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東京一極集中の今、首都震災を防ぐため「東京」を強く小さく安全にできないか

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(提供:MeijiShowa.com/アフロ)

あらゆるモノが集まる東京

人、情報、物、カネ、あらゆるものが東京に集まっています。特徴が異なる複数の大都市が分散する欧米とはずいぶん異なります。このような一極集中は発展途上国の特徴のようにも感じます。政治、企業、食、文化、商業、レジャー、スポーツ、大学・研究所と、あらゆるものが集まっています。地方の若者は、これに魅力に憧れ、東京に集まります。

人口集中は大災害の一番の原因

過度に人口が集中すると、家屋を高層化、密集化しても人を収容できないため、水害危険度や揺れ・液状化危険度の高い低地や、土砂災害危険度の高い丘陵地にまちが拡大します。高層化すれば揺れは強くなり、密集すれば火災の延焼危険度が増します。電気・ガス・上下水などに頼った生活は、ライフラインが途絶すれば破たんします。アメーバ―状に拡大した都市では、鉄道が止まれば膨大な帰宅困難者を生み出します。大規模災害を考えれば、過度の人口集中に歯止めをかけなければいけません。

社会増の都県は首都圏に集中

総務省統計局の統計データによると、人口が社会増の都県は、増加率の多い順に、東京、埼玉、神奈川、宮城、千葉、愛知、福岡、沖縄の8つです。宮城、愛知、福岡、沖縄を除くと、何れも首都圏の都県です。それぞれの増加率は6.6%、2.8%、1.9%、1.9%、1.8%、1.2%、1.0%、0.2%となっていて、東京都への人口移動が抜きんでています。

若者が集まり年寄りが出ていく東京

平成26年の東京都への転入者数は78.9万人、転出者数は71.6万人で、7.3万人の社会増となっています。そのほとんどが、10代~20代の若者です。転入が34.5万人、転出が26.7万人で、社会増7.9万人となっており、全年齢の社会増を上回っています。逆に、10歳未満と50代、60代以上は、2千人、千人、7千人の社会減で、30~40代は5千人の微増です。若者のみが集まり、その後、マイホームを手に入れて郊外に出たり、定年後に地方に移動しているようです。

未婚が多く子供が生まれない東京

東京の合計特殊出生率は、全国平均の1.43人を大きく下回り1.13人とダントツの最低です。また、2010年の国勢調査によると、生涯未婚率は、全国平均が男性20.14%、女性10.61%なのに対し、東京は全国最大の25.25%と17.37%となっており、特に女性の未婚率が突出しています。ちなみに、3世帯同居率は、全国平均7.9%に対し東京は3.1%となっており、子育ての支援環境にも差がありそうです。

人口減少の負のスパイラル

地方で沢山生まれた若者が、出生率や結婚率の低い東京に転出することで、我が国の人口減少が助長されています。この負のスパイラルを断ち切るには、東京の大学への進学や、東京の企業への就職の流れを抑える必要があります。本来は、地方の魅力を高め、地方に留まる若者を増やすことが望ましいことです。地域の持続性は災害軽減の根幹ですし、若者の存在は、災害復興において回復力源泉になりますから、地方創生の政策には大いに期待したいところです。

一極集中なら東京を格段に安全にしたい

関東大震災を思い出せば明らかなように、首都に何かがあった時の他地域への影響は計り知れません。今のように東京一極集中が続けるなら、東京の安全性を格段に向上させる必要があります。首都税を課してのインフラ整備や焼けどまり帯の整備、東京の建築物の安全性を他地域より高める首都安全係数の新設などを考える必要があります。

地方に若者を定着させたい

若者が東京に集まる最大の理由は、大学進学と就職にあるですから、大ナタを振るうことができるなら、大学であれば、東京の大学を地方に移転させたり、東京のキャンパスを縮小し、インターネット遠隔講義や、地方サテライトキャンパスでの教育を考えても良いと思います。誘惑の少ない地方の方が落ち着いて勉強もしやすいでしょう。

企業であれば、地元の支店と本社を行き来する現代版の参勤交代制を採用してはどうでしょうか。家族は地元に置くことを基本とし、本社勤務のときは単身赴任するという、現在とは逆の勤務スタイルです。自然豊かで物価が安い地産地消の地元で子供を育て、時々東京に出かけるという生活です。東京の情報も地方に還流しやすくなりますし、老後は地縁を生かして、安心して生活ができます。インターネットを活用した在宅勤務の普及も地方居住を後押しすると思います。

狭い日本ですが、地方には土地が豊かに残っています。東京一点に集中するよりは、各地に拠点を形成し、そこを中心に集住することで、国土を効率よく使う方が、冗長な社会となり、防災上も有利になります。自律・分散・協調型の社会、コンパクト+ネットワーク型の社会が望まれているようです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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