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急な寒暖差に気をつけろ~冬の突然死を防ぐために

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
秋をすっ飛ばして冬がやってきた昨今、身を守るためにはどうすればよいか(ペイレスイメージズ/アフロ)

いきなり冬が…

 今年(2017年)は秋がなかったのだろうか…。

 この記事を書いている11月24日現在、北海道には「低温に関する異常天候早期警戒情報」が出ている。

今回の検討対象期間(11月28日から12月7日まで)において、北海道地方では、11月30日頃からの1週間は、気温が平年よりかなり低くなる確率が30%以上と見込まれます。

出典:低温に関する異常天候早期警戒情報(北海道地方) 平成29年11月23日14時30分 札幌管区気象台 発表

 北海道を含め、各地で早い初雪の便りが聞かれ、急な寒さに冬服を慌てて引っ張り出している人もいるだろう。

冷え込んだ日には解剖が…

 私たち病理医は、冷え込んだ朝によく思うことがある。今日は病理解剖(剖検)があるかもしれないな、と…。

 経験的に、前日よりぐんと冷え込んだ日に、急性大動脈解離や急性心筋梗塞、脳出血など、血管が原因の病気が急に発症して亡くなった方を解剖させていただくことがある。

 急性大動脈解離は、動脈硬化などでもろくなった血管の壁が割け、そこに血液が流れ込む病気だ。

 急性心筋梗塞は、心臓に酸素と栄養を与えている冠動脈という血管が詰まってしまう病気だ。脳出血はその名の通り、脳の血管が切れて出血する病気だ。

 私が書いた突然死に関する記事は以下だが、もののみごとに秋から冬に集中している。

 なぜ冬にこうした血管の病気が急に発症するのか。それは急な寒暖差が原因となることがあるからだ。

急な寒暖差は危ない

 暖かいところから急に冷たいところに来たりすると、自律神経の働きで心臓の鼓動が早くなり、血圧が上がる。これを寒暖差疲労というようだ。

 寒暖差疲労は日本語の医学論文検索サイト「医中誌」で検索しても論文が出てこないので、実のところ病理医の私には聞きなれない言葉だが。

 言葉はともかく、急な気温の上下に対応しようとして、体には様々なことが起こる。その時に血圧が急に上昇することがある。単に寒すぎる、暑すぎるではないようだ。

 若い人などは、多少血圧が上昇してもなんとかなる。血管がしなやかで、血圧が上がってもそれに応じて血管が広がるからだ。

 ところが、動脈硬化などで血管が硬くなっていた場合、あるいは生まれつき血管の壁がもろい人(マルファン症候群など)は、急な血圧の上昇に、血管の壁が耐えられない場合がある。いわば血管の壁がタックルされたようなもので、急な力に耐えきれず、血管にヒビが入ってしまう。

 大動脈などでは、壁が割けてしまい、急性大動脈解離が発症する。脳の血管など細い血管では、血管の壁が破れて出血する。

 心臓の血管である冠動脈では、急に血液が流れ込むことで、もろくなった血管の壁が傷つき、そこに血の塊ができて血管を詰まらせてしまう。

 こうして、急性大動脈解離、急性心筋梗塞、脳出血などが発症し、それが致命的になる場合があるのだ。

 もちろん、どのようなときに発症するのか、それが死に至るのかは、その人の血管の状態、体が感じる気温の変化の度合い、服装、救命処置の有無、治療など、様々なことに影響される。こうすればよい、悪いとズバッということはできない。だから「~のことがある」などとあいまいな表現をせざるを得ないのだ。

”寒暖差死”をどう防ぐか

 では、こうした寒暖差による突然死をどう防ぐべきだろうか。

 当たり前のことではあるが、まず第一は、血管の健康を保つことだ。

 先天性の病気は別として、動脈硬化は長い時間かけて進む。結局暴飲暴食は避け、適度な運動を心がけ、禁煙するという当たり前のことをすることが重要だ。

 それ、分かっているけどできないんだよねぇ、とおっしゃる声が聞こえてくるが、若くて血管がピチピチしているときに節制しようとはなかなか思わないのが人間だ。実際私自身も実践できていないので偉そうなことは言えない。習慣を変える方法は書籍等を参照いただきたい。

 もう動脈硬化が進んで、血管が硬くもろくなってしまった、という場合はどうすればよいだろう。

 その場合は、極力急な寒暖差を避けるための工夫をすることが必要だ。

 風呂場など、寒暖差を直接受けるような場所では、脱衣室を温めたり、湯の温度を高くしすぎないことが重要だ。

 重ね着をするなど服装には注意することも重要だし、水分補給は随時行い、血液ドロドロを防ぐことも重要だ。

 〇〇を防ぐためにすべき5つのこと、のようなズバッとした記事を期待した人には申し訳ないが、結局のところ、自らの健康を見つめ、それに対して対策を立てていくという当たり前のことが重要なのだ。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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