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大阪府北部の地震から1か月。早かったガスの復旧、23年の努力の成果

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 大阪府北部の地震から1か月が経ちます。M6.1、最大震度6弱の地震によって、ブロック塀の倒壊などで4名の犠牲者と434名の負傷者を出し(消防庁7月5日による)、住家被害は全壊10、半壊181、一部損壊3万524、非住家被害686にも及ぶ被害(大阪府7月13日による)となりました。被害が大きかったのは茨木市と高槻市で、それぞれ住家被害が1万棟程度でした。ガス供給停止も両市が中心でした。西日本豪雨の広域かつ甚大な被害の発生で、地震のことを忘れがちになりますが、地震後話題になったライフラインの復旧について考えてみたいと思います。

ライフラインの被害

 大阪府北部の地震では、ライフライン被害は余り多くなく、電気は2時間半で停電が解消され、鉄道も当日の夜には復旧しました。これに対して、地中に埋設されている水道は21万3千人が断水の影響を受け2日間、ガスは約11万2千戸が供給停止になり復旧に7日間を要しました。地震後、ガスの復旧に1週間もかかったことが話題になりましたが、復旧に3か月を要した阪神・淡路大震災に比べ、遥かに短い期間で復旧しました。そこには、この23年間のガスの地震防災対策の成果が表れているようです。

11万2千戸のガス供給が止まった大阪府北部の地震

 大阪ガスの供給エリア内で11万1951戸の都市ガス供給が停止しました。供給停止したのは茨木市の64254戸、高槻市の45745戸、摂津市の1208戸、吹田市の744戸です。茨木市と高槻市は震度6弱、摂津市と吹田市は震度5強の揺れでした。都市ガス供給が復旧したのは6月24日で、復旧に7日間を要しました。1週間は時間がかかりすぎとの意見もあるようですが、私は、過去の地震災害に比べ大変早い復旧だったと思っています。

甚大だった阪神・淡路大震災でのガス被害

 阪神・淡路大震災では、6434人の死者と3人の行方不明者、全壊10万4906棟、半壊14万4274棟、一部損壊39万506棟もの住家被害があり、293件の火災発生で7574棟が焼損しました。震度が4だった大阪府でも、死者31人、全壊家屋895棟、火災発生32件、焼損37棟の被害を出しました。

 これに対して、大阪府北部の地震での被害は、死者4人、全壊家屋10棟、火災件数7件でしたから、23年前の方が遥かに大きな被害でした。当時震度4を記録した大阪市の大手前での揺れは、今回の地震でも震度4でした。観測史上初めての震度6弱とは言うものの、阪神・淡路大震災の方が大阪の揺れは強かったと推察されます。

 大震災では、85万7400戸のガス供給が停止し、低圧ガス導管を中心に2万6千個所を超える被害が発生しました。火災発生原因の2番目はガス・油類を燃料とする道具で、ガスが原因の二次災害と言えます。震災後、全国からの応援3712名も含め1万人体制で復旧活動をしたものの、ガスの復旧には3か月の期間を要しました。大阪府内でも、大阪市、豊能町、豊中市、池田市などで、計1万2千戸余りでガス供給が止まりました。この数は、今回の供給停止戸数の1/10程度に収まっています。

都市ガスの供給

 私たちが使っているガスには、都市ガスとプロパンガスがあり、都会ではガス会社が導管網を利用して都市ガスを供給しています。現在の都市ガスには天然ガスが用いられています。産油国の天然ガス田で産出した天然ガスを液化して、液化天然ガス(LNG)をLNGタンカーで運搬し、湾岸のLNGタンクに貯蔵し、それを気化させて天然ガスにします。さらに、熱量調整のためLPGを加えたり、漏洩を検知するために臭いを加えて都市ガスを生産します。

 生産されたガスは、徐々に減圧しながら、高圧ガス導管→ガバナー(整圧器)→中圧ガス導管→ガバナー→低圧ガス導管→ガスメーター(マイコンメーター)→内管→ガス器具、と供給されます。

