主権者にやさしい選挙のための、抜本的な選挙制度の見直しに向けたいくつかの議題

(写真:つのだよしお/アフロ)

第48回衆議院議員総選挙(衆院選2017)の投票日が10月22日に迫ってきている。すでに選挙の後半に差し迫っているなか、野党の席数、とりわけ、希望の党、立憲民主党の議席が大きく左右する選挙になることは間違いない。

さて、今回の選挙の争点とは少し目線を変えて、選挙を取り巻くさまざまな制度とその課題についてまとめてみたい。

共通投票所の拡大

2013年7月の参院選からネット選挙が解禁され、今では当たり前のように選挙期間中のSNSにおける発信が行われるようになった。このSNSの活用によって、ネット上でのコミュニケーションの振る舞い方一つがネットニュースの話題となるほどだ。一方的な発信か、それとも対話を重んじるか。それぞれの政党や政治家の態度や姿勢にもかかわってくる。

そして、2016年6月の改正公選法により、18歳への選挙権の引き下げが起きたことは大きな話題を呼んだ。また、有権者は投票所に18歳未満の子供を同伴できるようになったのも大きい。これらを契機に、今まで以上に若者に対する主権者教育選挙や政治に対する啓発活動、模擬投票などの若者の政治参加を促す活動も活発化している。

他にも、改正公選法で変更になったのが「共通投票所」の拡大だ。有権者の投票機会を拡大するため、国政選挙や地方選挙の投票日に、駅やショッピングセンターなどに設けた「共通投票所」で投票できるというものだ。また、期日前投票の開始と終了時刻も広げることができ、期日前投票において、原則午前8時半から20時までの投票期間を、各自治体の判断で6時半から22時まで拡大できる。

改正を踏まえて、全国にショッピングモールを展開するイオンは、全国58ヵ所のイオン店舗に期日前投票だけでなく、投票日当日も「共通投票所」を設置すると発表した。

大学の構内など、10代20代が普段行き来する場所での投票所の設置も増えてきた。各地にこうした共通投票所が設置されることで、負担なく、誰もが投票しやすい環境にするための改善が求められる。

期日前投票の一般化

期日前投票は2003年の改正公選法の施行で導入され、導入から現在までの期日前投票の投票率は比較的増加の傾向だ。

期日前投票が実現して最初の2004年参院選では、投票者数に対する比率が12%ほどだった利用率も、2016年に行われた参院選の期日前投票数が2013年参院選と比べて23.47%増の1598万人だったと発表。2009年衆院選の1398万人を上回り、有権者に占める比率は15%だったという。

また、過去の衆院選の期日前投票の割合は、投票者総数に対する比率で2012年は20.44%、2014年は24.98%としており、期日前投票自体の認知や投票率も比較的向上しているといえる。(参照:http://www.soumu.go.jp/main_content/000365958.pdf

今回の衆院選2017でも、期日前投票の投票率の向上が報道されている。総務省によると、15日までの衆院選小選挙区で、公示日翌日の11日から15日までの5日間に有権者の3.86%に当たる410万7108人が期日前投票を済ませたとの速報値を発表しており、前回2014年の同期間よりも1.52倍となっているという。

事前に優位な状況を作り上げたであろう候補者や政党としては、選挙戦がもつれるよりも早めに投票に行って欲しいと考えるだろう。ネット選挙による選挙期間中の積極的な情報発信もあいまって、早めの投票を訴えており、今回の衆院選でも、首相も含めた各党党首や著名な議員が「期日前投票をしてきた」とSNSなどで報告し、それらの様子がメディアで取り上げられるまでになっている。

期日前投票と投票率の関係は?

筆者撮影
筆者撮影

一方で期日前投票にも課題もある。

期日前投票の認知や利用の広がりがあるなか、実際の投票率そのものには大きな影響を及ぼしていないという点だ。動員された組織票が早めに投票していたり、制度の認知が広がってきたことにより、もともと選挙投票日当日に行ってた層が早めに投票を済ませたとも言える。事実、これまでの国政や地方選挙においても期日前投票の率が上がってきたものの、最終的な投票率を大きく底上げしているとはいえないケースが多々ある。

選挙投票日以前に投票する有権者の割合が増えているということは、選挙投票日以前にどの政党、候補者に投票するのかを決めている、もしくは選挙がはじまってすぐに決断をしている有権者がいる、ということでもある。少し古いデータになるが、明るい選挙推進委員会の調査によると、平成23年度の統一地方選挙において投票した有権者の約半数は選挙時に候補者が出揃った段階で誰に投票するかを決めているという。(参照:http://www.akaruisenkyo.or.jp/060project/066search/1273/

