大事なのは「読む」力だ!~4万人の読解力テストで判明した問題を新井紀子・国立情報学研究所教授に聞く

教科書が読めていない子どもたちは、勉強に行き詰まるだけでなく、将来も困難が…(ペイレスイメージズ/アフロ)

 ツイッターをやっていると、いろんな方からのリプライがある。楽しいやりとりもあれば、新たに様々なことを教わったりする場合もあるが、一定層からの批判、非難、揶揄、侮蔑、罵倒の類いが押し寄せる時もある。様々な考えがあって当然なので、私の意見や感じ方に同意や共感しない人がたくさんいるのは不思議でもなんでもないのだが、こうしたリプライには、トンチンカンな反応が少なくない。

 私が書いてもいない……どころか、考えたこともない「主張」に激しく反論するものも、かなりある。

「私の書いたことの意味が分かってないのではないか?!」

「文脈が読み取れていないのではないか」

と感じることは、しばしばだ。

 そんな経験が重なって、最近は、この手のものを瞬時に見分ける、ある種の勘も働くようになった。さっさとミュートやブロック機能を活用して削除することもできるようになったが、時々、そうしたメッセージを眺めては考え込んでしまう。果たして日本人の読解力は大丈夫なのだろうか……と。

リーディングスキルテストとは

 そんな私に、ある友人が国立情報学研究所の新井紀子教授の読解力に関する調査について教えてくれた。

新井紀子・国立情報学研究所教授
新井紀子・国立情報学研究所教授

 新井さんは、人工知能(AI)でロボットが東大に入学できるか、という「東ロボくん」プロジェクトで知られる数学者だ。今後、AIに多くの仕事が取って代わられることが予想されるが、そういう社会にあって人が活躍の場を確保し、より幸せに生きられるためのスキルとして、「読解力」に注目。全国の学校、さらには社会人も含めて、文章などの意味をどの程度正確に読めているのかを見るリーディング・スキル・テスト(RST)を行ってきた。すでに受験した人は4万人を超えた、という。

 RSTでは、(1)主語述語や修飾語被修飾語など、文を構成する要素の関係(=係り受け)の理解 (2)「それ」「これ」などの指示代名詞が何を示すか(=照応)の理解 (3)2つの文が同じ意味を表すかどうかを判断する力(=同義文判定) (4)文の構造を理解したうえで、体験や常識、その他の様々な知識を動員して文章の意味を理解する力(=推論) (5)文章と図形やグラフを比べて内容が一致するかどうかを認識する力(=イメージ同定) (6)文章で書かれた定義を読んで、それと合致する具体例を認識する能力(=具体例同定)――についての力を調べる。

 まずは、例題(1)。

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 もう1つ、今度は文とグラフが出てくる例題(2)をどうぞ。

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 いずれも簡単……と思いきや、中学高校での結果は次のようになっている。

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 特に(2)は、高校生でも正答率が3割以下しかない。その理由は、後で新井教授に解説していただくことにする。

教科書が読めていない、という衝撃の事実

 RSTの結果から読み解ける現状を、新井教授に伺った。

教科書が読めてない子がたくさんいる、ということです。文章を読んでいるようで、実はちゃんと読んでいない。キーワードをポンポンポンと拾っているんです。○○と○○と○○という言葉が出てきたら、こんなもんだろう、というような。『……のうち』とか『……の時』『……以外』といった機能語が正確に読めていない。実は、それはAIの読み方に近いんです。

 AIにとって、Wikipediaを丸暗記するとか、医学論文を何百万件蓄積することは、実に簡単。そうして蓄積したデータに対し、いくつかのキーワードを使った検索をして、病名診断であれば『○○病の可能性がある』とか、歴史の問題であれば『オスマントルコである可能性が高い』という答えを出す。そうやって、東ロボくんも世界史で偏差値67くらいまでは行けるようになりました」

 しかし、AIにも弱点はある。

「数学の問題は、『……のうち』とか『……以外』『……と接する』などという言葉をちゃんと読まないと解けなかったりします」

 新井さんは、やおら自身のスマートホンを取り出して、語りかけた。

「この近くの、イタリア料理の店を教えてください」

 画面に、イタリアンのレストランのリストが並ぶ。

 続いて、新井さんはこんな注文を出した。

「この近くの、イタリア料理以外の店を教えてください」

 すると、画面にはやはりイタリアンの店がずらり。

「それは、AIが『……以外の』の意味を分かっていないからです」

子どもたちの”AI読み”とは?

 AIは、将棋や囲碁でトップの棋士にも勝つなど、その凄さばかりが伝えられるが、機能語の読み取りが苦手というのは、文章を読解するうえでかなりの弱点。その、AIに子どもたちの読み方が似ている、とは?

