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日向灘でM6.6の地震 南海トラフ地震臨時情報の周知と長周期緊急地震速報の早期導入を!

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
内閣府のホームページより

日向灘でM6.6の地震が発生

 本日、1月22日1時8分に日向灘の深さ45kmでM6.6の地震が発生しました。大分県大分市、佐伯市、竹田市、宮崎県延岡市、高千穂町で最大震度5強を観測し、中部地方から九州地方にかけての広域で揺れを観測しました。気象庁によると、西北西~東南東に張力軸を持つ正断層型の地震とのことです。また、熊本県熊本、熊本県球磨、大分県中部、大分県南部、宮崎県北部平野部、宮崎県北部山沿いで、長周期地震動階級2を観測しました。震源の位置から、ユーラシアプレートの下に沈み込むフィリピン海プレートの内部で発生した地震のように思われます。地震発生後、余震が続発していますが、今のところ、負傷者や、ブロック塀の倒壊、液状化、水道管の破裂などの情報が報じられていますが、大きな被害はなかったようです。

繰り返す日向灘での地震

 日向灘では繰り返しM7クラスの地震が起きています。1931年1月2日M7.1、1941年11月19日M7.2、1961年2月27日M7.0、1968年4月1日M7.5、1984年8月7日M7.1などです。地震調査研究推進本部は、今後30年間の地震発生確率として、M7.6前後の地震は10%程度、M7.1前後の地震は70~80%と評価しています。また、スロースリップも繰り返し起きています。今後の地震発生が懸念される南海トラフ地震の想定震源域での地震ですから、スロースリップも含め、地震活動の推移を注意深く見守る必要があります。

 ちなみに、中央防災会議が想定する最大クラスの南海トラフ巨大地震はM9.0で、放出エネルギーは、今回の地震の4千倍にもなり、甚大な被害が予測されています。また、地震調査研究推進本部は、M8~9級の地震発生確率として、今後30年間に70~80%を評価しています。

マグニチュードに一喜一憂

 気象庁は、1時8分44.8秒に地震波を検知し、4秒後の1時8分48.8秒に緊急地震速報第1報を発し、同時に、緊急地震速報(警報)を発表しました。この時点では、震源は日向灘の深さ10km、M7.2、予測震度が大分県南部で6弱程度以上でした。ちなみに、南海トラフ地震に関しては想定震源域周辺でM7.0以上の地震が発生すると、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されます。ただし、緊急地震速報や震度速報のMは気象庁マグニチュードですが、臨時情報の発表基準に用いるMはモーメントマグニチュードです。モーメントマグニチュードの算出は即時にできないため、臨時情報(巨大地震注意)の発表にはある程度の時間を要することになります。

 緊急地震速報の最終報は第26報で、1時10分40.4秒に発表され、深さ40km、M6.8で、予測震度は大分県南部、熊本県阿蘇、宮崎県北部山沿い、大分県西部の5強程度以上でした。M6.8は、南海トラフ地震臨時情報(調査中)の発表基準に相当します。

 そして、震度速報の発表と共に、マグニチュードと震源深さの速報値として、M6.4、深さ40kmが発表され、3時10分に行われた報道発表では、暫定値として、M6.6、深さ45kmが示されました。Mが小さくなったので、南海トラフ地震臨時情報は発表されませんでした。

 短い時間で変化するMの中、気象庁の担当者は右往左往したのではないかと想像します。もし、南海トラフ地震臨時情報が発表されていたら、初めてのことで大騒ぎになっていたと思われます。

南海トラフ地震臨時情報の周知の徹底

 2019年5月31日に、南海トラフ地震臨時情報が導入されました。南海トラフ地震臨時情報には、臨時情報(調査中)、臨時情報(巨大地震警戒)、臨時情報(巨大地震注意)、臨時情報(調査終了)の4種類があります。調査中は調査を開始した場合または調査を継続している場合、巨大地震警戒は「半割れ」に相当すると評価した場合、巨大地震注意は「一部割れ」か「ゆっくりすべり」に相当すると評価した場合、調査終了は巨大地震警戒、巨大地震注意のいずれにも当てはまらないと評価した場合に発表されます。

 南海トラフ地震臨時情報(調査中)は、想定震源域やその周辺でM6.8程度以上の地震が発生した場合と、プレート境界面で通常とは異なるゆっくりすべり等を観測した場合に発表され、気象庁は南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会を開催します。

 臨時情報(巨大地震警戒)は、南海トラフ沿いのプレート境界で、M8.0以上の地震が起きた場合に発表されます。震源域で「半割れ」の地震が起きたと考え、残りの震源域での後発地震に備えます。地震直後には、気象庁から最大クラスの南海トラフ地震の被災地域全域に大津波警報が発せられますから、沿岸住民は緊急避難場所に避難することになりますが、津波避難の猶予時間がない事前避難対象地域の住民は、警報解除後も、後発地震に備え1週間の事前避難をすることになります。それ以外の住民は、それぞれの状況に応じて後発地震に注意しつつ、通常通りの生活を行うことになります。ただし、土砂災害の恐れのある地域や、自宅の耐震性が不十分な場合などには、適宜、自主避難することになります。

 一方、臨時情報(巨大地震注意)は、想定震源域周辺でM7.0以上の地震が発生した場合(「一部割れ」)と、短い期間にプレート境界の固着状態が明らかに変化するゆっくりすべりを観測した場合(「ゆっくりすべり」)に発表され、日頃からの地震への備えを再確認するなどの防災対応を取ります。特別な対応をする期間は「一部割れ」では1週間、「ゆっくりすべり」では、すべりの変化の収束後、変化していた期間と同程度の期間です。

 今回の地震では、M7.2→M6.8→M6.4→M6.6と推移しましたので、この情報の発表基準を上下したことになります。

 残念ながら、コロナ禍の制約もあり、臨時情報の周知は進んでいません。臨時情報の内容や対処行動のあり方を知らずに、いきなり臨時情報を受け取ると、社会は大混乱します。今回の地震をきっかけに、臨時情報の普及・周知を一気に進めて欲しいと思います。内閣府では、臨時情報に関する動画や漫画を用意していますから、ぜひご覧ください。

長周期地震動階級と緊急地震速報

 今回の地震での長周期地震動階級は最大2でしたが、震源から離れた大阪府南部、鳥取県西部、徳島県北部などで階級1を観測しました。なかでも、400km弱離れた関西国際空港では、震度は2だったのに、階級1を記録しました。地表の揺れに比べ、80mを超える高さの管制塔は相当に強く揺れたと思います。長周期地震動階級は、高層ビルなどの長周期構造物の揺れやすさを示す指標で、現在は、地震発生後30分程度経ったあとに発表されます。関西国際空港の揺れを見ると、周期3秒程度の揺れが5分程度も続いています。強く揺れたのは地震発生から2分後くらいで、緊急地震速報と同様の情報提供があれば、揺れる前に様々な対応が可能です。気象庁では、新年度後半には長周期地震動を考慮した緊急地震速報を始めるようです。もし、南海トラフ地震が発生すれば、震源から離れた大都市では遥かに強い長周期の揺れに見舞われます。新たな緊急地震速報の早期導入が期待されます。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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