国政と地方選挙の違いはあるものの、投票の決め手をどこにするかは、投票の際に重要な要素となる。その重要な要素が、選挙が始まる前、もしくは始まってすぐに決まっているという現状は、それまでに政策議論が煮詰まるだけの材料を揃えなければいけない。だからこそ、きちんとした政策論議を通常国会で行うことの重要性が増してくるのは間違いない。今回も選挙が始まる前からさまざまな経緯や発言が話題も呼んでおり、普段の政治活動そのものにまで選挙情勢は影響しているといえるだろう。

期日前投票のもう一つの課題として、指定の投票所や共通投票所で投票行うことのコストだ。自治体は、各投票所を通信回線で結び、情報共有を行うことで二重投票を防止するための対策を行っている。そのため、投票所が多い都市部の自治体ほど、整備や設置に費用がかかるという。

こうした課題をクリアにするための技術の導入や、簡易、効率化できるための選挙制度や仕組みづくりを、私たちは真剣に考えなければならない。なぜなら、私たちが納めた税金が選挙費用として使われているのだから。選挙そのものは社会基盤として必要なものでありつつも、それを支えるコストの部分をどう捻出するか。なんのための選挙か、選挙や政治が私たちにとって身近で自分事として捉えるべきでもある。

「期日前投票」から「投票期間」へ

選挙は選挙投票日に投票所において投票することを原則(投票当日投票所投票主義)としているが、こうした期日前投票の周知や利用の広がりを見せている背景には、投票率の向上だけでなく、個々人のライフスタイルや生活習慣、価値観の多様化が関係している。

かつての一日だけの投票では、投票所に足を運ぶことが難しかったり、投票所の数の問題から行列になることを避けて投票に行かないという人たちもいただろう。日曜に投開票が行われることの多い各種選挙は、仕事や家族の都合で日曜に投票に行けない人、もしくは行きたくない人もいる。

こうしたことからも、投票日という一日だけの概念ではなく、「期日前」と名付けられた言葉の不自然さを払拭し、一定期間において公式なものとして投票する期間だと捉えるほうが妥当だ。現行では、公示日から選挙が始まり、公示日翌日から(期日前)投票が可能となる。言い換えれば「期日前」よりも「投票期間」、「選挙投票日」を「最終投票日」もしくは「投票締切日」という意味合いと捉えることができる。

同時に、投票が可能になるタイミングで、選挙の情報を知る手段、とりわけ選挙公報や各党の政策を知る手段を担保しなければいけない。公示日翌日から投票できるとはいえ、選挙公報が配布されるのはもう少し後からだ。もう少し詳しく説明すると、各市町村の選挙管理委員会が、選挙人名簿に登録されている人の世帯毎に、選挙投票日の二日前までに配布することと、公職選挙法に規定されている。また、出馬の申請をしてからそこから入稿、配布となると、当たり前だがある程度の時間を要してしまう。

現実的に投票可能な状態になるのと、投票に必要な最低限の情報が行き届くための状態をいかに作り出してから投票できる状況にするのは別である。投票可能な日程をそもそも後ろ倒しにするか、それとも、出馬の締切と公示日を別にするなどのいくつかの方法が考えられるだろう。

言葉によって概念が生まれ、そこから新たな考え方や人の行動がデザインできる。投票をその期間であればいつでも自由に行えることを公式に表現することで、投票に対する向き合い方も変わってくるはずだ。現在、投票所が選挙投票日と期日前投票が区分けされているため投票所が変わることがあるが、それすらも有権者にとってはわかりづらい。それらを解消し、言葉の意味として一元化・同一化し、投票期間であれば定められた同一の投票所で行えることにすべきだ。こうした、人の行動や情報デザインの面から、制度と向き合っていかなくてはいけない。

もちろん、課題もある。現在では、投票所は公立の小学校などの公的な場所で行われるが、それは日曜日に限定されているからであり、それらすべてが投票期間すべてに対応することは難しい。小学校になっている理由は、ある一定範囲内に住んでる人たちが通う、もしくは認知されやすい場所で、かつ足を運びやすいところという意味が大きい。であれば、既存の公的機関の施設や、公民館や市役所などさまざまな公的設備が、普段から足を運べるようにすべきではないだろうか。

普段から出入りしやすい公的施設であり、かつ災害時などの緊急時における場所も兼ねること、それでいて、小学校だけではない、常時、公的な行事に利用しやすい場所といった条件のもと、さまざまな地域コミュニティを育むための行事など、他の利用用途も踏まえた場所の選定や複合施設を利用することも見据えていきたい。それらがない場合は、そうした施設こそが、地域のシンボルであり、ある種の愛着をもてる、シビックプライドをもてるような公的な施設として設置することを条件に、施設の見直しや改築を行う、といった判断が行えるはずだ。選挙にともなうさまざまな設備費や運営コストの問題もでてくるが、先に上げたポイントも踏まえながら、改めて制度そのものの見直しや、公的設備に対する予算の配分といった、普段の行政判断を見直すきっかけとなるはずだ。

