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侍ジャパン・川端友紀の九州ハニーズが3年目で女子野球の新境地を開拓!「福広マッチ」で数字を追求する

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
九州ハニーズ結成3年目、新たな試み「福広マッチ」に挑戦する川端友紀

■毎年恒例、貝塚ヤングの野球教室

 2年前の2022年1月4日。「球団を立ち上げたんです」―。

 ニコニコ笑顔の川端友紀選手に意気込みを聞いた二色グラウンド。その同じ場所で2年後の同日、川端選手はまた新たな話を語ってくれた。(当時の記事は本稿末に掲載)

 今年の1月4日は貝塚ヤングの初練習ほか、同チーム主催の野球教室も開催され、兄の慎吾選手や同チーム出身の黒瀬健太氏(元福岡ソフトバンクホークス)、松川虎生選手(千葉ロッテマリーンズ)、小園健太氏(横浜DeNAベイスターズ)とともに講師として参加していた。

 貝塚ヤングは川端兄妹の父・末吉さんが監督を務めるチームで、黒瀬氏らは川端監督の教え子である。

左から小園健太、松川虎生、黒瀬健太氏、川端慎吾、川端友紀
左から小園健太、松川虎生、黒瀬健太氏、川端慎吾、川端友紀

 海に近いグラウンドは風も冷たく、気温もかなり低かったが、子どもたちはイキイキと動き回っていた。プロ野球選手に教えてもらえる喜びに、テンションが上がりまくっていたようだ。

 ランニング、キャッチボールのあとはポジション別に分かれて守備、バッティングの指導が行われた。マイクで語る川端選手の言葉がとてもわかりやすく、子どもたちもしきりに「うん、うん」とうなずいており、傍らで見ていた末吉監督が「友紀が一番、話すのが上手やなぁ」と目尻を下げているのが印象的だった。

 20周年を迎えた貝塚ヤングだが、毎年オフに野球教室を開催し、川端兄妹が参加するのも恒例だ。

 「もう何年も続いている野球教室ですし、わたしにとっても特別なイベント。毎年子どもたちにこういう機会をつくってもらっていることは、すごく感謝しています」。

 お父さんやお兄さんから教わってきたことを、次の世代に伝える川端選手。この日は女子選手も数名参加しており、女子野球界のスターを憧れの眼差しで見ていた。

(注:本稿中の「川端選手」の表記はすべて川端友紀選手を指す)

左から川端友紀、川端末吉さん、川端慎吾
左から川端友紀、川端末吉さん、川端慎吾

■実績を積み重ねてきた2年間

 さて、3年目を迎えた九州ハニーズだが、一昨年は13人でスタートし、昨年3人が加わって1人が移籍。今年は新人選手が4人加入して総勢19人になった。

 「やっと野球チームらしくなってきた」と喜ぶ一方で、「チームが一つになるには、人数が増えれば増えるほど難しいところも出てくる。いろんな問題が起こってくるころかなというのもある」との危惧も抱く。

 そこで、目標に向かってチーム一丸となってやっていくことを、3年目の課題に掲げる。

 立ち上げ当初は少人数で奮闘した。

 「とくに1年目なんかはコロナもあって、3人がコロナになって10人で試合をしないといけないときもあった。本当にギリギリの中で、みんなの『どうにかしよう』っていう気持ちが一つにさせてくれた。あと1つで負けっていうところから逆転したりとか、そういうミラクルなところがけっこう多かった」。

 設立初年度ながら、8月の全日本女子硬式クラブ野球選手権大会準優勝に輝き、10月の全日本女子硬式野球選手権大会ではベスト8の快挙、2年目の昨年も8月の同大会でベスト4と健闘した。

 また九州・沖縄地区の女子野球ナンバー1を決める大会、ホークスカップクイーンズトーナメントでは2年連続優勝も成し遂げている。

ゴロの捕り方をジェスチャーで教える
ゴロの捕り方をジェスチャーで教える

■常勝チームになるためには

 そんな中、“ミラクル勝利”を経験したからこそ、本当の強さをもたねばならないと実感した。真の強いチームになるためにはと、川端選手は考える。

 「ずっとミラクルが続いて勝っていくのは難しい。常勝チームになるためには、高い目標をもって、厳しい練習を乗り越えていく。そういうところに強さはある」。

 重要なのは「当たり前」だと強調する。

 「当たり前のことを、当たり前にできたら勝てる。そういうチームを作っていかなきゃいけないなというのは、3年目の目標になった」。

 ものごとには段階がある。1年目、2年目を経て、そこにたどり着いた。

 人数が増えたことで「ライバル争い、レギュラー争いも出てくる」と、ゲームに出場するためのチーム内競争が激化する。それぞれが個々にレベルアップしなければならないし、また、その個々の向上がチーム力アップにつながる。

