準強制わいせつで医師を起訴~広範な証拠開示が必要

乳腺専門医が、手術後に麻酔の影響で体が動かない30代の女性患者に対してわいせつな行為をしたとして、警視庁千住署に逮捕された事件。東京地検は関根進医師を準強制わいせつ罪で起訴したが、起訴事実は捜査段階の容疑とは時間や犯行態様などが異なっていることが分かった。

消えた自慰行為

事件があったとされるのは、今年5月10日。患者は右乳房の良性腫瘍を切除する手術を受け、午後2時45分頃、執刀医の関根医師と前立ちを務めた上司の医師に付き添われて、4人部屋の病室に移された。上司の医師の話によれば、この時点で患者の意識レベルはJCS200(覚醒していないが、痛みには反応する状態)だった。

逮捕・勾留された時点での容疑事実には2つの行為が記載されていた。

▽第1行為

午後2時45分から50分頃までの間、

患者の着衣をめくり、やにわに左乳首を舐めた

▽第2行為

午後3時7分から12分頃までの間、

左手で患者の着衣をめくり、左乳房を見ながら、右手を自己のズボン内に入れて自慰行為をした

一方、起訴状では、犯罪とされる事実として次の1つの行為のみが書かれている。

▽午後2時55分から3時12分頃までの間、

患者の着衣をめくって左乳房を露出させ、その左乳首をなめるなどした

勾留の時点では、第1行為の後、「患者が気づいたため、いったん退室」と記載され、2つの行為は分断されていたことが明記されていた。

ところが起訴状では、第2行為である自慰行為が消え、犯行は左乳首をなめるという第1行為のみとなり、それが行われた時間帯が変わった。

第2行為に関しては、勾留理由開示公判で弁護人が、ベッドの高さや関根医師の身長などから、ベッド上の患者は同医師の股間は見えないと指摘し、被害供述の信用性に強い疑問を投げかけていた。検察側は、立証困難な第2行為を落とす一方で、第1行為については鑑定結果で裏付け可能と判断したのだろう。

今後の争点は?

ただ、それに伴う疑問もいくつかわいてくる。

たとえば、第1行為の時間が移動したのは、なぜだろうか。

患者の供述も、これに見合うように変遷しているのだろうか。だとすれば、どのような経緯で変わって行ったのだろうか。

弁護側は、勾留理由開示公判で、患者の訴えは麻酔の影響による術後せん妄の可能性を指摘しており、裁判でも同様の訴えをすることになるだろう。

いずれにしても、公判では、患者の証言の信用性が大きな争点の1つとなるはずだ。

また、勾留理由開示公判で明らかにされた病院の調査では、午後3時に看護師が定時のチェックを行い、3時10分にはナースコールでやはり看護師が患者のもとを訪ねている。午後3時7~12分には、関根医師は別の患者を訪室していた、という。まさに、犯行時間のまっただ中だが、これらの点について、検察側はどう説明するのだろうか。

さらに起訴状によれば、犯行は「患者が手術後の診察を受けるものと誤信して抗拒不能状態にあることを利用し」て行われた。一方、病院側の説明によれば、患者は手にナースコールのボタンを握っており、実際、ナースコールに応じて看護師が何度か患者のもとを訪れている。この事実と「抗拒不能」の主張は整合するのだろうか。

当該患者のベッドは、病室の出入り口のすぐ横にあり、隣のベッドとの間は1メートル。間を仕切る薄いビニールのカーテンは、床上35センチまでの長さで、声を挙げられればすぐに他の患者たちに知られるうえ、頻繁に看護師が出入りしていた。そんな環境で、医師がそのような行為に及ぶだろうか、という疑問もさることながら、同室の患者は異常な事態に気づかなかったのだろうか。

真相解明のために広範な証拠開示を

そのほか、いくつも浮かぶ疑問を解決し、事案の真相により近づくためには、患者本人や付き添いの母親はもちろんのこと、他の患者の供述も含め、検察側には幅広い証拠開示が求められる。

また、警察は患者の体から採取した唾液や口腔内細胞の鑑定を行っているはずだ。試料の採取状況や鑑定のプロセスを記した記録、DNA鑑定を行っている場合は、その鑑定結果の根拠となるエレクトロフェログラムなどの検討も重要になってくる。

医師が、術後の患者という、弱い立場にある者にわいせつ行為に及んでいたとしたら、とんでもない事件だ。逆に、それが事実でないとしたら、警察とマスメディアは、術後の幻覚と現実を取り違えた患者の訴えを鵜呑みにして、医師の実名や顔が分かる映像まで流して、医師の名誉を貶めたことになり、その責任が問われなければならない。

事実の解明が何より必要で、そのためにも十分な証拠開示がなされ、公正で明解で充実した裁判が行われるよう求めたい。