 これに対して、新井さんは上の例題の(2)を例に挙げた。

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「28%がアメリカ合衆国以外の出身、ということは、アメリカ合衆国の出身者は72%。なので当てはまるグラフは2番しかありえません。比較的すぐ分かる問題なのに、正答率が非常に低かった。こういう時には、間違った人が何を選んだのかを見るのが大事です。小学生から一流企業の会社員まで4万人のデータがあるんですが、能力値が中の上くらいまでは、4番を選んでいる人が多いんです。4番は、『アメリカ合衆国28%、ドミニカ共和国約35%』の図です。これを選んだという人は、『…のうち』『…以外』という機能語が読めていない。意味が分かっていないか、読み飛ばしていたということです。まさにAIみたいな読み方なんですね」

 どうしてそうなるのだろう。教育の仕方の問題もあるのだろうか。

「プリント学習がそうですよね。穴埋め型の学習が多い。蛍光ペン型学習とかもそう。これを一生懸命やっていると、いくつかのキーワードと数字で『たぶんこれだろう』となる。まさにAIみたいな解き方だな、と。ただ人間は、暗記量と計算量はAIに比べて非常に低いですから、これではAIには勝てない」

「読める」かどうかが、人生を決める

 東ロボくんは、東大合格は断念したものの、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)や関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)の一部の学科の入試は、合格率80%の判定を得た。AIもそこまでは、問題を読む力が向上している、ということになる。

 また、RSTの能力値と、偏差値の高い高校や大学への進学率を分析すると、高い相関関係があることも分かった。

基本の読みとか論理的推論ができない子は、いくら知識を教えても、それを整合的に使えるようにならないんです。学力の差が、知識量とかやる気の問題であれば、勉強したくなった時にやればいい、とも言えますが、そうではなくて、『読める』かどうか、が大きい。読めている人は、それほど痛痒なく受験勉強をやって、入試を突破する」

RSTの結果について説明する新井さん
RSTの結果について説明する新井さん

 AIが進化して、従来は人間がやっていた仕事の中にはロボットに取って代わられるものが出てくることが予想される中では、「読める」かどうかは、人生を大きく左右することになる、と新井さんは警告する。

 例えば秘書の仕事のように、スケジュール調整をしたり、お礼状を書いたり、問い合わせに答えたり、1人で様々な仕事をやる職業の場合は、それをAIが全部肩代わりすることはできない。ただ、様々な支援をするシステムができれば、単位時間当たりの生産効率が上がって、10人でやっていた仕事が5人で済むということはありうる。そうなれば、5人が職場を去らなければならない。

「AIには、経験や人間としての倫理観や正義感に基づいて、あるいは所属している組織のブランド毀損にならないよう、その場で瞬時に、どれが重要かを判断したり、何らかの例外が起きた時の処理は難しい。そうした能力がある人は、AIが導入されても重宝されて、賃金も上がる。(AI導入で)職場を変わることになっても勉強して資格を得れば、その分生涯収入は高くなります。

 けれども、例外処理が苦手で定型的なことしかできないとか、他の部署や別の職種に移った時に柔軟に対応できない人は、低賃金となり、新たな賃金格差が生まれます

 新たな知識やスキルを学ぶためには、教科書や参考書を読んで正しく理解する読解力がなにより大切になる。

「義務教育が終わっても、教科書が読めないような子どもは、運転免許の試験も学科で何回も落ちてしまったりする。通信教育で資格も取れない。そうなれば、低賃金の仕事をするほかなく、それで体を壊したりすれば、住む場所もなくなって路頭に迷う……ということにもなりうるんです。

 『ぼくはサッカー選手になりたい』というのはいいけれど、いつかは引退しなきゃならない。読解力が高い人は、選手をやめた後にもいろんな選択肢がある。コーチになるにしても、最新の体育科学を勉強して、どういうトレーニングをすれば最も効率がよく、選手生命も長くできるかを知って、よいコーチになれる。

 読めるか読めないかが格差を生む。読めることで柔軟に職業を変えたり、自分の夢を実現することに役立つんです

サッカー選手もいつかは引退。読む力があれば、その後の人生の選択肢は広がる
サッカー選手もいつかは引退。読む力があれば、その後の人生の選択肢は広がる

今の学校に必要なことは

 それにしても、RSTは4万人ものデータが集まったというから、驚きだ。

「もう執念です(笑)。私の知り合いの学校だけにやってもらうのでは、東京近郊の私の実験を受け入れてくれるような意欲的な学校の結果しか得られず、ランダムサンプルとはいえない。やはり万の単位で調査しないと。それで、北海道から沖縄まで、頭を下げてお願いしたわけです。

