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「本屋があるまち」の姿を保つために。小さな本屋の生き残り方は

江口晋太朗編集者/リサーチャー/プロデューサー

地方出張が多い筆者だが、各地を訪れる場所で必ずすることの一つが「書店巡り」だ。

地域の書店、特に大型書店やチェーン系ではなく、地場ならではの書店や小さな本屋を巡り、どんな本が置いてあるか、どんな棚かを見て回る。

観光ガイドから地域の歴史本、その地域でしか手に入らない限定本、時には自費出版や地域の出版社が出している部数の少ない本など、普段目にしない貴重な本や珍しい本が置いてあることもしばしある。

新刊コーナーや人文系の棚、文芸・文学コーナーの選書など一通りの棚の様子を見れば、その書店の店主なり書店員のイメージが湧いてくる。そこには、どういう本をその地域の人たちに読んでほしいのか、どういう人達がこの地域に住んでいて、どんな本に日々触れているのかが見えてくる。毎回訪れるたびに新しい発見や出会いがあり、そこで手に取った本を購入することがほとんどだ。

新刊書店だけでなく、古本屋をめぐるとその面白さはさらに増す。絶版になった本、今では手に入れることは難しい本、ジャンルも様々だ。特に古本は、戦前戦後の方々が読んでいた本が地域の古本屋に集まることがある。そのラインナップを見れば、地域の人たちの教養や文化度合いの高さに驚くこともしばしある。

しかし、書店そのものは年々減少傾向にあり、2017年時点で12,526 店というデータがある。一方、小さな本屋がまちから次第になくなり、大型店舗や新設店舗の大型化などの動きが見て取れる。

書店数とその坪数推移をグラフ化してみる(最新)(ガベージニュース)

身近に本屋がないと、情報の接点はますますネット経由やSNSなどの一部の情報ばかりに接する機会が増えるばかり。わかりやすいものや誇張した表現ばかりが目につき、とっつきにくいけどじっくり腰を据えて読むものや、文学などじっくり読むことによって本の世界に没入することによる楽しさを見出す機会が損なわれる。

こうした動きがあるなか、雑誌などでも頻繁に本屋特集がされ、名のあるクリエイターらが本屋を開業するなど、本屋を取り巻く広がりに幅ができてきている。最近では、取次を通さずにトランスビュー方式で本を流通させる出版社がでており、そうした独自の本を仕入れ、個性を出す本屋もでてきてる。

本屋が積極的に本に関するトークイベントやライブを行うなど、企画力などを武器に収益モデルを作る動きもある。とはいえ、そうした企画力なり出版社を巻き込んだことをすべての書店ができるとは思えない。

こうした個性的な本屋だけでなく、街場の本屋ならではの、お客さんとの接点づくりや丁寧なコミュニケーションを軸とした取り組みを通じて、馴染みの本屋として日々足を運んでもらう機会を作るような取り組みも必要ではないだろうか。

まちの本屋「石堂書店」の新しい挑戦

石堂書店の様子:まちに本屋を残したい!『まちの本屋リノベーションプロジェクト』(CAMPFIRE)より引用
石堂書店の様子:まちに本屋を残したい!『まちの本屋リノベーションプロジェクト』(CAMPFIRE)より引用

妙蓮寺にある石堂書店は、今年で70年を迎える老舗の小さな本屋だ。創業者が命名した「本のオアシス 石堂書店」という屋号のとおり、住宅地である妙蓮寺の駅そばにありながら、街場ならではのゆったりとした時間が流れている場所だ。

そんな石堂書店も70年を迎えるなか、三代目の石堂智之さんは、まちの本屋としての役割を見直そうと、地域の人たちと一緒にこれからのまちの本屋のあり方を模索しはじめた。

ただ本が買える場所では、Amazonなどネットショップが利便性に優れている。まちの本屋として、小さな空間でお客さんに満足してもらうためには、自分たちなりのメッセージや、地域との共存関係において愛され必要とされる場所とならなければいけない。

「本屋が、まちの人から必要とされなくなった」とならないように、地域に根付く不動産屋の「住まいの松栄」さんと、出版社である三輪舎さんらとタッグを組み、まちの本屋の風景をつくるための本屋リノベーションプロジェクトを立ち上げている。

その一つが「ホンヤノニカイ」。イベント&ワーキングスペースを開設し、地域の人達と本について語らう「本屋BAR」の開催など、本と人とがつながるような取り組みをスタートしている。本屋BARでは、集客力のあるゲストで人を集めるのではなく、本を介して、丁寧に地域の人たちと語らおうとする姿が見て取れる。

他にも、石堂書店の向かいにある、現在倉庫になってるスペースを気軽に立ち寄れるブックスペース「こいしどう書店」としてリニューアルし、近隣のお店の飲食を持ち込んで食事ができるカフェスペースや地域在住の作家さんらが作品を展示できるアートギャラリースペースなどに活用しながら、「まちに開かれた本屋」として動き始めている。

