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熊本地震から3年、高層ビルや免震ビルの新たな課題「長周期パルス」

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

熊本地震から3年

 熊本地震から3年が経ちます。2016年4月14日21時26分に日奈久断層でM6.5の前震が、4月16日1時25分に隣接する布田川断層でM7.3の地震が起き、益城町で2度の震度7を、西原村では本震で震度7を観測しました。震度6弱以上の揺れの地震が3日間で7回も発生し、その後、北東の阿蘇地方から大分県西部、さらに大分県中部の別府-万年山断層周辺へと、別府-島原地溝帯に沿って地震が相次ぎ、震度5弱以上の地震が23回も発生しました。震源近くにある阿蘇山中岳では、本震発生後の16日午前8時30分ごろに小規模噴火が発生、さらに10月8日には36年ぶりに爆発的噴火をしました。

熊本地震での被害

 熊本では、未だ16,500人もの方々が仮住まいをされ、苦労されています。本年4月12日に消防庁が公表した資料によると、現時点での被害は、死者273人(うち直接死50人)、重傷者1,203人、軽傷者1,606人、住家全壊8,667棟、半壊34,719棟、一部損壊163,500棟、床上浸水114棟、床下浸水156棟、公共建物被害467棟、その他非住家被害12,918棟、火災15件となっています。

 24年前に発生した兵庫県南部地震と同規模の地震でしたが、全壊数は10分の1程度、直接死者数は100分の1程度でした。前者は被災者人口の差だと思われます。全壊家屋数に比べ直接死者数が少ないのは、前震によって多くの住民が避難したため、本震で倒壊した家屋にいた人が少なかったからのようです。この結果、逆に関連死の多さが目立ちます。

 土砂災害も顕著でした。阿蘇山の噴火による火山堆積物は崩れやすく、阿蘇大橋を始め各地で土砂崩れが起きました。火山堆積物の土砂崩壊は、昨年の2018年北海道胆振東部地震での厚真町、2008年岩手宮城内陸地震での栗駒山、1984年長野県西部地震での御嶽山、1923年関東地震での神奈川県の震生湖など、過去の地震でも大きな問題となっています。

連続地震に対応していない耐震基準

 熊本地震では、耐震化は進んでいましたが、前震で傷んだ建物に本震が襲ったため、大きな家屋被害になりました。現行の耐震基準は、一度の強い揺れに対して人命を守ることを前提にしています。耐震設計は2段階設計になっていて、建物の共用期間中に数度受ける中小の揺れに対しては無損傷、一度受けるかどうかの強い揺れに対しては、空間を残して人命を守れば、建物は壊れても良いとしています。このため、前震での強い揺れで損壊した建物は、本震での強い揺れで人命を守ることを保証できません。このため、多くの庁舎や病院は、地震後、継続使用ができなくなりました。防災拠点にするような建物は、低層の壁式構造とし、強い揺れを受けても無損傷となるような設計が望ましいと思います。

思いもかけなかった長周期パルス

 西原村役場に設置されていた震度計で観測された揺れに、多くの建築構造技術者は驚きました。上下方向と水平方向に数メートルも大きく変位した記録だったからです。活断層の直上だったので、活断層のずれそのものが現れた記録でした。こういった記録が国内で観測されたのは初めてでした。こういった揺れを建物が受けると、柔道で足払いされたようになります。どんな揺れなのか、簡単な実験をしてみます。細い紐で50円玉をぶら下げた振子を作ってみて、紐の長さを変えながら実験してみましょう。

著者作成
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50円玉と紐の振子で実験

 振子を持つ手を横にすっと少し動かしてみると、50円玉は手の動きに直ぐに追従せずに、少しのあいだ元の位置に留まった後に揺れ始めます。これは50円玉が元の位置に留まろうとするからです。高校の物理で習った慣性抵抗です。紐の長さを変えて、長い振子と短い振子で比較してみてください。手の動きが少ないときは、短い紐の方が振子の角度が大きくなって強く揺れ、長い紐の振子は角度が小さいので揺れが目立ちません。

 つぎに、手を動かす速度は同じにして、大きく横に動かしてみます。すると、短い紐の50円玉は角度が大きくなれず、手の動きにと一緒に動くので、揺れは余り大きくなりません。これに対して、長い紐の50円玉は元の位置に留まりやすいため、大きく揺れ続きます。

活断層直上の高層ビルや免震ビル

 手を移動させる速度や手を動かす量を変えてみると、50円玉の動きが全く変わることが分かると思います。この実験は、活断層が横にずれた時の断層直上の建物の揺れを再現したものです。普通、断層がずれる速度は1m/s程度で、規模の大きな地震では地盤は何mもずれます。1995年兵庫県南部地震(M7.3)のときに淡路島に現れた地表ずれは1m程度でしたが、1891年濃尾地震(M8.0)のときには8mにも及びました。地震の規模が大きいと、断層がずれる量も大きくなり、ずれるのに時間もかかります。この結果、長い周期の高層ビルや免震ビルが大きく揺さぶられます。この現象をフリングステップと呼びますが、今までは、設計では余り考えられてきませんでした。いま、各所でその対策が練られつつありますが、まだ、十分な解決策はありません。

 この長周期パルスは、内陸の活断層が大きな地震を起こした時に生じる問題です。高層ビルが林立する大都市でも、台地と低地の境界などに活断層が潜んでおり、大阪の中心に南北に走る上町断層もその一つです。活断層が地震を起こすことは滅多にありませんが、高層ビルや免震ビルには重要な施設がたくさん入っているので、十分に注意をしたいものです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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