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河井前法相夫妻の買収疑惑・現金受取否認の県議の弁護人が検察捜査のあり方に異議

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
最高検が入る東京・霞ヶ関の検察庁

 新型コロナウイルスで、様々な機関が活動をセーブせざるをえなくなっている中、昨年7月の参議院議員選挙前に、自民党の河井案里議員の陣営が広島県内の首長、県議、市議などに現金を配ったとされる、公職選挙法違反容疑事件は、検察の捜査が続けられ、しばしば報道もされている。そんな中、捜査対象となった県議の弁護人が、「現金を受け取っていないのに受け取ったと決めつけ、執拗に認めるよう強要する取り調べが行われている」として、最高検察庁監察指導部に「適切な対処」を求める要請書を送ったことを明らかにした。

「机を叩きながら自白を求めた」と

 この県議は、自民党広志会・つばさの渡辺典子氏。弁護人の落合洋司弁護士の要請書によると、渡辺県議は3月下旬から、東京地検特捜部の取り調べを受けている。

渡辺典子県議(広島県議会ホームページより)
渡辺典子県議(広島県議会ホームページより)

 その中で、案里氏の夫で元法相の克行衆院議員が代表を務める自民党県支部から、渡辺県議の政治団体へ毎年2回、合計20万円の寄付があり、昨年も5月に10万円を受け取っていたことは認めていた。しかし取り調べ検事は、それ以外の金を受け取ったと決めつけ、時に机を叩きながら、次のように自白を迫っている、としている。

「話をするなら早めがいい。でないと、もう引っ込みがつかなくなっちゃって、はっきり言うと河井先生たちと一緒に沈んでいきます」

「証拠がある以上動かない。裁判になってからでは遅い」

否認の調書が作成されない

 落合弁護士によると、渡辺県議は本件で3月以降、ホテルなどで7回の取り調べを受けたが、いずれも録音などはなされず、否認する調書は1通も作られていない。

「毎年もらった金は政治資金として適正に処理していた。更にもらったとしていても、即違法と言うわけでもない。しかし、本人は『もらっていないから認めようがない』と言っている。河井夫妻が金をばらまいていたのは事実としても、検察が『もらった』と考える人がもらっているとは限らない。にも関わらず、もらったと決めつけ、まるで昭和の頃のような、旧態依然とした取り調べが行われている」(落合弁護士)

「マスコミを引き連れての捜索は見せしめだ」と

 渡辺県議は、すでに自宅を2回、事務所を1回、検察の捜索を受けた。さらに4月28日、県議会の控室にも捜索が入った。これは、新型コロナ問題がメディアの報道の多くを占める中、全国に伝えられた。この時に捜索を受けたのは、渡辺氏を含め、参院選で案里氏を応援し、違法な現金授受を否認している県議3人。落合弁護士は次のように指摘する。

「コロナで大変なこの時期に、何か出てくるはずもないのに、マスコミを引き連れて捜索を行ってみせるというのは、(否認するとこうなるという)見せしめだ。検察は村木(厚子)さんの事件の時と、まったく変わっていないのではないか」

落合洋司弁護士(Facebookより)
落合洋司弁護士(Facebookより)

 同弁護士によると、渡辺氏は元々河井夫妻と近く、参院選では自民党県連が溝手顕正候補の応援を決め、多くの県議が溝手氏を応援する中、案里氏を応援していた。広島地検は、車上運動員(いわゆるウグイス嬢)14人に法定上限を超える報酬を払った事件で、案里氏の公設第2秘書と克行氏の政策秘書を公選法違反で起訴した。渡辺氏と夫は、車上運動員を案里氏に紹介しており、今年1月から、この件で広島地検の取り調べを受けた。2人とも検察の捜査には協力したが、やはり夫に対して無理な取り調べがあったとして、落合弁護士が最高検監察指導部に、録音録画を行うなど善処を求めた、という。

 元検事の落合弁護士は、「捜査をやるのはいいが、あまりに乱暴で、やみくもだ。こんな状態で、捜査は本当に大丈夫なのだろうか」と語っている。

村木さん事件の教訓は生かされているか

 最高検の監察指導部は、大阪地検特捜部が郵便不正事件で村木厚子さんを逮捕するために関係者に無理な取り調べで虚偽の供述をさせ、さらには主任検事の証拠を改ざんするなどした事実も明らかになってから、検察改革の一環としてできた部署。検察庁職員の違法・不適正行為に関する内外からの情報を把握・分析し、事実関係の調査を行うなどして、必要な指導を行っている、という。

 刑事訴訟法の改正により、検察の独自捜査では、逮捕した被疑者については、取り調べの録音録画が義務づけられた。一方、任意の取調べでは、そのような法的義務はない。しかし、村木さんの事件では、任意の取調べを受けた複数の関係者が、検察官の言葉に自身が逮捕される恐怖を感じ、村木さん逮捕につながる虚偽供述をしている。

 容疑があるならしっかり調べてもらいたいが、無理な取り調べや取り調べの適法性を巡る論争を避け、できる限り真相を明らかにするためにも、任意の取り調べにおいても、少なくとも本人や弁護人などから申し入れがあった場合は、せめてICレコーダーなどによる録音をすべきだろう。

国民県民への説明

 渡辺県議は「急性胃腸炎」のため、先月17日以降の県議会を欠席していた。1月に記者会見を開いているが、体調の回復を見ながら、今月4日からの週のいずれかに、インターネット上の動画でコメントを出す、という。

 河井夫妻からは、国民に向けた説明がない状態が続いている。克行氏は先月7日に約40日ぶりに国会に出席。案里氏も先月30日、約1か月ぶりに参議院本会議に出席した。いずれも、記者団からの問いかけには応じていない。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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