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寄付額1兆円規模に迫るふるさと納税、制度の賛否や見直しを問う声も

江口晋太朗編集者/リサーチャー/プロデューサー
(提供:イメージマート)

年末が差し迫るなか、今年のふるさと納税の申込は12月31日となっており、駆け込みで申込を検討している人もいるだろう。

個人が任意の自治体に寄付し返礼品と呼ばれる商品を受け取ることができるふるさと納税は、2008年度の制度開始後、プラットフォームサービスの登場や2015年のワンストップ特例制度によって控除上限が拡大するなど利用環境が充実によって着実に利用が促進されてきた制度である。

総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)より抜粋
総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)より抜粋

総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)より抜粋総務省が発表した令和5年度実施調査によると、2022年度はふるさと納税の受入件数は約5184万件、総額は全国で約9654億円と件数・総額ともに毎年右肩上がりで推移し、来年度には大台である1兆円に達するとみられている。

ふるさと納税を通じて数十億、数百億円という税収が入った自治体も多く、地方自治体にとってふるさと納税を通じた税収確保は1つの大きな柱となっている。

加熱する返礼品競争

自治体の取り組みが加熱する一方、金券など地産商品と関係のない返礼品や返礼品を過度に強調して寄付を募る「返礼品競争」への批判の声も上がり、たびたび制度の見直しやルールの厳格化が図られている。

2017年には返礼品の還元率を3割以下に留める規制がなされ、2023年10月からは調達経費(仲介業者への手数料や輸送料等)の5割規制や返礼品の地産地消の厳格化がなされるようになった。特に、10月からの規制は返礼品の中身に影響することから、夏頃に駆け込みで申し込んだ人も多かっただろう。

地産の偽装による苦情の多発やふるさと納税のルール違反によって制度から除外されたことが地元議会の争点として現在進行形で議論が行われてる自治体もあり、過度な返礼品競争による問題も多発している。

税収減の都市部が抱える課題

ふるさと納税はその制度趣旨からも地方自治体が注目されがちだが、都市部在住の方々が地方自治体にふるさと納税を行うほど都市部の税収が減少する「ゼロサムゲーム」問題を内包している。

その筆頭である東京都は、都全体で2022年度は約1688億円がふるさと納税によって他自治体に流出し、全自治体でも突出した税収減となっている。さらに、東京都内において世田谷区は過去最多の98億9200万円を記録している。

総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)より抜粋
総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)より抜粋

ふるさと納税を利用している利用者数の上位は、東京都在住、神奈川県在住、大阪府在住、続いて埼玉、愛知、千葉、千葉県在住と都心部を中心とした方々の利用が多い傾向にある。ふるさと納税は節税対策になることから、高額納税者が多い都市部に利用者が集中することのその要因だろう。

税収が流出した自治体トップ20が総務省の資料でも公開されており、上位に以下の自治体が並んでいる。

  • 1位:神奈川県・横浜市 約272億円
  • 2位:愛知県・名古屋市 約159億円
  • 3位:大阪府・大阪市 約148億円
  • 4位:神奈川県・川崎市 約121億円
  • 5位:東京都・世田谷区 約98億円
(総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)より抜粋
(総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)より抜粋

なお、地方団体のうち地方自治体の独自税収だけで運営可能なことから地方交付税が交付されていない「不交付団体」として、上記の5自治体のうち世田谷区を含めた東京都と川崎市は不交付団体であり、実質的に川崎市や世田谷区が税収減の上位である。

税収減は、当該自治体の社会保障や教育・子育て予算にも影響を与え、学校の改築や介護施設の改修といったものに予算が割けづらくなっていくという見通しもあり、川崎市や世田谷区など、ふるさと納税によって税収減となっている自治体の多く、現状のふるさと納税の制度そのもの見直しの声を上げている。

貴重な市税が、「ふるさと納税」によって流出しています。(神奈川県川崎市公式ホームページ、2023年11月20日)

「ふるさと納税」流出で約100億減収 世田谷区長「悪夢」と吐露(NHK首都圏ナビ、2023年8月4日)

オープンデータによるふるさと納税の可視化

日本経済新聞は「ふるさと納税のリアル」というふるさと納税の状況を分かりやすくビジュアライゼーションしたサイトを12月25日に公開した。サイト内の検索窓から好きな自治体を検索すると、当該自治体の状況が一覧で表示される。

注目は、流出額だけでなく受入額(ふるさと納税によって税収が増えた額)や支出額(経費等の支出額)など様々な項目が記載されており、実質の収支が計算できることだ。

下記の図表のように、川崎市は流出額は約121億円、実質寄付受入額は約3億円、実質収支額▲約117億円(全国1位)ということが示されている。

日本経済新聞「ふるさと納税のリアル」よりスクリーンショット(筆者:12月28日撮影)
日本経済新聞「ふるさと納税のリアル」よりスクリーンショット(筆者:12月28日撮影)