 「チームの目標としては日本一というのはみんな思っているけど、その中で個人としてどういう役割をしないといけないかというところを、細かく目標設定することが必要。個人の目標をクリアしてはじめて、チームの日本一にも近づけると思っています」。

 ただ漠然と「頑張ります」ではなく、個人の目標を明確にすることが大事だとうなずく。目標設定も選手それぞれ違うが、「この1月から3月に目標を明確にするための準備を、わたしも一緒にやっていきたいと計画しているところです」と、一人一人と膝を突き合わせて親身に考える。

 これまで以上に個人の目標に重点を置き、意識を引き上げていくつもりだ。

笑顔が絶えない
笑顔が絶えない

■男子選手顔負けのホームラン

 川端選手自身も毎年、掲げた目標をクリアしようと汗を流してきた。昨年は10月8日、全日本女子硬式野球選手権大会の日本大学国際関係学部戦で、坊っちゃんスタジアムのライトスタンドにアーチを架けた。

 「サク越えを打つっていうのが去年の目標だった。まさか坊っちゃんで打てるとは思ってなかったですけど。こういうプレーができるというのを見せる意味では、いいホームランだったと思います」。

 男子も使用する両翼99.1mある球場での2ランに、観客は大きくどよめいた。

 「女子にはあきらめないでほしいんです。ピッチャーなら130キロという目標がありますし、バッターならサク越えを目指している選手もたくさんいる。女子だから無理って思わないでほしいというのが一番あります」。

 目標を設定し、あきらめなかったから広い球場でホームランを打つことができた。女子選手の夢を具現化し、可能性を大きく広げる価値ある一発だった。

言葉を尽くして丁寧な指導をする
言葉を尽くして丁寧な指導をする

■周りに感謝

 この2年、ともにチーム立ち上げた盟友・楢岡美和選手と奔走してきた。「基本的に全部やっています」と語るとおり、選手集め、スポンサー営業、グッズ販売、イベント企画、練習場所の確保、主催試合の運営…など、スタッフ何人かでやるようなことを、ほぼ2人でこなしている。その中で、宮地克彦監督にはスポンサー営業に同行してもらうこともある。

 「最初は練習場所を確保するだけでも大変で、一般の方と一緒に抽選に参加して、とれたらグラウンドで練習できるっていう環境でした」。

 地道な活動により、昨年7月には大野城市と連携協力協定を結び、平日の午前中は練習場所を確保してもらえるようになった。

ゴロ捕の実演
ゴロ捕の実演

 企業チームではないので選手は仕事をしながら野球に打ち込んでいるが、その雇用先を探すことも業務の一つだ。

 「午前中は野球、午後からは仕事と、両立できるような調整を雇用先にお願いしています。大きな大会になると5日間ほど休まなくてはならないので、その理解もしてもらって。学生もいますが、ほとんどの選手はこちらから紹介して、そこに勤めています」。 

 選手を預かることに、責任をもっている。

 2人のやることがあまりにも多岐にわたるので驚くばかりだが、さらに彼女たちも現役選手である。これらの業務の合間を縫って練習に精を出し、いまだトップランナーとして走り続けている。

 ここまで打ち込めるのは野球への情熱以外、なにものでもないだろう。

 「実際は大変ですよ(笑)。でも、みなさんの協力が本当にありがたいんです。大野城市もそうですし、スポンサー企業や雇用先の企業のみなさんには本当に応援していただいて、感謝しかないですね」。

 そう言って頭を下げる。紹介の紹介で繋がりがどんどん広がっている。それも川端選手らの情熱が伝わるからだろう。しっかりと根づいて愛されていることが窺える。

兄・慎吾の打撃デモ(ロングティー)に“登板”?
兄・慎吾の打撃デモ(ロングティー)に“登板”?

