南海トラフ地震の津波避難のため、テレビ各局がヘリ映像を共有化する「名古屋モデル」

筆者撮影

名古屋モデル

 「名古屋モデル」とは、名古屋の民放テレビ局のCBCテレビ、東海テレビ、名古屋テレビ(メーテレ)、中京テレビの4社による、南海トラフ地震に備えた新たな共同の試みです。2019年5月20日に覚書が締結され、6月1日から始まりました。大規模地震での津波から一人でも多くの命を救うために、日ごろはライバル同士の4社が共同で取材します。日本初の画期的な試みです。毎年1回、4社が合同で訓練を行うことになっており、一昨日、初めての訓練がありました。

 具体的には、愛知県または三重県の沿岸部に大津波警報が発表された場合に、4社が保有するヘリコプターで共同取材します。期間は、原則、大津波警報の発表から24時間で、4社が合意すれば期間の延長・短縮も可能とのことです。この枠組みで撮影した映像・音声は、4社だけでなく系列各局も自由に使用できます。4社のヘリコプターは、いずれも県営名古屋空港に駐機しており、運航はいずれも中日本航空が担っています。このことが、共同取材を容易にしたとも言えそうです。

大津波警報が発表されたらヘリコプター共同取材

 テレビ放送の強みは、リアルタイム性にあります。南海トラフ地震では、広域に津波が押し寄せますが、4社が受け持つ愛知県から三重県の海岸線は長く、ヘリコプター1機で取材することは難しく、また取材エリアも重複しがちです。そこで、各社が事前に取材エリアを分担して、互いに生中継映像を共有することになりました。

 分担するエリアは、三重南部、三重北部、名古屋・知多、三河の4つです。三重南部は尾鷲市などを高い津波が短時間で襲います。三重北部には石油コンビナートや発電所があり、愛知県との県境には木曽三川や海抜ゼロメートル地帯が広がります。名古屋・知多にはビルが林立し名古屋港や知多半島沿岸部に大規模工業地帯を抱えます。そして、三河は渥美半島外洋の津波と自動車産業集積地に当たります。

 このように、異なる特徴を持つ取材エリアを4機のヘリコプターで分担して取材することで、広域の被害の様子を伝え、より多くの住民の避難を促進することが可能となります。

初の共同取材訓練

 12月14日に初めての共同取材訓練が行われましたので、見学してきました。CBCテレビのロビーで4社のヘリの生中継映像を見ました。行政の防災担当者やNHK、新聞各紙の記者さんが数多く参加していました。

 平日の12時50分に和歌山県南方沖でM8.7の地震が発生し、愛知県・三重県で震度7の揺れ、12時52分に愛知県外海と三重県南部・伊勢・三河湾に大津波警報が発表されたとの想定でした。平日昼間には、県営名古屋空港にヘリコプターの操縦士やカメラマンが常駐しているので、15分後くらいにヘリコプターと飛び立つことができます。重量軽減により航続距離を稼ぐため、ヘリコプターには、乗務員2名以外はカメラマン一人だけが乗り込みました。

カメラマンの実況中継を利用した特番制作訓練

 当日は、CBCテレビが三重北部、東海テレビが名古屋・知多、メーテレが三河、中京テレビが三重南部を分担していました。中京テレビのヘリコプターが高性能なのですが、そのことと遠地の三重南部を担当したこととの関わりはないとのことでした。

 ヘリコプターに乗り込んだ4社のカメラマンは、それぞれ特徴ある映像を解説付きで伝えていました。2時間にわたって実況中継しつつしゃべり続けるカメラマンの技量には感服しました。事前の基礎知識と土地勘がなければ難しい解説で、地元テレビ局のカメラマンならではの解説だと思いました。

 テレビ局各社は、ヘリコプターの共同取材映像を利用しつつ、行政機関や各社が有する情報カメラの映像、現地映像などを組み合わせてスタジオから解説する特別番組の制作訓練も合わせて行っていました。まさにリアルタイムな、発災時に備えた素晴らしい訓練になっていました。今後、こういった訓練が、行政組織などと共同して行われることが期待されます。

今後の課題

 今回は、初の訓練で、平日昼間で晴天にも恵まれました。今後は、休日、夜間、悪天候など、異なる条件での訓練も望まれます。さらに、南海トラフ地震臨時情報発表時の対応も考える必要があります。できれば、4社が作成した番組を相互に比較し、もしも4社の番組が類似したものになっていたら、社ごとに番組の主題についても分担していくという考え方もありそうです。

 何はともあれ、視聴率競争の激しいテレビ業界で、地元が危機に陥った時には、系列の枠を超えて連携・共同しようという、地元重視の画期的な試みで、今後、全国各地に広がることが望まれます。