なお、実質マイナス収支における全国順位は川崎市が1位、2位は世田谷区(実質収支▲約96億円)、3位港区(実質収支▲約68億円)である。

逆に、実質プラス収支の全国順位は1位が宮崎県・都城市(約103億円)、2位は北海道・紋別市(約99億円)、3位は北海道・根室市(約88億円)となっている。

また、流出額が多いが受入額も多く、結果的にプラス収支になっている地域もある。例えば、京都市は流行額約73億円と流出額だけみれば10位だが、寄付受入額は約95億円、支出額は約37億円で実質寄付受入額は約57億円(実質寄付受入額は全国7位)、さらに地方交付税による補填によって実質収支は約39億円のプラス(全国10位)となっていることが分かる。

自身の税金がどのように使われているか、自治体がどのような財政状況になっているかが、こうしたサイトを通じて理解が進むことで市民のリテラシー向上や市民参画を促す仕掛けにもなっており、本サイトはまさにオープンデータによる税金の可視化の取り組みとしてとても重要なサイトであるといえる。

サイト内を操作しながら、それぞれに気になる数字や自身が住んでいる自治体の状況を把握するのにとても役立つだろう。

仲介サイトが制度について考える広告を掲載

そんななか、国内最大規模のふるさと納税仲介サイトである「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクは2023年12月26日、ふるさと納税に対し問題提起を図る広告が話題となっている。

Youtubeでの動画配信のみならず、26日付けの新聞広告にも掲載している。さらには、X(旧ツイッター)等を含むSNS上で「#ふるさと納税を考えよう」というハッシュタグで広く意見を募集している。

トラストバンクは帝国データバンクによると、2023年3月決算で売上約139億円、当期純利益約38億円、比較として2019年の売上は約38億円(当期純利益2.3億円)であり、4年で売上は4倍近くまで成長している。

もちろん、トラストバンクはふるさとチョイス以外にも様々な事業を展開しているため一概にふるさとチョイスだけの売上とはいえないが、コロナ禍を通じてふるさと納税の利用総額が成長していることをみても、ふるさと納税によって一定の利益を得ていることは否めない。

また、今年10月からの仲介サイトへの手数料等による調達コストの5割規制によって、これまであまり意識されてこなかった仲介サイト側へ自治体が支払う手数料(その原資は公金である)にも目が向き始めているタイミングでもある。

Business Insiderには、トラストバンク社長・川村氏へのインタビューが掲載されている。

ふるさと納税“批判”に対し業界大手が異例の広告。社長「賛否両論があると思う」 (Business Insider Japan 2023年12月26日)

寄付金1兆円規模という大台に到達するなか、制度そのものについて考えさせる広告を仲介サイト側が声を上げ一石を投じることで、ますます制度の是非や見直しの声にも注目が集まるだろう。

今後、仲介サイト側が様々な意見を集約し、国や自治体に対してふるさと納税の活用方法の見直しを図る動きが出てくることを期待したい。

制度開始から15年、抜本的な見直しの時期にきている

都市部への人口一極集中に対する地方自治体の税収減解決策として生まれたふるさと納税は、制度の出自からも都市部と地方との対立や都市間競争を加速させるという懸念はあり、その懸念が年々大きな課題となりつつある。

今までは制度そのものの認知や利用頻度を高めようと「節税」「お得」「便利」といった利便性ばかりがフォーカスされていたことから、寄付先の自治体の応援ではなく魅力的な返礼品を得たいがためにふるさと納税を利用する個人も多く制度本来の趣旨と利用者の意図との乖離も問題視され始めている。

自治体にとって、ふるさと納税という制度が単なる税収確保のための手段なのか、自治体の関係人口の創出を図り、継続的なファンを獲得し中長期的な税収や自治体の価値創出につなげていくものなのか、その位置づけや広報戦略も含めて見直す時期なのかもしれない。

今後、ふるさと納税という制度が自治体に対する応援や関係人口の創出といった目的に果たしてどの程度寄与しているのか、そうした計測をきちんと数字やインパクトとして示すべきだろう。

政策問題や社会課題についての意見を収集するSurfvoteというサイトでも、ふるさと納税の是非についての様々な意見が集まってきている。

制度が始まって15年が経ったなか、1兆円という規模を節目にふるさと納税の位置づけや制度の抜本的な整理を、利用者も自治体も国も含めて考える時期にきているに違いない。

編集者/リサーチャー/プロデューサー

編集者、リサーチャー、プロデューサー。TOKYObeta代表、自律協生社会を実現するための社会システム構築を目指して、リサーチやプロジェクトに関わる。 著書に『実践から学ぶ地方創生と地域金融』(学芸出版社)『孤立する都市、つながる街』(日本経済新聞社出版社)『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)他。

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