 阪神・淡路大震災では、ガスの製造設備や高圧ガス導管、ガスホルダーには被害が無く、ほとんどの被害は低圧ガス導管やガス利用者の内管に集中しました。

23年間に行われたガスの地震対策

 震災後、ガス会社各社は精力的に地震対策を実施しました。一つは地震被害を減らすハード対策です。折れにくいポリエチレン製のガス導管に取り替えたり、各家庭のガスメーターをマイコンメーターにし、震度5程度の揺れで自動遮断するようにしました。また、二次災害の防止のため、供給エリアをブロック化し、そこに地震計を多数設置することで、震度6程度の揺れを感知したブロックだけを自動遮断できるようにしました。

 これによって、強い揺れになるブロックだけに供給停止エリアを極小化することが可能になり、復旧効率も向上します。大阪ガスの供給エリアは、現在は164ブロックに分かれています。災害時には、日本ガス協会を通して、全国のガス事業者が復旧支援をする相互応援体制も整備されました。

大阪府北部の地震でのガス復旧

 今般の地震では、地震発生1時間後の9時の時点で、製造所、ガスホルダー、高圧ガス導管、中圧ガス導管、事業所などには被害が無いことが報告され、164ブロックのうち、震度6弱だった高槻市と茨木市を中心とする2ブロックだけが供給停止になりました。この結果、11万2千戸への供給が停止されました。

 阪神・淡路大震災での大阪府内の供給停止数の十倍の停止戸数になった理由は、震度6弱程度のゆれで自動遮断する仕組みが整ったためとも言えます。ですが、供給停止戸数は、600万件を超える大阪ガスの供給戸数の2%以下ですから、ブロックの細分化のおかげで供給停止を最小化できたと言えます。また、ガスが原因の火災も発生しておらず、二次災害が防止できました。当初から復旧に1~2週間かかることを報じており、復旧状況もホームページで丁寧に報告されていました。

 さらに、日本ガス協会を通して全国のガス事業者が2700名の復旧応援隊を派遣し、大阪ガス復旧隊などと合わせ約5100名の体制で、復旧活動をしました。これが、1週間で復旧できた大きな理由です。

 復旧の間も、公共性が高く社会的優先度の高い顧客21件については、移動式ガス発生設備を設置し、臨時的な供給を行ったようです。

ちなみに、供給停止されていないブロックでは、震度5程度の揺れでマイコンメーターが作動して家庭内へのガス供給が遮断されます。マイコンメーターの復帰については各家庭で実施する必要があります。そのことだけ知っていれば、マイコンメーターに復帰方法が書いてありますから、心配する必要はありません。

ガス供給開始までの手順

 ブロック単位でガバナーを遮断してガス供給を停止した後、供給開始までにはいくつかの手順を踏みます。まずは、各戸のメーターガス栓を閉栓し、次にブロックをさらに細分割して、小ブロックごとにガス漏れを検知してガス導管を点検し、損傷が見つかれば道路を掘削してガス管を修理します。小ブロック内の修理が終了したらガバナーを再稼働し、その後、各戸を巡回して内管などの点検をした後、各戸のメーターガス栓を開栓します。危険物であるガスを取り扱っているがゆえ、全戸の顧客を巡回するため、どうしても時間がかかります。

 ちなみに、1995年阪神・淡路大震災では人員約9700人で86万戸を復旧するのに94日を要しました。その後の震災では、2007年新潟県中越沖地震では約2600人で3万4千戸を42日、2011年東日本大震災では約4600人で40万戸を54日、2016年熊本地震では約4600人で10万戸を15日で復旧しています。これらと比較すると、5100人が集結し11万2千戸を7日で復旧したことは素晴らしいことだと思われます。

 このように安全を確保するためには、災害時、多少の不便は我慢する必要があります。そのために、カセットコンロの準備など、日頃から災害時に困らないような準備を各自でしておきたいものです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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