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首都と地方、暮らしの違いからみる災害危険度

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

東京の低い出生率と高い未婚率

東京の出生率や結婚率は他の道府県と比べ、際だって低い状況にあります。平成25年人口動態統計によれば、合計特殊出生率は、全国平均1.43を大きく下回り、東京は1.13と最低です。また、2014年版の人口統計資料集によると、2010年の若年未婚者割合(男性30~34歳、女性25~29歳)は、全国平均の男性47.3%と女性60.3%に対して、それぞれ54.3%と69.5%になっています。出生率の高い地方で生まれた若者が、出生率や結婚率の低い東京に転出することで、人口減少が助長されています。

過密な首都の災害危険度

現在首都圏には3500万人が居住し、東京都の人口は1300万人にも達します。1923年関東地震のときには、人口200万人の東京市で7万人弱が犠牲になりました。人口増加は、被災者数を増やし、災害対応力を上回る被害を生み出します。人口が増えれば、家屋が密集・高層化し、都市が拡大します。密集化は火災危険度を高め、高層化は揺れの増大を招きます。都市の拡大により、沖積低地や埋立地、丘陵地の谷埋め盛り土に居住する人が増え、強い揺れ・液状化、土砂災害の危険度が増します。立平面への拡大はエレベータや高速交通機関への依存度を増し、エレベータ閉じ込めや帰宅困難者の問題を生み出します。

過疎化・高齢化する地方

一方、若者の転出で過疎化の著しい地方では、高齢化が進み、限界集落化しています。災害時の高齢者の死亡率は若年齢層の5倍程度になります。また、支援者と受援者のバランスも崩れます。災害後の快復力の源泉は若者の力ですから、地方の災害対応力の低下が懸念されます。

共助力の低い都会

都会は一人世帯が多く、隣近所との人間関係が弱くなっています。また、親の出生地の多くが地方で、私学に進学する児童・生徒が多いため、地元との接点の少ない家族も多くあります。このことが、地域活動への参加率を低下させ、地元愛を希薄にさせます。また、過去の災害伝承も伝わりにくいため、災害危険地域を避けることの大切さを忘れがちになります。

自律力の弱い都会

首都圏は都市圏が広大で稠密なため、また、エネルギーや食料を地方に頼り、金融・商業などの第3次産業に特化した産業構造となっているため、製造業や農業が廃れてしまいました。このため、ホワイトカラー率が高く、汗を流して働く人の割合が低くなっています。結果として、地域としての自律力が低く、他地域での災害の影響を受けやすい体質になっています。

低い地方のシンクタンク力

一方、有名大学や大企業、研究機関は東京に集中し、シンクタンクや高級技術者が首都圏に偏在しているため、有能な若者の流出を招き、結果として地方の考える力が大きく低下しています。

魅力ある地域作りで地方創生を

地方創生の成否の鍵は魅力ある地域作りにあります。その基本は「人」です。東京から地方への人の還流が望まれます。そのためには、地域の魅力を高めるしかありません。地域のやる気と連携力を高め、地域の力を結集し、地域の未来を考えるシンクタンクを作っていくことが肝心です。

東京本社の会社に勤めていても、支店に転勤するときは必ず地元の支店にすることで、家族を地元に残し、本社勤務時には東京に単身赴任する、という現代版の参勤交代制を制度化するアイデアはどうでしょうか。また、リタイアしたら、故郷に戻って、東京で得た知見を地方の活性化に活かしていくことも容易です。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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