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北海道胆振東部地震から半年、震度7でも家屋は強かったが崩れやすかった地盤

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
筆者撮影

震度7でも少なかった建物被害

 半年前の、2018年9月6日午前3時過ぎに、北海道の胆振東部の深さ37kmでM6.7地震が発生し、厚真町で震度7、安平町とむかわ町で震度6強の揺れが観測されました。この地震での被害は、死者42人、全壊家屋462棟、半壊家屋1,570棟、一部損壊家屋12,600棟でした。過去に震度7を記録した1995年兵庫県南部地震(死者・行方不明者6,437人、10万5千棟)、2004年新潟県中越地震(68人、4,172棟)、2011年東北地方太平洋沖地震(22,000人、12万棟)、2016年熊本地震(267人、8,673棟)と比較して、死者や全壊家屋が少ないです。これは、北海道の家屋の耐震性の高さのおかげのようです。

強い北海道の家屋

 北海道胆振東部地震での揺れによる被害は、近年発生した熊本地震や2018年大阪府北部の地震と比べ、同じ震度の場所では被害率が一桁少ないようです。過去の北海道の地震でも言われていたことですが、寒冷で人口密度が低い北海道の家屋は、他の地域と比べ建物が地震に強い構造になっています。雪が降るため、多くの屋根はスレート葺きで軽い構造です。夏は涼しく冬は寒いので、窓が小さく壁が多い構造になっています。そして、冬季に土が凍るので、基礎が深く頑強です。敷地にゆとりがあるので、平屋建てが多く低層の建物が殆どです。建物に作用する力は、建物の重さや揺れの強さで決まりますから、軽くて壁が多い住宅は地震に有利です。さらに、この力に抵抗する壁が多く、基礎がしっかりしているので地震で壊れることはありません。

北海道と大阪の違い

 昨年6月18日の8時前に発生したM6.1の大阪府北部の地震は、最大震度は6弱でしたが、死者6人、全壊家屋21棟、半壊家屋454棟、一部損壊家屋56,873棟の被害となりました。4月9日に発生した同じM6.1の島根県西部の地震では、最大震度は5強、死者0、全壊家屋17、半壊家屋58、一部損壊576棟でした。大阪府に比べ島根県の市町村の面積は遥かに広いので、最大震度の違いは計測震度計の設置密度の差によると思われます。大阪府は島根県の人口の12倍強ですが、全壊はほぼ同じ、半壊は10倍、一部損壊は100倍になっています。

 一方、北海道の被害と比べると、全壊は1/20倍、半壊は1/3ですが、一部損壊は5倍にもなります。北海道の揺れは震度7ですから、震度6弱の大阪では全壊が少ないのは当然ですが、一部損壊の多さが気がかりです。軟弱な地盤に多くの家屋が密集する大都市の災害危険度が改めて分かります。

エレベータの閉じ込め

 札幌市内で緊急停止したエレベータは9,000基にも上ります。北海道内の保守対象エレベータは27,000基弱ですから相当の数です。閉じ込めも23基あったようです。昼間だったらもっと多くの閉じ込めが発生したと思います。

 最大震度6弱だった大阪府北部の地震では、66,000基ものエレベータが緊急停止し339基で閉じ込めが発生しました。大阪府内の保守対象エレベータ数は76,000基程度ですから、殆どが緊急停止したことになります。

 首都・東京には16万基を超えるエレベータがあります。首都直下地震の被害想定では、3万基が緊急停止、1万7千人が閉じ込められるとされています。東京消防庁の救助隊では全く足りません。何日間エレベータに閉じ込められることになるのでしょうか。

 ちなみに、2009年に建築基準法施行令が改正され、地震時管制運転装置の設置が義務付けられましたので、新しい建物では地震の揺れを検知して緊急停止するようになっています。

火山で噴出した軽石の大規模崩壊

 強い揺れに見舞われた厚真町や安平町で、大規模な土砂崩れが起きました。これらの地域は、支笏カルデラ噴火や、恵庭岳や樽前山の噴火で噴出した軽石が地盤を覆っています。

 軽石というと風呂の中で踵をゴシゴシする固い石を思い起こしますが、現地で見た軽石は簡単に潰れる柔らかいもので、鹿沼土にそっくりでした。鹿沼土は栃木県鹿沼市で産出される軽石で、群馬県の赤城山の噴出物です。通気性や保水性がよく柔らかいので園芸に向きます。逆に言うと、水を含みやすく崩れやすいとも言えます。

 こういった火山堆積物は北海道や九州、東北、関東地方の地盤を覆っています。2008年岩手・宮城内陸地震での栗駒山周辺や、2016年熊本地震での阿蘇大橋周辺での大規模土砂崩れはまさにこういった場所です。実は、1923年関東地震でも神奈川県下ではあちこちで土砂崩れがありました。秦野市には地震でできた「震生湖」もあります。

 支笏カルデラ噴火の火砕流でできた清田区では、谷を火山灰で埋めた場所で甚大な液状化被害になりました。清田区では、1968年十勝沖地震でも、2003年十勝沖地震でも液状化被害が出ています。

 土砂災害危険度が高い場所を避け、北海道のような家屋が増えれば、地震は決して怖いものではありません。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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