 ただ、お願いしたからって、やっていただけるものじゃない。学校は、いろんな調査の依頼があって調査疲れしていますから。しかも、このテストはできるだけwebでやって下さいとお願いするんですが、普通の学校のコンピューター室には40台くらいしかない。なので、全校でやろうとすると1週間くらいかかって、すごく大変なんです。それを、多くの学校でやって下さったのは、現場の先生方が、『子どもたちの読解力こそ、今の最大の問題だ』って感じているからなんですね。

 学校に対しては、キャリア教育をやれ、プログラミング教育を入れろ、小学校で英語教育を始めろ、アクティブラーニングを取り入れろと、いろんな注文がつけられています。でも、『……のうち』『……以外』が読めない子に、どうやってアクティブラーニングさせるんでしょう。先生方も、内心そう思っていたということでしょう」

紙版RSTの問題集。現在も使っているものなので、例題以外は非公開
紙版RSTの問題集。現在も使っているものなので、例題以外は非公開

 日本で生まれ育った者は、日本語はずっと使っているので、分かって当たり前、という前提で、国語などの授業も行われているのではないだろうか。だから、読解力と言えば、「作者の言いたかったこと」「主人公の気持ち」をどう読み取るか、ということに力点がおかれがちだ。

「英語なら、文法なども教えますね。国語を体系的に教えるのは、多様化するこれからは、ますます必要です。国際結婚されて、一方が日本語をお話しにならない家庭も増えていますし、日系ブラジル人で移住されてきて、お子さんの母語はポルトガル語、という家庭もある。フランスやアメリカなど、よそからやってくる人が多い国では、『やっていれば、そのうち分かるようになるよ』というフワッとしたやり方ではなく、システマティックに国語を教えます。『気持ちを推し量る』国語の授業の半分を、ちゃんと意味が読めるための体系的な指導に移していく必要があると思います」

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学校でやることを増やすのではなく減らす

 しかし、学校は時代に応じた様々な教育が求められ、すでにもう手一杯だ。

小学生に英語教育とか、プログラミング教育とか言っている場合じゃありません。プログラマーになろうと思ったら、情報は豊富にあって、ほとんどオープンソースで公開されています。なりたければ、読む聞く書くができれば、勉強してなることができます。でも、読む書くができなければ、プログラマーになることは無理です。

 学校の問題というと、いじめとか不適格教員のことばかりにフォーカスがあたりがちですが、日本の社会資本としての人材を育てて下さっているのは学校、特に義務教育を担っている小中学校です。その学校で、子供たちが教科書も読めない状況で先生方は困っているという現実は、みんなが共有する必要があります

 そして、学校でやるべき仕事を増やすのではなく、精査していく。キャリア教育もします、持続可能教育もします、グローバル教育もします、英語もやります、デジタルもします、そしてすべてちゃんとやっているかチェックするアンケートが行く……というのではなく、むしろ先生方にしていただくお仕事を絞っていくことが重要。何が必要なのかという選択と集中を現実に科学的に向き合ってやっていくというフェーズに今はあるのではないでしょうか」

大人たちの”AI読み”

 ところで、RSTは大人たちも受けている。たとえば、次のような文章題では、どうだったか。

 次の文を読みなさい。

 アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

 

 セルロースは(     )と形が違う。

(1)デンプン  (2)アミラーゼ  (3)グルコース (4)酵素

 新井さんは新著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)で、「某新聞社の論説委員から経産省の官僚まで、なぜかグルコースを選ぶので驚きました」と明かしている。答えはもちろんデンプンだ。

 子どもたちだけでなく、大人たち、それも読んだり書いたりする機会の多い人の読解力も大丈夫だろうか。忙しさから、文章も単語を拾いながら飛ばし読みするうちに、”AI読み”の癖がついてしまったりはしないだろうか……。

 新井さんの話を伺って、教育のあるべき方向性が見えてくると共に、ツイッターでなぜ「意味が分かっていないのでは」「文脈が分かっていないのでは」と思うようなリプライが多いのかも、分かったような気がする。彼らは、他人のツイートを”AI読み”しているのではないか。頭の中に「江川紹子とはこんなヤツだ」という独自のイメージが出来上がっている影響もあるだろうが、ツイートの中のいくつかの単語を拾っただけで、「こんなことを言ってけしからん」と怒りを募らせているのだろう。

 また、私自身がそうしたリプライをろくに読みもせず消去しているのも、”勘のなせる技”などではなく、その手のメッセージにありがちな”頻出表現”を瞬時にチェックして、「消去」の結論を出しているのかもしれない。自分の心と時間を守るための防御反応とはいえ、このような”AI読み”が常態化しないよう、私自身、心しておかなければならない、とも思った。

【参考】 『総合教育技術』2月号(小学館)

東ロボくんプロジェクトやRSTについての詳細を知りたい方は、新井教授の近著をどうぞ
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