炎上岡山大学~研究不正疑義申し立てた教授が解雇される

岡山大学執行部の対応に批判が集中している(提供:アフロ)

記者会見開かれる

 元旦の記事でも触れたが、今岡山大学で研究不正にまつわる疑惑が取りざたされ、ネット上で大きな話題になっている。

研究不正を告発した教授らを岡山大学が解雇処分に

 岡山大学医学部の研究者が関わる論文31報に疑義を訴えた、同大薬学部の教授2名が、パワハラをしたとして停職処分になり、その後「岡山大学教授としてふさわしくない」との理由で解雇された(前回の記事でパワハラをしたとして解雇されたと記載したが、誤りであり訂正する)。パワハラによる解雇なら、懲戒解雇になるはずなのに、普通解雇という不可解な理由で解雇されたという。

 2016年1月12日、解雇された2名の教授が記者会見を行った。

 以下報道

岡大元教授 解雇無効求め提訴

岡山大 2教授を解雇…論文「不正」を告発

岡大が教授を解雇 元教授らも提訴

 記者会見の資料が片瀬久美子氏のサイトにアップされている

国立大学法人岡山大学森田潔学長は平成26年12月28日付けで岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授である私、森山芳則と榎本秀一教授を解雇(普通)しました。

解雇理由は、国立大学法人岡山大学教授としてふさわしくないというものです。配布した資料にもありますように、具体的な解雇理由はそれぞれ9つがあげられております。しかしながら、いずれも事実誤認に基づくものか、事実であっても、解雇理由にはなりえないものであり、本日、森山と榎本両名は、岡山大学の決定を不当であるとして、解雇無効と研究科教授としての地位保全の訴訟を岡山地方裁判所に提起いたしました。

出典:解雇無効記者会見資料

ハラスメントにより9ヶ月の停職処分にし、処分終了後直ちに、理由なく7ヶ月強の自宅待機処分を科し、その後、事実誤認等に基づいた不確かな理由により、普通解雇したことになります。

停職処分の前に10日程度の自宅待機処分がありましたので、それも勘定に入れますと、大学は都合一年4ヶ月弱の間、私と榎本教授を大学から閉め出し、学生が教育を受ける権利、我々が研究し教育する権利を奪い、そのあげくに追放したことになります。

出典:解雇無効記者会見資料

研究不正告発で解雇?

 上記資料でも指摘されているが、今回二人の教授が解雇された原因として、二人の教授が、現理事長を含む医学部に所属する人たちの研究不正に関する疑義を訴えたことに端を発したのではないかと疑われている。

 片瀬久美子氏のウェブサイト(岡山大学医学部不正調査の問題点その2その3)や2016年1月3日付の毎日新聞の記事が指摘するように、研究不正の指摘に対して行われた内部調査がずさんだったことが明らかになっている。

 様々な疑義の指摘に対し、内部調査が行われたのだが、「査読付きの論文に掲載されたのだから、研究不正はない」といったような結論を導き出し、数回の会議で研究不正なしとの結論を出している。しかもこの調査は公表されていない(情報開示請求しないとみられない)。

 疑義が申し立てられたのは一昨年であるため、2006年制定の旧ガイドラインに基づき調査が行われたが、このガイドラインでは、

調査機関は、不正行為が行われなかったとの認定があった場合は、原則として調査結果を公表しない。ただし、公表までに調査事案が外部に漏洩していた場合及び論文等に故意によるものでない誤りがあった場合は、調査結果を公表する。

出典:研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて 研究活動の不正行為に関する特別委員会報告書(2006年)

 とされており、内部調査で不正行為がない、故意による誤りがない、とされれば、調査結果は公表されないのだ。これは2015年4月から適用されている新ガイドラインでも同じだ。片瀬氏が指摘するように、まさに内部調査のブラックボックス化だ

 だから、もし意図的に内部調査で不正行為なしとの結論にもっていけば、研究不正を闇に葬り去ることもできるのだ。

 それ自体は大きな問題なのだが、それ以上に問題なのは、研究不正の疑義を申し立てた、という理由で解雇されたのではないか、つまり報復なのでないかということだ。

 根拠に基づき疑義を申し立てること自体は、なんら問題のある行為ではない。疑義を申し立てられたほうが、潔白を証明できればそれでいい。

 しかし、その行為をもって「教授にふさわしくない」などと言われ解雇されるならば、論文に対する健全な批判すらはばかられてしまい、科学の発展は阻害されてしまう。

 そもそも、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」には

研究・配分機関は、悪意に基づく告発であることが判明しない限り、単に告発したことを理由に、告発者に対し、解雇、降格、減給その他不利益な取扱いをしてはならない。

研究・配分機関は、相当な理由なしに、単に告発がなされたことのみをもって、被告発者の研究活動を部分的又は全面的に禁止したり、解雇、降格、減給その他不利益な取扱いをしたりしてはならない。

出典:研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(2014年8月)

 とされており、もし今回の解雇が研究不正の告発によるものであるならば、明確にガイドライン違反だ(2006年の旧ガイドラインにも同様の記載あり)。

何を守りたいのか

 もしこうした疑義が事実だとするなら、なぜ大学当局は、研究不正の告発者を解雇するなどという苛烈な報復に出たのか。

 告発された論文に現学長が関わっているから、論文の内容をもとにベンチャー企業ができているから、国立大学法人の中間評価で高い評価を受けた大学を守りたかったからだ、といった理由が取りざたされているが、はっきりしない。憶測を述べるのは控えておく。

岡山大事件の三つの側面

 今回の岡山大学事件は三つの側面から捉える必要がある。

 (1)論文捏造そのものの問題

 (2)研究機関と製薬企業の関係性

 (3)国立大学のガバナンス

 これら三つがない交ぜになりながら事態は進行している。それぞれの要素を解きほぐしながら、子細に検討しなければ全体像は見えない。

出典:集中 「不正論文は山のよう」岡山大医学部の風土と限界

 との指摘もあり、事情は複雑だ。

 ただ、透けて見えてくるのは、岡山大学における医学部の力の強さだ。

 一般に総合大学は、学長に医学部出身者が就任することは多い。医学部の教員の数が相対的に多いことが原因と言われる。たとえば、東北大学の里見総長、名古屋大学の松尾総長は医学部出身だ。そして、岡山大学の森田潔学長も医学部出身だ。

 とくに岡山大学医学部は、明治初期に設置された藩校を起源にもつ、医学界きっての名門だ。関連病院は中四国から兵庫県にも及ぶ。医学部の「格」では、同じ中国地方の広島大学医学部をはるかに凌駕する。

 その岡山大学で、医学部と薬学部は「医薬学総合研究科」という大学院を構成している。しかし、両学部の地位は対等ではないようだ。薬学部は1969年に設置された。すでに47年の歴史をもつが、100年以上の歴史をもつ医学部からみれば歴史は浅い。

 一般的に言って、医師(MD)は医師免許を持たない研究者(non-MD)を格下にみる傾向がある。今回の件にも、その意識が関わっているようにみえるが…これも憶測にすぎないので、この辺にしておく。

 私が初期研修を受けた神戸赤十字病院には、岡山大学医学部出身の医師が多くいた。神戸大学出身の私にも分け隔てなく接し、指導してくれた。病理医として働く現在も、岡山大学の研究レベルの高さや人材の豊富さを目の当たりにしている。

 岡山大学は、卒業生の名誉を守るためにも、様々な疑惑に対し、きちんと説明してほしい。