Yahoo!ニュース

つながる電話相談「#いのちSOS」自殺対策緊急プロジェクト開始

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

 自殺対策に取り組むNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」(清水康之代表)が、2月6日から、つながりやすい新しい電話相談システム「#いのちSOS」を開始する。まずは、これまでも相談業務に当たってきた全国11団体が約70人の相談員で参加、12時から22時までの間に2~5回線程度で対応し、今後拡充する。それに伴い、専門の相談員などをかつてない規模で大量採用することも発表した。

自殺者急増、相談電話も増えているが…

 2010年以降、10年連続で減少してきた自殺者が、昨年、11年ぶりに増加に転じた。しかも下半期に限れば、前年比17.2%と大幅に増加する深刻な事態となっている。電話やSNSによる相談も増え、体制の増強が追いつかない状況だった。

 ライフリンクが関わる相談事業でも、対応できるのはアクセスの約2割程度。特に電話相談では、毎日100人を超える人が初めての電話をかけてくるが、そのうち40人ほどは、つながらなければ二度とかけてこない、とのデータもある。

「昨年の自殺者は1日平均57人。その中には、やっとの思いで電話をかけたのにつながらず、『やっぱりダメか』という思いで亡くなった人もいるはずだ。この状況を放置しておくわけにはいかない」と清水代表。緊急プロジェクトの第一弾として、新たな電話システムを開始することになった。

新たなリモートシステムを構築

 これまでの電話相談は、事務所で2人ペアになって行うのが原則だった。1人が相談に対応し、もう1人はそれをモニターしながら、相談内容に応じた地域の支援を探したり、緊急時には警察に保護を要請する。そのため、深夜の時間帯は難しく、そのうえコロナ禍で事務所に出勤することも困難な状況になった。

 そこで、システムを全面的に改めることになった。

 相談員と相談本部をオンラインでつなぎ、相談員は自宅で対応できるようなリモートシステムを構築。その際、ITを利用して相談のやりとりを即時にテキスト化し、「今から死ぬ」「自殺する場所を探している」など、高リスクを示す言葉を検出した場合、相談業務を統括し、リスク判断を行うスーパーバイザーにアラートが届く仕組みとした。

記者会見で新たな電話相談「#いのちSOS」を発表する清水代表
記者会見で新たな電話相談「#いのちSOS」を発表する清水代表

 初めて電話をする人が優先的につながるような仕組みも導入する。このシステムのため、発信者番号が非通知だとつながらないので注意が必要だ。ただし、公衆電話には対応する。

 1人で深刻な相談に対応する相談員の心のケアや情報セキュリティなどにも配慮する。当面は午後10時までだが、遅くとも4月上旬までに24時間対応ができるようにする計画だ。

200人超の専門相談員等を採用・育成

 このプロジェクトのために、電話相談員に加え、地域の支援とつなげるコーディネーター、さらに相談本部でリスク判断等を行うスーパーバイザー、事務局員などを200人以上採用することになった。募集のために開設した「相談員等募集の特設サイト」は、病児保育で知られるNPO法人フローレンスが協力した。 

 今年度末までに1000~2000万円かかる経費は、SNSでの自殺対策のための厚労省第2次補正予算でまかなう。

危機が重なる3月、自殺で失われる命を少なく

 清水代表は訴える。

「それでなくても例年3月は、自殺者が増える。しかも今年は、コロナ禍で10都府県で緊急事態宣言が延長され、いつ状況が改善するか分からない不安感も高まっている。危機が重なるこの3月、自殺が急増した1998年のような事態にしないよう、社会全体でこの危機に立ち向かう必要がある。1人でも多く、自殺で命を失わずにすむようにしたい」

 「#いのちSOS」電話相談の連絡先等は以下の通り。

 電話番号 0120-061-338(フリーダイヤル)

 対応時間 毎日12-22時(24時間化を予定している)

 相談員等は、書類選考を経て、面接や実技試験などを経て採用し、2月26日から業務につく。質を保つために、研修プログラムを開発し、今後はボランティア募集も行う予定。

 相談員などに求められるスキルや勤務条件などの詳細、申し込みは「相談員等募集の特設サイト」を参照のこと。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

江川紹子の最近の記事