「緊急地震速報」開始から10年、効果と限界は さらなる進化への期待

気象庁ホームページより

緊急地震速報、どうして揺れる前に警報が出るの?

 携帯やテレビなどで伝えられる緊急地震速報、なぜ、揺れる前に揺れることを知ることができるのでしょうか。

地震が発生すると、地震波は、最初、震源から四方八方に放出されます。地震波には、P波とS波があります。地震の揺れでは、最初にガタガタという初期微動があり、その後にユサユサという主要動を感じます。前者がP波、後者がS波です。建物を壊すような強い横揺れは、主にS波です。

 地震波は高速で地盤の中を伝わります。P波の方がS波より早く伝わり、固い岩盤の中では、P波は秒速6~7キロくらい、S波は秒速3.5キロくらいのスピードで伝わります。震源から100km離れていればP波は15秒後、S波は30秒後くらいに到達し、P波を感じてS波を感じるまでに15秒程度の時間があります。これが初期微動です。逆に言えば、震源までの距離(震源距離)は、初期微動時間(秒)に7(km)をかけると略算できます。

 もしも、震源の近くに地震計があって、そこでP波は検知し、震源から離れた場所にある大都市にS波の到達を知らせるシステムがあれば、多少の時間を稼ぐことができます。それを利用したのが緊急地震速報です。地震の揺れを早く伝える警報システムなので、EEW(Earthquake Early Warning)システムとも言われます。

 地震発生直後に、震源に近い位置で揺れを検知し、震源から離れた都市に地震発生情報を提供するのに大切なことは、震源の近くに地震計を設置すること、震源と警報を受ける場所の距離がある程度離れていること、即座に揺れを予測し警報を伝える伝達手段があることです。1995年阪神淡路大震災以降に日本全国に整備された地震観測網と、高速計算システム、情報通信システム、スマホなどの携帯端末の普及が、緊急地震速報を支えています。

遠くで発生する地震に有効な緊急地震速報

 海溝周辺で発生する巨大地震の場合には、震源から主要都市までの距離がある程度離れていることから、緊急地震速報が効果的に利用できます。早期の発生が懸念されている南海トラフでの地震をイメージして、震源距離50kmの紀伊半島先端のセンサーでP波の揺れをキャッチし、即座に震源距離が200kmの名古屋に警報を発すると考えると、S波が到達するまで50秒程度の時間を稼ぐことができます。実際には複数点の観測や処理時間に時間を要することから、猶予時間はもう少し短くなりますが、数十秒の猶予時間があれば、様々な安全行動をとることが可能です。

 先月、9月19日(現地)にメキシコ市を襲ったM7.1の地震でも、震源がメキシコ市から120km程度離れていたことから、地震警報システムが揺れの到達前に発せられていました。

古くからある緊急地震速報のアイデア

 緊急地震速報のアイデアは、150年も前、1868年にアメリカのJ.D.Cooperが提案しています(1868年11月3日:San Francisco Daily Evening Bulletin)。震源での揺れを電信で伝えるというアイデアです。まだ、地震発生のメカニズムや、地震波の伝わる速度などが分かっていなかった時に示された画期的なアイデアです。

 我が国では、1972年に伯野元彦東大名誉教授が、海底の地震計で揺れをキャッチして都市に地震情報を提供する「10秒前大地震警報システム」を提案しています。1964年に開通した東海道新幹線など高速の交通機関が出現したことにより、その安全確保のために考えられたようです。

 地震発生時に新幹線を緊急停止させるシステムは、ユレダスシステム(Urgent Earthquake Detection and Alarm System))として実現されました。旧・国鉄鉄道技術研究所が1983年に開発し、1992年に東海道新幹線に導入されました。新幹線沿線などに設置した地震計で、地震波のP波を検知し、オンサイトの演算器でP波初動の特徴から地震規模や距離、震源の方位・深さを推定し、この情報を元に沿線の揺れを予測し、電力供給を遮断して列車を停止させるというシステムです。高速で走る新幹線を緊急停止するため、警報の速さを重視したシステムです。これまでの地震でも、新幹線の減速に大きく貢献してきました。

緊急地震速報の仕組み

 2007年に運用が始まった緊急地震速報では、気象庁の約300箇所の地震計と防災科学技術研究所の約800箇所の地震計のデータが用いられています。地震計の揺れの情報は気象庁に転送され、P波初動から震源位置とマグニチュードを推定し、震源からの距離と地盤の揺れやすさを勘案して各地の揺れ(震度)を予測します。

 緊急地震速報には警報と予報があります。テレビなどで報じられるのは警報です。警報は、2点以上の地震観測点で地震波が観測され、最大震度が5弱以上と予想された場合に発表され、地震の発生時刻、発生場所(震源)の推定値、地震発生場所の震央地名、震度4以上が予想される地域名称(全国を約200地域に分割)が発表されます。

 予報は、機器制御などの利用を意図して迅速性を重視しており、1点の地震観測点で地震波が観測されたときに第1報を発し、その後数回続報を発表し、精度が安定した段階で最終報を発表します。発表内容は、警報の内容に加え、地震規模(マグニチュード)の推定値、予測最大震度が3以下のときは最大予測震度、予測最大震度が4以上のときは震度4以上の地域の予測震度と主要動到達予測時刻です。

直下の地震、続発する地震、巨大地震が苦手な緊急地震速報

 緊急地震速報は、地震波の伝わる時間差を利用することから、内陸直下の活断層地震のように、震源直近の場所では警報が揺れの到達に間に合いません。震源直近では、人命を左右する震度7の強い揺れになる可能性が高いので、活断層近傍に居住する場合には、速報に頼ることなく耐震化や家具固定を進めておくことが肝要です。また、活断層を跨いで高速に走る鉄道や道路の場合には、更なる迅速さが必要になります。今後、オンサイト処理システムとの併用や深部地震計の設置・活用など、システムの更なる高速化が望まれます。

 東日本大震災発生後には、複数の余震が短い時間で続発したため、地震の分離が難しくなり、余震では地震規模や予測震度を過大に評価することが多発しました。このため、昨年末よりIPF法(Integrated Particle Filter 法)と呼ばれる新しい方法が導入されています。

 また、東日本大震災では、地震が巨大だったゆえに、予測震度が過小評価されました。震源域が何百キロにもわたる巨大地震の場合には、破壊開始位置である震源からの距離と震源域からの最短距離とに乖離が生じるため、予測震度が過小に評価されます。また、破壊開始時点では、巨大地震に育つかどうかの判断が困難なため地震規模も過小評価されます。これを改善するため、隣接する地震観測点の震度から揺れを予測するPLUM法(Propagation of Local Undamped Motion 法)が開発され、来年度からの現行法と併用することが予定されています。

 このように、緊急地震速報も、少しずつ改善が進んでいます。近い将来には、震源から離れた場所の高層ビルの揺れに対する長周期地震動に対する情報提供も予定されています。地震の直前予知が困難だと言われる中、短い時間でも揺れる前に猶予時間が確保できる緊急地震速報の重要性が益々増しています。新たな10年で更なる進化を期待したいものです。