Yahoo!ニュース

再び起きた突然の噴火、過去には歴史を変え生物も大絶滅させた噴火も

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
日本の活火山(気象庁ホームページより)

突然の噴火

 先日、1月23日、草津白根山が噴火しました。突然の噴火で、訓練中の自衛隊やスキー客に死傷者が出ました。草津白根山は日本百名山にも数えられ、近くにはスキー場や草津温泉もあり、多くの観光客が訪れるところです。スキーシーズンでもあり、スキー客がいる状況の中での噴火でした。噴石が降る中、ゴンドラに乗っていた人たちは大変な恐怖を感じただろうと思います。

 草津白根山は、白根山、逢ノ峰、本白根山の三山の総称ですが、今回の噴火では最近頻繁に活動していた白根山ではなく、本白根山が3000年ぶりに噴火しました。このため、十分な観測体制が敷かれていませんでした。

 当初、雪崩発生との報もあり1926年十勝岳噴火の融雪なだれと同様の惨事を思い浮かべましたが、幸い誤報だったようです。草津白根山周辺は硫黄鉱山が多く、個々の白根山の噴火では、火山ガスの硫化水素によって死者が出たことがありましたが、今のところ大量のガス噴出は無いようです。なお、噴火の日には、首都圏をはじめとして大雪に見舞われ、アメリカでは巨大地震が発生し津波の発生も懸念されました。他の災害と複合しなかったことが不幸中の幸いでした。

 ちなみに、白根山には、日光白根山や赤石山脈の白根山もあるので、混同しないように注意が必要で、区別のために草津白根山と呼ぶようです。

プレート運動で作られた日本列島の火山

 卵のような構造をした地球は、表面から殻の部分のプレート、白身のマントル、黄身の核からできています。十数枚に分かれた最表面のプレートは、それぞれ年間数センチ程度のスピードで水平に移動しています。日本列島は、2つの大陸のプレートと2つの海のプレートがぶつかる場所にあります。東北日本では北アメリカプレートの下に太平洋プレートが、西日本ではユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込み、圧縮力によって陸が盛り上がることで脊梁山脈を持つ弧状列島ができました。また、伊豆・小笠原諸島は、古い太平洋プレートが新しいフィリピン海プレートの下に沈み込んでできたものです。

 海のプレートの上には海水があるので、海のプレートがマントルの中に沈み込むときに、表面に水分を含みながら潜り込みます。水があることで周辺のマントルの融点(固体が融ける温度)が降下して、100km程度の深さになると周辺のマントルが溶けてマグマができます。このマグマが上昇してマグマ溜まりができ、それが時々地表に出て噴火が起こります。東北日本に南北に連なる火山や伊豆・小笠原諸島の火山は、太平洋プレートの沈み込みによってできた火山です。火山が存在する場所を火山フロントと呼んでいて、それより海側には火山は存在しません。

色々な噴火

 マグマ溜まりに溜まったマグマが直接噴き出すのがマグマ噴火、マグマが周辺の水を熱して水蒸気の圧力が高まって噴火するのが水蒸気噴火、マグマと水蒸気が一緒に噴火するのがマグマ水蒸気噴火です。1月23日に噴火した草津白根山も水蒸気噴火が疑われているようです。63人の犠牲者を出した2014年の御嶽山噴火も水蒸気噴火でした。水蒸気噴火では、事前の予兆がないので、突然の噴火となり、犠牲者が出やすくなります。

活火山って?

 昔は、活火山、休火山、死火山と言っていましたが、今は、休火山はありません。休火山と習った富士山も活火山です。日本では、活火山は「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義されています。現在、全国に111の活火山があり、草津白根山もその一つです。

 火山噴火予知連絡会は、「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として50火山を指定しており、気象庁が24時間体制で火山活動を常時観測・監視しています。草津白根山も常時観測の対象火山だったのですが、白根山を中心に観測していて、本白根山は手薄だったようです。

我が国の火山対策

 国は、1973年に「活動火山対策特別措置法」を制定し、警戒避難体制の整備を特別に推進すべき地域として常時観測火山の周辺地域を「火山災害警戒地域」に指定しています。全国で155市町村が指定されており、草津白根山でも草津町など周辺5町村が指定されています。火山災害警戒地域の基礎自治体では避難確保計画の作成義務が課せられていますが、防災担当職員や火山専門家の不足などのため、残念ながらいずれの町村も未整備でした。これは、全国の火山で共通の課題となっており、3分の1の51市町村しか策定されていません。何らかの支援措置が必要だと思われます。とはいえ、財政難などもあり行政の支援にも限界がありそうです。火山国に住む国民として、公に依存するだけではなく、一人一人の火山との付き合い方が問われています。

フィリピン海プレートの周辺での活発な噴火活動

 さて、目を転じて、このところの火山活動を振り返っています。素人目にも、ここ最近、九州周辺の噴火活動が気になります。2016年熊本地震の半年後に阿蘇山が噴火しました。2015年には口永良部島と桜島、2013年に桜島、2011年には東日本大震災直前に起きた新燃岳の噴火など、いずれもフィリピン海プレートが沈み込んだ場所に当たり、霧島火山帯に位置します。南海トラフ地震が切迫する中、この7年間の活発な活動が気になります。

