2016年の研究不正を振り返る

2016年、いったいどのような研究不正事件が発生したのか。(ペイレスイメージズ/アフロ)

なくならない研究不正

 2016年。

 科学界を振り返ると、日本国内では、大隅良典博士のノーベル賞で沸いた年だったと言えるが、報道はあまりされなかったものの、世界でも、そして日本でも、研究不正(捏造、改ざん、盗用を中心とした研究に関する不適切行為)に関する事例が話題になっている。ここでは、2016年を振り返りたい。

国内では~東北大、東大、岡山大、富山大…

 まず日本国内を振り返る。あくまで2016年に何らかの動きがあったという点で数例のみ取り上げており、発生から時間がたっている事例もあるし、これがすべてではない。

 この欄でもたびたび触れてきたが、まずは岡山大学の事件について取り上げなけばならない。

 研究不正の疑義を申し立てた教授2名が解雇されるという、とてもありえない事件。岡山地裁が解雇無効の仮決定をしたのは当然といえる。

 解雇された教授の名誉が回復され、研究に復帰する日が早く来ることを願っている。

 東北大学では、井上明久元学長の研究不正疑義申し立てに対する調査報告が去る12月16日に発表された。

このたび、本調査委員会における研究不正の有無に関する調査結果を踏まえ「研究不正は無かった」と判断しましたので、調査結果を公表します。

出典:研究不正疑義の告発に関する調査結果について

 私は、井上元学長の問題を世に問うた方々にお会いし、様々な資料を見せていただいた。研究不正がなかったという調査報告が果たして妥当なものか、疑問を持たざるを得ない。

 富山大学における事例は、虚偽の研究業績を書類に記載したとの理由で、准教授だった竹内潔氏が懲戒解雇されたという事例だった。

 これも外からみて納得がいかない事件だった。

つまり、応募者は、研究業績リストに記載した未公刊の著書の取り扱いを審査側に委ねるのが文系の慣行です。まして、竹内氏の人事や学長裁量経費の場合では、審査側から、研究業績として認める基準が示されることさえなかったのですから、同氏の記載が問題になるはずはありません。実際、私たちが知るかぎり、全国の文系学部で、研究業績リスト等の業績記載で、懲戒解雇はおろか、軽度の懲戒処分を受けたという事例もありません。富山大学は、学術雑誌に受理された時点で論文の記述内容が確定するために厳密な基準が設定できる理系の基準を援用して、強引に竹内氏の記載を「虚偽」・「架空」と断じ、さらに研究者にとっては目次にすぎない研究業績リストの記載を「経歴の詐称」とみなすという著しい拡大解釈をおこなったのです。

出典:支援の会世話人一同のコメント

 ルールが恣意的に解釈されれば、安心して研究などできないし、執行部の意にそぐわない研究者を追い出すことさえできるということだ…

 このほか、信州大学の研究にも疑義が申し立てられ、調査報告が出た。

 東大の事例も調査が進行中だ。

 東大の事例は調査中としても、その他のケースは共通の問題を浮かび上がらせる。研究不正の疑義の調査が、透明性、客観性、公平性を担保されることなく行われうるという構造的な問題だ。

 こうしたことを考えると、研究不正に関しては、第三者が関与して調査する体制が必要だと言える。

国外では~恒例研究不正事件ランキング

 国外では、その年の研究不正を振り返るランキングが公表される。

 2016年のランキングをみていこう。

 トップ5を簡単にご紹介する。

  1. Jin Cheng(所属はアメリカ):19報の論文を撤回。
  2. Michael Dansinger(アメリカ):レビュアーなのにレビューした論文の内容を盗んで自分の論文として出版した。
  3. Ming-Jin Liuら(中国):論文のディスカッションのなかでCreater(創造主)が手を作ったと記載し、批判が高まり撤回。
  4. Sudarsanareddy Lokireddy(アメリカ/シンガポール):研究グループのメンバーの不正により学位を失い、それがもとでハーバード大学を去ったのち論文を撤回。
  5. Federico Infascelli(イタリア):遺伝子組換え動物の研究で捏造により論文撤回。

 別のランキングをみてみよう。

  1. ヒトパピローマウイルスに対するワクチンがマウスの行動に影響を与えるという論文とワクチンが自閉症を引き起こすという論文が撤回。いずれも撤回されたのちも反ワクチンの人たちが本当だと信じてコメントしている。
  2. インドの科学者:レビューアが審査した論文を盗んで自分の論文として出版
  3. Ming-Jin Liuら(中国):論文のディスカッションのなかでCreater(創造主)が手を作ったと記載し、批判が高まり撤回(The Scientistと同じ)。
  4. Shyi-Min Lu(台湾):再生利用可能エネルギーに関する論文を多重投稿
  5. 咳から尿が出たという論文(そんな患者いなかった):オランダの医学生のいたずらが出版された

(次点A:マリファナの使用とメンタルヘルスの問題に関係がないという論文が、関係があると訂正されたが撤回されず。次点B:飽和脂肪酸は不健康ではないという論文が、論文に問題があるという多数の抗議にあい、訂正はしたものの撤回されず。)

 このように、2016年も世界各地でも研究不正が発生した。日本の事例は入っていないが、アジアの事例が多いように感じる。

新たな動きもあるが…

 毎年毎年、STAP細胞事件どころではない事例が報告されている。辟易してしまう。

 こんな中、日本でも研究不正を少なくするための新たな動きが起こっている。

 会長は吉川弘之氏(元東大総長)、理事長は浅島誠氏(私のかつての指導教官)。重鎮が名を連ねている。信州大学などが行っていたCITIジャパンプログラムを引き継ぎ、研究公正教育などを行っていく。

 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)科学技術振興機構日本学術振興会など公的機関が研究公正問題に取り組んでいるが、APRINのような研究者自身の自律的な動きも重要だといえる。私自身もAPRINに関わる予定だ。

 しかし、まったく楽観はできない。日本の事例で述べたように、研究不正事例の調査すらまともにできないのが日本の現状だ。

 個人で研究不正事例のアーカイブを作る白楽ロックビル氏は、アメリカの研究公正局のような第三者機関設立への期待を捨て、警察が調査せよとさえ言っている。

 皆さんはどうお考えだろうか。私はまだ科学者たちの自主性に期待したいが…甘いのだろうか。

 世界的な撤回論文(研究不正)監視サイトであるRetraction Watch白楽ロックビル氏世界変動展望ほどはいかないが、私も日本の事例を中心にウォッチを続けていきたいと思っている。