地震注意情報と言い、令和4年12月より運用が始まります。

 同様の仕組みは、南海トラフ地震を対象に3年前から導入されており、南海トラフ地震臨時情報と呼ばれています。南海トラフ地震の震源域では、東西の震源域で地震が連動して発生する事例があること、ゆっくり滑りの観測体制が整備されていること、これらと地震発生との関係の検討をする必要があることなどから、調査中、巨大地震警戒、巨大地震注意、調査終了の4種類の情報がありますが、北海道・三陸沖後発地震注意情報は一つだけで、想定エリアでMw7.0を超えた地震が発生した場合に、気象庁から自動的に発表されることになります。

「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発表されたら

注意情報が発信された場合には、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震で強い揺れや高い津波が想定される北海道から千葉県にかけての太平洋側の地域にお住いの方は、後発地震の発生に備えた防災対応やすぐに避難できる準備などをしていただくことになります。特に、路面が凍結する厳冬期などでは、早期の避難が難しい高齢の方々などは、自主的に事前避難するなどの対処が必要だと思われます。

 ただし、この情報が発信されても、後発地震が必ず発生するとは限りません。むしろ注意情報の多くは空振りになります。これを空振りではなく素振りの練習だと思って、情報を生かしていきたいと思います。また、先発地震を伴わず、大規模地震が突発的に発生する可能性もあります。南海トラフ地震の震源域と異なり、想定エリアでは、Mw7.0以上の地震が2.3年に一度程度の頻度で発生していますので、比較的頻繁に情報が発表されると思われます。

 取り扱いが難しい情報ですが、少しでも被害を減らすため、うまく付き合っていきたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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