思い出したい最近の噴火

 この30年余り、全国で大規模な噴火が続いています。2014年には御嶽山が噴火し山頂に居た63人の登山客が犠牲になりました。また、2013年以降、小笠原諸島の西之島の沖では、火山噴火を繰り返しています。新しくできた島が今では西之島と一体になりました。2015年8月には周辺の地下深部でマグニチュード8.1の地震も発生しています。

 2000年には北海道の有珠山が噴火しました。これまでの噴火活動の経験から適切に事前避難が行われ被害は最小限に留まりました。その後、2008年にこの地で洞爺湖サミットが開催されています。

 2000年には三宅島も大規模噴火し、大量の二酸化硫黄が噴出しました。伊豆半島周辺では、1995年に、神津島周辺でマグマの移動と関係した群発地震が発生し、1989年には伊東沖で海底噴火がありました。1986年には伊豆大島の三原山が噴火し、11,000人の島民が全島避難しています。この時期、地震も含め、伊豆周辺の活動が活発だったことが感じられます。

 1990年には、九州で雲仙普賢岳が噴火し、1991年6月3日には火砕流によって報道関係者を中心に46名の死者・行方不明者を出しています。

覚えておきたい日本の噴火

 ここ数百年で覚えておきたい噴火についても触れておきます。20世紀には、溶岩ドームによって昭和新山を作った1944年の有珠山噴火、1929年の北海道駒ヶ岳の噴火、高温の岩屑雪崩で雪が融け泥流によって富良野が壊滅した1926年十勝岳の噴火、20世紀最大の噴火だった1914年桜島噴火などがあります。桜島の大正噴火では、桜島と対岸の大隅半島が繋がりました。

 19世紀には、1888年に磐梯山が岩屑なだれで山体崩壊し、美しかった磐梯山の景観が一変しました。

 18世紀には、島原大変肥後迷惑で有名な1792年雲仙普賢岳の噴火、鬼押し出しを作った1783年浅間山の天明噴火、宝永地震の49日後に発生した1707年富士山の宝永噴火などがあります。島原大変肥後迷惑では、噴火による岩屑なだれが有明海に流入して大津波が発生し、対岸の肥後も含め15,000人もの死者を出しました。

 浅間山の天明噴火では大規模な山体崩壊も起きて火砕流などで千人を超す死者を出しています。同じ年には岩木山の噴火もあり、大量の火山噴出物による大凶作で天明飢饉になり、百万人も人口が減ったようです。同年には、アイスランドでもラキ火山噴火などがあり、世界的に異常気象をもたらしました。とくにヨーロッパでは長期間にわたって農作物に大きな被害が出て、飢饉によって農民が貧困し、1789年フランス革命の引き金になったと言われています。

 宝永噴火は、有史以来最大の南海トラフ地震・宝永地震との関りが考えられます。1703年元禄関東地震と共に、豊かだった元禄文化の終焉とも関係しそうです。ちなみに、富士山の大規模噴火は864年貞観噴火以来の出来事で、その直前には東日本大震災とよく似た869年貞観地震が起きていました。

巨大噴火や超巨大噴火

 日本では、これらの噴火よりさらに大規模な巨大噴火が一万年くらいの間隔で起きてきました。九州では、7300年前に起きた鬼界カルデラ、約2万5千年前の姶良カルデラ、9万年前の阿蘇カルデラを作った噴火などがあります。鬼界カルデラの近くにあるのが口永良部島、姶良カルデラにあるのが桜島です。

 カルデラとは、マグマが大量に放出することで、大規模に陥没してできた地形のことを言います。北海道や東北にも巨大噴火によるカルデラ湖が多数あります。屈斜路湖、摩周湖、阿寒湖、支笏湖、洞爺湖、十和田湖など有名な湖がカルデラ湖です。箱根の芦ノ湖もカルデラ湖の一つです。西日本でカルデラ噴火が起きると日本中が火山灰に覆われますから、日本そのものの存立が危ぶまれます。古事記や日本書紀などに現れる神話が火山活動に関係するのではとの指摘にも耳を傾けたくなります。

 世界には、さらに大きな巨大カルデラがあります。有名なアメリカ・イエローストーンもその一つです。60万年前に発生したイエローストーンの噴火ではアメリカ全土に火山灰が降灰したようで、そろそろ次の噴火の時期だとの見解もあるようです。万一噴火すれば人類の存亡にも関わります。

 カルデラ噴火とはけた違いの超巨大噴火もあります。2億5千万年前の生物の大量絶滅は、超大陸パンゲアを分裂させた超巨大噴火が原因だとの指摘があります。大陸を分裂させるような噴火ですから、生物の大絶滅もやむを得ないかもしれません。

 巨大噴火や超巨大噴火は人間の力で太刀打ちできるものではありません。ですが、ここ数十年間に起こった噴火規模であれば、私たちの知恵と行動で、人的被害を軽減できるはずです。今回の噴火を教訓に、再度、火山との付き合い方を考えてみたいものです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事