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我が家のハザードマップ確認を 東日本大震災から10年、対策のポイント #あれから私は

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
津波が襲来した岩手県宮古市 2011年3月11日(写真:宮古市/ロイター/アフロ)

■まずはハザードマップの入手を

 ハザードマップは自分が住んでいる地域や会社周辺で、台風や大雨、地震などが発生した際、どこにどのような危険があるか、どこに避難したら良いのかという情報を地図上にまとめたものです。マップは災害別に様々な種類があり、国土交通省や市町村のポータルサイトなどで入手可能です。

 例えば「地震ハザードマップ」には、揺れの大小を示す震度マップ、液状化危険度を示す液状化マップ、津波の到達時間と浸水深を示す津波浸水マップ、土砂崩れの危険度を示す土砂災害マップ、地震火災による火災延焼マップなどがあります。

 危険は避けるのが基本です。日本は4枚のプレートがぶつかってできた列島で、アジアモンスーン地帯に位置していますから、地震、火山噴火、台風、豪雨など、自然災害の百貨店のような国です。そのため、ハザードマップの確認が重要になるのです。

■地震と水害は危険エリアが重なる

 地震による被害は場所によって大きく異なります。震源に近く地盤が軟弱なら、揺れが大きくなります。揺れが強ければ家が壊れやすく塀も倒れます。液状化すれば上下水道やガス管が破断し、家が沈下・傾斜します。東日本大震災でも震源から離れた東京湾岸の埋立地で、大変な液状化被害が生じました。

 また海抜ゼロメートル地帯では、堤防が地震の揺れで壊れると、津波が襲来する前から浸水が始まり、堤防を直すまで長期間湛水することになります。木造家屋の密集地域は火災が延焼しやすく、地震に耐えた家が焼失することもあります。ハザードマップから被害をイメージすることが大切です。危険を避けた土地選びと安全な家づくりが基本です。

 実は、地震災害の危険度が高い場所は、水害危険度の高い場所と重なる場合が多いんです。一例として、最大クラスの南海トラフ地震が起きた時の名古屋市瑞穂区の震度マップ(左)と液状化マップ(右)を示します。ともにマップの左半分の危険度が右半分に比べて高くなっています。低地や河川沿いは新しい地盤で軟弱なため、揺れが強くなります。また、浅い位置まで地下水があるので液状化もしやすいです。

(名古屋市ホームページより)
(名古屋市ホームページより)

■近年の風水害の多さ

 地震のほかにも、近年は大きな風水害が起きています。2018年は西日本豪雨と台風21号、2019年は強風による屋根被害と停電が目立った台風15号(房総半島台風)と台風19号(東日本台風)、2020年は球磨川が氾濫した熊本豪雨と、大きな被害が続いています。

 5千人もの犠牲者を出した1959年伊勢湾台風の被害を受けて、ダムや堤防が整備され、治水対策が行われましたが、近年の台風や豪雨は、それを上回るようになりました。線状降水帯による集中豪雨や、海面温度の上昇で強くなった台風が、大量の雨と強風をもたらし、水が溜まりやすい低地や崩れやすい斜面など、災害に弱い場所を狙い撃ちしてきます。

■河川の危険ポイント

 河川は大雨が降ると増水し、上流部の降雨でも増水します。水が溢れやすいのは、川幅が狭くなるところや川が合流するところです。橋があるところも流木などが詰まって水が溢れやすくなります。これらの場所は、河川の水が堤防を越えやすいといえます(越水)。万一、破堤すると大量の水が周囲に氾濫します。これが外水氾濫です。一方で、都市内に排水能力を超える大雨が降ると、内水氾濫が起きます。水はけの悪い窪地は浸水しやすいです。

 一例として名古屋市瑞穂区の水害ハザードマップを示します。台地の中を天白川、山崎川、新堀川が流れています。左下の低地エリアで外水氾濫の危険度が高くなっています。窪地状のところは内水氾濫の危険性があります。また、大雨が降ると、斜面や崖が崩れるなどの土砂災害も発生しますので、右端の丘陵地に「土砂災害警戒地域」が示されています。このように、外水氾濫と内水氾濫では危険地域が異なること、高台も土砂災害の心配があることを知っておきましょう。

(名古屋市ホームページより)
(名古屋市ホームページより)

 なお、ハザードマップには避難する施設も示されていますので、避難の際に参考になります。水害には、外水氾濫や内水氾濫以外にも、台風などによる高潮や地震による津波などもあることを忘れないでおきましょう。

■土砂災害の起こりやすい地域

 土砂崩れなどの土砂災害の危険度が高いのは、急な斜面や崖のあるところです。国土地理院が公表している瑞穂区周辺のデジタル標高マップを見てみましょう。右側丘陵地に多数の谷が刻まれています。急な斜面や崖がある場所で土砂災害危険度が高いことが分かります。

 また河川沿いの場所は周辺に比べて標高が低いこと、左下に海抜ゼロメートル地帯が広がっていること、ところどころに窪地があることも分かります。その結果、河川沿いの低地で外水氾濫危険度が高く、内陸の窪地になったところで内水氾濫危険度が高くなります。ちなみに、平らな台地の上には、有名な神社仏閣や貝塚などがあり、昔から人が住んでいました。

デジタル標高、寒色が低地で暖色が高地(国土地理院ホームページより)
デジタル標高、寒色が低地で暖色が高地(国土地理院ホームページより)

■地名にもヒントが隠されている

 こういった地形の特徴は、地名に残されることが多いようです。瑞穂区の町名の中から、水に関わりのある地名を選んでみると、井戸田町、浮島町、内浜町、河岸町、川澄町、軍水町、塩入町、汐路町、須田町、田光町、玉水町、津賀田町、苗代町、船原町、堀田通、などがあります。川沿いやかつての「あゆち潟」を干拓して塩田や新田にした場所に重なります。

 一方、台地や丘陵を想像させる地名には、市丘町、片坂町、甲山町、上坂町、下坂町、岳見町、中山町、村上町、弥富ケ丘町、山下通などがあり、何れも標高が高いところにあります。一度、水害ハザードマップと、地名の地図、標高図を並べてみて、日ごろよく使っている施設の場所を確認してみてはどうでしょうか。いろいろな発見があると思います。

■具体的な対策を

 昨年、宅地建物取引業法施行規則の一部が改正されて、不動産会社は顧客への「リスク説明」が義務付けられました。危険を避け、危険があれば対策をとることが基本です。孫子の格言「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」を思い出し、まず、最寄りの役所で、ハザードマップをもらってきましょう。残部がなかったら、ホームページや図書館で確認してください。図書館には過去の災害が記録された地誌もあると思います。

 災害をわがことと思い、我が家のハザードを知ることが、対策の第一歩です。例えば、水害危険度の高い場所に家があったら、土嚢を準備したり、水に浸かりにくい2階に大事なものや備蓄品を置いたり、気象庁のホームページなどで天気予報や降雨予測を常に確認したり、避難袋を用意して早めの避難を心掛けたりする必要があります。最近では、家が水に浸かっても家の中に浸水しない水密住宅も開発されていますから、水害危険度の高い場所に家を新築する人には朗報です。また、これから引っ越す人は安全な家を獲得する絶好のチャンスです。価格や便利さの前に、自身や家族の安全を考えて選んでみましょう。引っ越した時には必ず家具を固定すること、いざというときのための備蓄も肝心です。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画記事です】

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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