現在、クラウドファンディングでプロジェクトの支援を募り、ブックファンディングやこいしどう書店開設のための資金を集めている。

本の販売だけでなく、地域にとって本が、そして本屋が欠かせない場所となるためになにができるだろうか。石堂書店だけにとどまらず、「本屋があるまち」をつくるために、地域人たちと向き合おうとする本屋は全国的に増えてきている気がする。

阿佐ヶ谷・ネオ書房の復活

大型の企業書店と違い、石堂書店のように家族経営による小さな書店経営者の大きな悩みは、売上そのものによる事業の難しさだけでなく、跡継ぎがいないという地域の中小企業と同様に事業承継に悩まされているケースも多い。資金的な問題や本屋という業態そのものの生き残りも含めて、いかにして事業を継続させていくかを考える本屋も多いはずだ。

古くからある本屋は、そのまちの歴史や文化を築いてきた場所でもあり、地域の文化資源的な場所である。日々、各地の本屋の閉店情報をSNSで見るたびに、数年もしたらここに本屋があったことさえ忘れされてるのか、と寂しい気持ちに駆られる。もちろん、事業として、ビジネスとしての収益モデルを作るための努力も必要だが、それと同じくらい、地域の人たちに買い支えてもらえる場所に本屋はなってほしいと筆者は願う。

阿佐ヶ谷にあるネオ書房は、そうした事業承継問題のなかにあって、家族以外の人が屋号を引き継いだ事例の一つだ。

ネオ書房は、貸本屋として1954年から営業している老舗の本屋で、10年ほど前から古本屋としてネットショップでも古書販売も営みながら営業をしていたが、惜しまれつつ一旦閉店した。そこに、評論家の切通理作さんが新たに店主として古書店を再出発するとなり、先日の8月10日に再オープンした。

インタビューによると、元の店主もまだご存命で、元の店主から店舗を借りている形にはなってるものの、屋号もそのままに、元々のネオ書房が営んでいた古書店の雰囲気を残しつつも、切通さんならではのテーマを軸に古本と一部の新刊、そして駄菓子を売る場所としてスタートしている。切通さんのTwitterを見ると、日々多くの人たちがネオ書房を訪れている様子が伝わってくる。

このネオ書房も、2階を小規模なイベントスペースにして、講座などを行いながら「個性を保ちながら、開かれたお店」にネオ書房をしていくと切通さんは語っている。

切通さん自身、本屋の経営もするが、自身の評論活動をやめるわけではないため、本屋をしながら個人の執筆活動にも勤しんでいく。個性ある店主、思いを持った新しい店主に生まれ変わったネオ書房。もちろん、切通さん自身のパーソナリティや個性もあるものの、以前のネオ書房のお客さんもいたりと、阿佐ヶ谷に70年も営んでいた本屋ということで地域で暮らす人達にとってもある程度馴染みの場所であったことは間違いない。何十年とそこに「ある」からこそ、地域の人たちに愛され、様々な人の歴史や人生と関わり続けた本屋。そこに、新しい息吹を吹き込んで再スタートした本屋になったことで、阿佐ヶ谷の文化的拠点が新しく生まれ変わったといえる。

まちの本屋だからできること

本屋は本だけを売っていた用に見えたが、そこには、文化を売る媒介者としての役割があり、書店の店主なりの個性や考えが反映された書店は、ただ本を手に取るだけでなく、店主とのやりとりや、時にはお客さん同士で話が盛り上がることもある。

本屋がただ本を売るだけでなく、思想や物事に対する向き合い方など、「本」という媒介のみならず、本がある空間全体に漂う「何か」を感じさせる場所であることがわかる。

「本」だからこそできる表現やコミュニケーション方法、「本屋」だからこその場作りや地域の憩いの場としての機能がそこにはある。

ときには、「本屋」という業態にとらわれず、カフェと本屋、雑貨屋と本屋など、本を媒介に商売や場作りをする方法はいくらでもある。

まちに「本屋」があることは、地域の文化を下支えする場所だと筆者は考える。路面店に本屋があることで、ふらっと思った時に立ち寄った本屋で見つけた本との偶然の出会いや、自分の悩みを解決する一言と本を通じて出会う。

まちに一つ本屋があること、小さな本屋、個人で経営してる本屋だからこそできること、街場にひっそりとある本屋だからこそできる役割とやり方で、今日も「本屋のあるまち」が賑わいをみせている。

編集者/リサーチャー/プロデューサー

編集者、リサーチャー、プロデューサー。TOKYObeta代表、自律協生社会を実現するための社会システム構築を目指して、リサーチやプロジェクトに関わる。 著書に『実践から学ぶ地方創生と地域金融』(学芸出版社)『孤立する都市、つながる街』(日本経済新聞社出版社)『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)他。

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