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台風19号から1か月、水害と地盤災害に備える

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:Motoo Naka/アフロ)

度重なる風水害

 8月末以降、日本列島は大雨と強風に痛めつけられました。8月27日から九州北部地方で猛烈な雨が降り、死者4名、全半壊家屋197棟、床上浸水1,645棟の被害を出しました。佐賀県では鉄工所から油が流出し、浸水対応に困難を極めました。

 9月9日5時頃には、台風15号が千葉市付近に上陸しました。小型で強風域が小さかったため、突然、強い風に見舞われました。千葉県を中心に、全半壊家屋3,034棟、床上浸水87棟、床下浸水113棟などの被害となりました。中でも、強風による屋根被害が原因の一部損壊が54,558棟と突出しています(10月31日、消防庁)。

 10月12日の19時前には、大型で強い台風19号が伊豆半島に上陸しました。台風前面にあった分厚い雨雲が膨大な雨をもたらし、吉田川、阿武隈川、都幾川、越辺川、久慈川、那珂川、千曲川など、70を超える河川が決壊しました。さらに、10月24日から26日にかけて大雨となり、再び河川が決壊しました。被害は、死者・行方不明者100人、全半壊家屋7,518棟、床上浸水33,180棟、床下浸水37,035棟にも及びます(11月8日、消防庁)。

繰り返す災害

 台風19号で北陸新幹線が浸水した千曲川は、1742年8月にあった「戌の満水」でも決壊し、大きな被害を出しました。このときには、江戸など関東地方でも広域で洪水が起きたようです。被害の様子は、台風19号とよく似ています。災害は繰り返します。各地の過去の災害は、市町村史などで調べることができますから、参考にしたいと思います。

災害を感じさせる地名

 浸水被害や土砂災害を受けた場所は、さんずいが付く漢字など、水にちなむ地名が多いようです。また土砂災害が起きる場所では、濁流をイメージする蛇や、水を思い浮かべる竜などの漢字がよく使われます。平成26年8月豪雨で大きな被害を受けた広島県安佐南区八木地区は、かつて蛇落地悪谷と呼ばれていたそう。その後、上楽地芦谷と名前を変え、近くには浄楽寺もあります。気になる地名を見つけたら、由来を調べてみてはどうでしょう。

災害を起こしやすい地形

 河川周辺の氾濫平野、後背湿地などの低地は、微高地の自然堤防に比べ浸水危険度が高い低地です。天井川の周辺や海抜0m地帯は堤防が損壊すれば浸水します。お盆状の地形も水が溜まりやすい場所です。また、急斜面ではがけ崩れが、扇状地の谷口は土石流が、斜面は地すべりを起こしやすいので要注意です。かつては、こういった場所を避けて集落を作っていました。海抜0m地帯に集落を構える場合には、輪中を作り、自然堤防の上に高盛土して水屋を作るなど、多重防御を心がけていました。

崩れやすい地質

 豪雨や地震で崩れた地盤は、真砂土や火山噴出物など、火山に関わるものが多いようです。真砂土は、マグマが固まってできた火成岩の花崗岩が風化した土です。平成30年8月豪雨(西日本豪雨)では、真砂土が西日本各地で崩れました。また、2018年北海道胆振東部地震では、火山噴出物の軽石が大規模に崩落しました。赤城山の火山噴出物の鹿沼土のような土です。真砂土も鹿沼土も、軟らかく、保水性、通気性があるので園芸には向いていますが、崩れやすいので要注意です。

堤防が決壊しやすい場所

 台風19号や昨年の西日本豪雨などで堤防が決壊した場所には共通点があります。大河川に小河川が合流する場所や、川が屈曲する場所、川が狭くなっている場所、橋のたもとなどです。大河川の水量が多くなると、小河川の水が大河川に注ぎにくくなり、水位が上がって決壊しやすくなります。また、屈曲部や狭小部、橋のたもとなどでも、水位が上がり越流などによって堤防が損壊しやすくなります。川の流路の形も気にする必要がありそうです。

上流部の雨による下流の堤防決壊

 台風19号では、流域が広く長い大河川の下流部が、上流部の大雨によって決壊しました。国の管理する吉田川、阿武隈川、都幾川、越辺川、久慈川、那珂川、千曲川なども決壊しました。雨が収まった後で浸水した場所も多く、住民には多少の油断もあったようです。茨城から岩手の東日本太平洋岸に注ぐ河川が多くありますが、かつては融雪水が支配的な河川です。梅雨や台風が多い関東以西の河川と比べ、河川の流量に差がありそうです。気候温暖化により、東北地方にも梅雨や台風による大雨が増えているので、今後も心配です。

浸水危険地に拡大するまち

 かつては、肥沃な氾濫原は農地に利用されていました。また、洗堰を設けて隣接河川に水を流して堤防の決壊を避けたり、霞堤や遊水池により増水時の堤防への負荷を減らしてきたりしました。ですが、近年は氾濫原や洗堰、遊水池内などに道路を作り、沿道に建物を建てるようになりました。台風19号でも、こういった場所で多くの家屋が浸水被害を受けました。2000年に起きた東海豪雨では、庄内川右岸の洗堰を通って新川に水が流れ、新川周辺の家屋が浸水し、遊水池の庄内緑地公園も浸水しました。洗堰にある洗堰緑地の蛇池には龍神を祀った蛇池神社もあります。

堤防とポンプで守られる海抜0m地帯

 東京、大阪、名古屋は、海水面下の海抜0m地域にまちが広がっています。海抜下なので、長期停電などで天井川へのポンプアップが止まれば浸水します。また、堤防が損壊すれば海に没します。台風19号では、多摩川下流域が浸水し、川崎にあるタワーマンションなどでは、地下の電気設備が水に浸かり、停電や断水になりました。高層住民は、エレベーターが止まり、エアコンや水が使えず、生活が困難になりました。東京の海抜0m地帯には200万もの人が居住しています。万一、長期湛水すれば、救援・救出も困難になります。土地利用の在り方を考える時だと思います。

地区防災計画が被害を減らした?

 台風19号で被災した長野市長沼地区では、地域住民が学識者と協働して、2015年に地区防災計画を策定していました。ここは、千曲川と浅川に挟まれた平坦な低地で、2500人ほどの住民が住んでいます。1742年の戌も満水でも、4mもの浸水で多くの人が犠牲になった場所です。今回、当時と比べて、犠牲者を大きく減らすことができたようですが、地区防災計画がどのように活かされ、早期避難が適切に行われたのか、今後の検証が待たれます。

治水対策の効果

 台風19号では、凄まじい降水量の中、治水対策の効果もあり、かつての水害と比べて犠牲者数を減じることができました。建設の是非が問われた利根川上流の八ッ場ダムでは、直前の10月1日から試験湛水をしており、下流の流量を減じることに貢献したようです。ラグビーワールドカップが行われた横浜国際総合競技場の隣りにあった鶴見川の遊水池も機能を発揮していました。

 東京低地では、地下放水路の首都圏外郭放水路が効果を発揮しました。この放水路のおかげで、中川、倉松川、大落古利根川、18号水路、幸松川などの中小河川の水をゆとりのある江戸川に放水することができました。また、台風19号は1958年狩野川台風の再来とも言われましたが、当時決壊した狩野川は、その後作られた狩野川放水路のおかげで守られました。ソフト対策に加え、適切なハード対策も必要だと感じます。

 改めて犠牲になられた方のご冥福を祈りつつ、被災をされた方々にお見舞い申し上げます。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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