将来的なネット投票も見据えた選挙制度の一歩を

「期日前投票」という表現から脱却することは、投票へのハードルを下げたり投票率向上に向けた設計だけでなく、将来的にありうるかもしれない「ネット投票」にもつながってくる。すでに、ネット投票を実現しているエストニアでは、国民IDをもとに自宅のパソコン等から「期日前投票」が行える。もちろん、エストニアでは「選挙投票日」の考え方は存在し、その際には紙面による投票を行う。

ポイントは、投票の締切日時まで再投票が可能な点だ。つまり、最初はA候補に投票したけれどもその後にB候補に修正することができる。電子で投票した後、紙による投票で差異が生じた場合は、紙での投票先が優先される。誤解されがちなのだが、エストニアにおけるネット投票は、「選挙投票日」の通常の投票の代わりの新技術としてではなく、あくまで「期日前投票」の一環として導入されたものであり、選挙の参加方法の選択肢の幅を広げるという趣旨である。そのため「選挙投票日」にはネット投票はできない。(エストニアのネット投票含めた電子政府については『未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界』に詳しい)

人によっては、再投票が可能になることに対して、投票そのものの価値や誠実さに疑問を呈する人がいるかもしれないが、重要なのは、個人の意志によっていくらでも再投票が可能となるシステムに意味がある。そのため、仮にネット投票で集団投票を行ったとしても、個別に個人的に投票先を修正することができる。これがないままネット投票を導入しても、不正選挙の温床となる可能性はいなめない。

「投票期間」という表現によって、いつ、どのタイミングで投票するか、という考え方の幅が広がってくる。投票行為がいついかなるときも可能であることを正式に統一することで、将来的な「ネット投票」の可能性を見据えた一つのステップにもなるだろう。

もちろん、それらを担保するためのデータ保護が求められるが、情報社会を構築するために必要な情報基盤や技術を開発することは、社会全体にとって大きなメリットをもたらすはずだ。一度にすべてが解決されるわけではないが、じょじょにこうした技術や考え方を広めていくことが求められる。ITセキュリティは世界的にも大きな課題となる。国家的なホワイトハッカーの養成はまた違った議論として深めたいところだ。

期日前投票に関してもう一つある。衆院選では最高裁裁判官の国民審査が行われるが、前回の衆院選の国民審査は期日前投票の開始が「投票日の7日前」からであった。そのため、「7日前」よりも前に「期日前投票」をした人は最高裁裁判官の国民審査を行っていないのだ。

こうした問題に各地の選挙管理委員会に苦情が寄せられたこともあり、昨年、最高裁裁判官国民審査法が改正され、期間が衆院選と同じ「11日前」に前倒しされたのは喜ばしいことだ。国民審査そのものの理解や浸透ができていない課題が一方ではありつつも、国民審査一つとっても、私たちが持つ投票の権利を健全にするための地道な提案によって、法改正が行われたということを知っておかなければいけない。

在外投票が持つ課題

海外勤務者の海外在住における投票を可能にする「在外投票」という制度があるが、同制度について問題を指摘する声は大きい。その理由は、海外滞在時に各在外公館で在外投票の手続きを行うが、それには3,4ヶ月ほどの時間を要し、在外投票登録が間に合わず投票ができなかったというものだ。参院選や地方選などある程度日程が決まった選挙ならいざしらず、今回の衆院選のように突発的に起こる選挙では難しい。

そこで、2016年に改正された公選法でもこの点に関しての改正が行われ、海外への転居前に国内で申請できるようにし、手続きを約一カ月に短縮するとしているが、法施行は2018年予定で、今回の衆院選では適用できていない。外務省領事館や各大使館は、事前に選挙人名簿登録を済ませて欲しいと伝えてはいるものの、海外勤務者にとっては自身の転居や仕事に関することで手一杯で、なかなか選挙人名簿の登録にまで意識は向きにいため、このあたりの制度のさらなる簡略化は今後の課題だろう。

自筆の必要性を問う

他にも選挙に関する課題はまだまだある。例えば、疑問票も含めた自筆による投票の是非だ。

日本においては、投票日当日に主権者自らが投票所へ行き、自筆で投票用紙に記入するのが原則だ。疑問票は、投開票のために動員されるスタッフの人件費などの問題もはらんでいる。また、疑問票や自筆による無効票など、本来の平等選挙に欠損を生み出しているともいえる。

