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大川原化工機事件で都と国が控訴 /原告も冤罪の原因は「捜査ミス」でなく「故意」として控訴

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
2024年1月11日、東京・霞ヶ関の司法記者クラブで会見する原告と高田剛弁護士

「あー、やっぱりか…」「あきれた」「がっかりした」――冤罪「大川原化工機事件」で、警察の逮捕や取り調べ、検察の起訴は違法だったとして、東京都や国に賠償を命じた東京地裁の判決を不服として、都と国は控訴。原告らの中にあった、警察・検察へのわずかな期待は裏切られた。

 原告側の記者会見で、逮捕・勾留中に体調を崩し、その後がんで他界した同社元顧問・相嶋静夫さんの長男は、「日本の警察にも反省する気持ちがあると、少しだけ期待していた。温かみのない態度に落胆した」と語った。

「裁判でもねつ造を証言する現職警察官がいた。今は、能登半島で人命救助にあたっている警察官もいる。国民のために、自分の使命を果たしている、そんな彼らに、今回の控訴はどう映ったのだろうか。まともな人たちがきちっとした仕事をできるような組織になってほしい」

相嶋さんの遺影を前に語る長男
相嶋さんの遺影を前に語る長男

一審判決の事実認定は物足りなかったが…

 東京地裁判決は、原告を勝訴としたものの、捜査機関が反発しそうな事件の「ねつ造」問題には触れなかった。警視庁公安部についても、起訴した東京地検の塚部貴子検事に関しても、「通常要求される捜査を遂行すれば」逮捕や起訴は避けられた、と指摘するに留めた。普通であればやるべきことをやらなかったという、いわば”過失”の認定だ。

 原告は一様に、一審判決の事実認定の浅さに物足りなさを感じており、原告代理人の高田剛弁護士も判決について「非常に無難」「全体に薄味ですね」と述べていた。それでも、警察や検察が判決を受け入れ、反省や自己検証へと踏み出すのであれば、原告側もそれを促し、控訴は断念する方針だった。原告らが一番求めていたのは、今後同じような冤罪が生まれないための再発防止策だったからだ。しかし、その期待は裏切られ、原告も控訴を決めた。

冤罪の原因は「ミスではなく故意」

 舞台は東京高裁の控訴審に移る。ここでの焦点は、冤罪が起きた原因だ。それについての事実認定を改めることが、今後の冤罪を防止するためにも重要、と高田弁護士は見ている。

「この事件は、捜査のミスで起きたのではなく、故意的に事件が作り上げられたものだという構造を踏まえた事実認定をしてほしい。(一審判決では)悪質な冤罪事案と認定されず、(ミスという認定だったため)少額の慰謝料しか認定されなかった。
 本件では、経産省の通達を警視庁公安部が立件ありきで独自の解釈をし、無理矢理経産省の協力をとりつけた。(その経緯からも)事件は作り上げられたものであることは明らかだ。
 (無実を示す)実験についても、原判決は捜査不足と認定したが、実際は単純な捜査不足ではない。従業員の供述もあったのに(無罪方向の証拠を)黙殺し、立件した。どういう力が及んでそうなったのか明らかにする必要がある」

高田弁護士(左)と大川原社長
高田弁護士(左)と大川原社長

まずは任意の取調べの”自己可視化”を

 警察・検察は事実と向き合わずに争い続け、警察を管理するはずの公安委員会や国家公安委員会も、視庁の対応を静観しているだけ。そうであるならば、同じような被害を繰り返さないためにも、国会で冤罪の検証を行い、それに基づいて法改正が必要なのではないか。

 大川原社長は、まずは任意の取調べのあり方から変えていく必要がある、という。

「取り調べる側が自由に(その場を)コントロールする。取り調べを受ける側はメモも録らせてもらえない。最低限、そういうところを変えてもらいたい」

 島田順司・元取締役も任意取り調べについて、こう語る。

「(取り調べを受ける側が)少なくとも録音は自分でできるようにしないと。それでないと自分を防御できない」

 まずは取り調べを受ける側が自ら録音する”自己可視化”を妨げないこと。そのうえで、現在は裁判員裁判対象事件に限定されている警察による録音録画の義務づけを、全事件に拡大することを検討する必要がある。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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