そこで議論されるのが、候補者や政党選択のマークシート方式だ。疑問票はスタッフによる判断で行われるため、そこにかかるコストや開票作業の煩雑さをマークシートなどの記号を使うことで効率化できる。自身の重要な一票が、自筆によって無効化してしまうことはなくなさければいけない。

ちなみに、現在の制度でも記号式投票を行う自治体も一部に存在する。八千代市や、東京・港区では、港区長選挙で導入している。

海外ではマークシート方式、タッチパネル式、ボタン方式などさまざま試行錯誤を繰り返している。日本でも、一部の自治体で実証実験は行っているものの、いまだ一般化するほどの広がりは見せていない。

識字率の高さや、日本の選挙の歴史を踏まえ、自筆で投票することが前提としてこれまで選挙制度は設計されてきた。しかし、だからといってすべての人が自筆できるとは限らない。ディスレクシアなどの読み書きに障害のある人、目が見えない人、耳が聞こえない人などさまざま障害をもった人たちにとってやさしい選挙には対応していないのが現状だ。世界でも、識字率の問題や読み書きができない人にもやさしい投票にするための改善が行われている。

「代筆投票」と呼ばれる、障害などで投票用紙の自筆が困難な人が利用できる制度もあるものの課題は多く、制度の改正を求める声も大きい。現行の公選法では不正防止のために代筆を投票所係員に限定しているが、係員がかならずしも障害者に対して対応がきちんとできているかというとそうでもない。また、秘密選挙の考えを踏まえても、知らない第三者よりも、ヘルパーや家族など、普段から接している人に代筆してもらいたいという意見も多い。

代筆投票以外にも、点字投票、郵便投票などさまざま投票方法が模索されているものの、もちろん障害者自らが投票することが最も望ましいはずだ。であれば、それを可能にするためにも自筆・代筆以外の方式も積極的に取り入れることも検討すべきだろう。

もちろん、マークシートやボタン式などの機械やデジタル化の導入による投票結果の改ざんや機械の故障などの問題もある。自身がきちんと投票先を自筆で書き、投票したという行為に対する安心感と確からしさ、集計の透明さや確実さを担保するためのシステムの確立が求められる。これらの課題をクリアしながら、投票制度そのものがより開かれたものとして見直される必要があるべきだろう。

政治・選挙情報のユニバーサル化を目指した情報の再設計を

投票そのものだけでなく、選挙情報に対しても耳が聞こえない人、目が見えない人に対する情報環境に対応できていない。そうした中、今回の衆院選でヤフーが視覚障害者向けの衆院選の情報サイト「Yahoo! JAPAN 聞こえる選挙」を公開した。画面の文字情報を読み上げるソフトに対応し、候補者の情報や政党マニフェストが音声で聞き取ることができるという。

Yahoo! JAPAN 聞こえる選挙
Yahoo! JAPAN 聞こえる選挙

ネット選挙の解禁がされようとも、選挙公報そのものがPDFのまま貼りつけられては画像として認識され音声読み上げができず、情報としての意味がない。また、頒布されようとも、目が見えなければ情報を読むことができない。真の意味で情報が届く状態のするために、こうしたサイトが誕生したことはとても重要である。同時に、公的機関としてどこまで情報をカバーしていくか。そのために必要な技術やインフラを整えることは社会全体にとって求められていることだ。

日本国憲法がうたう「選挙の3原則」の一つである「平等選挙」は、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産、収入によって差別されず、一人一票が平等に扱われると書かれている。ここにある投票の平等性だけでなく、投票行為そのもののハードルそのものに対する平等性をいかに担保するか。投票行為を決める選挙情報(選挙時だけでなく、普段の政治活動の情報も含)のユニバーサルな情報デザインの必要性についてこれまで以上に考えるべきである。

選挙は一つの政(まつりごと)として一瞬は盛り上がるが、終わったあとに反省やフィードバックを行い、改善をしていく、というプロセスがあまりできていないのが問題だ。投票は市民のとっての権利であり、誰もが享受できるものでなければいけない。そのために必要な情報環境とはどうあるべきか。その根底には、政治も含めた私たちの社会や暮らしは、私たち自身でデザインしていくべきだという考え方を持つ必要がある。

誰もが声をあげ、もしくは、小さな声を誰かが拾い上げ、社会課題として世の中に提示すること。その先に、自分たちの都市や社会、暮らしを自ら作り上げていくべきだと考えている。誰もが政治に参加するための仕組みとして、選挙制度そのものを見直し、議論していくことがますます求められている。