■「福広マッチ」で個人の数字を追求する

 九州ハニーズが所属する九州女子硬式野球リーグは加盟が5チームと少ないため、試合を数多く組めないのが実情だ。各トーナメントへの出場のほか、男子中学生との練習試合などを実施しているが、やはり試合数を増やすことは課題の一つだと明かす。

 そこで今年、新たな取り組みをする。題して「福広(ふっこう)マッチ」だ。これは福岡県の九州ハニーズと広島県のはつかいちサンブレイズとが年間12試合、リーグ戦形式で対戦するというプロジェクトだ。「福岡の方にもっと見てもらう機会を作りたい」と、地元での真剣勝負を披露する。

 「わたしと楢岡選手、サンブレイズの岩谷美里)監督が女子プロ野球でチームメイトだったので、3人でミーティングを繰り返して、4月からスタートさせようと動いているところです」。

 ただ、資金も必要になる。遠征費や試合の運営費などを捻出するため、クラウドファンディングを実施中だ。(詳細⇒「福広マッチ」クラウドファンディング

 この定期戦では目指していることがあるという。「個人の数字を求める」ということだ。

 「今までなかなか“数字”を意識してやることがなかったんです。女子プロ野球時代はあったんですけど、今はほとんどトーナメント戦だから、勝ち負けだけというところがある。数字を意識した野球を経験して、またそれを見てもらいたいと思っています」。

 たしかに男子のプロ野球選手は当たり前に日々、個人の数字を追っている。新聞には毎日、投手も野手も十傑の成績が掲載されている。

 トーナメント戦でも最優秀選手賞などの選出はあるが、個人の数字を追求してやっているわけではない。

 「『この打席で打ったら3割』とかね、そういうドキドキする感覚っていうのはトーナメントでは味わえないんで。福広マッチでは首位打者打点王なども設定するので、そういうのも個人の明確な目標になると思うんです。選手によってはフルイニング出場を一つの目標にしたりっていうのもあるでしょうし」。

 数字が大きなモチベーションになることは間違いない。これを継続していけば、昨年の数字を上回ろうという意欲も生まれ、より個々の目標設定がしやすくなる。

 また、チームとしてもいいライバル関係を築き、切磋琢磨していく。

真剣なキャッチボール
真剣なキャッチボール

■2024年は日本一と世界一と首位打者

 女子野球は全国7リーグ、119チームがある。チームの少ない九州で頑張ろうと決めた2年前から、川端選手には九州での女子野球人気の向上にひと役買いたいという思いがある。

 「日本一になるチームって、関東のチームが多いんです。チーム数も関東が一番多いので。それを九州のチームが倒したってなると、盛り上がる。九州の女子野球選手にとっても励みになるし、九州内のみなさんにも応援してもらいやすくなると思うので、そこを目標に今年も頑張りたい」。

 九州ハニーズが日本一になることで、全国にその名を轟かせることができる。それが九州での女子野球人気の向上にもつながるだろう。今年も日本一に向かって戦う。

いつもニコニコ
いつもニコニコ

 また、7月にはカナダで「第9回 WBSC女子野球ワールドカップ・ファイナル」が開催される。マドンナジャパンとしては7連覇がかかる大会だ。

 キャプテンを務めた昨年9月の「グループB」では、3番や4番の主軸として全5試合で.615(13打数8安打)と驚異的な打率をたたき出し、優勝に大きく貢献した。

 「メンバーはもう一度編成するということなので、どうなるかはまだ知らされてないんです。でも、わたしたちにできることは最高の準備をするだけ。招集されるかどうかっていうよりも、最善を尽くすだけかなって思っています」。

 来たるべき日に備えて、万端整えていく。出場するとなれば5度目になる。

 「そうなったとしたら、大会で首位打者を獲りたいです。ワールドカップではまだ獲ったことがないので」。

 世界一になることが一番の目標ではあるが、個人としてもそこに貢献するべくタイトル奪取宣言をする。

 そして初の試みである福広マッチでも「打率にこだわる」と、狙うはやはり首位打者だ。「わたしの長所は広角に打てるところ」と、シュアな打撃でしっかりと数字を残す。

 さらにその上で「ヒットの延長がホームランになるくらい、トレーニングでパワーをつけながら頑張りたい」と、昨年に続いてのサク越えも目指していく。

兄妹対決!?
兄妹対決!?

■男子に負けていないところに注目

 女子野球を取り巻く環境は変わりつつある。現在、女子チームを持つNPB球団は3つあり、学生の女子硬式野球部も増加している。女子高校野球の決勝戦は甲子園球場東京ドームで開催されるようにもなった。女子の侍ジャパンにも注目が集まっている。

 「プロ」はないが、女子選手が野球を続ける場所、目指せる場所は徐々にではあるが増えてはきている。

 「女子でもこれだけのプレーができるんだよというところは、もっと知ってもらいたいし見てもらいたい。と同時に、野球をしている女の子たちは、わたしも含めてもっともっと技術アップしていかなきゃいけないと思っています。でも、その技術アップに対するがむしゃらさというか、うまくなりたいという気持ちは男子にも負けていないので、今後がすごく楽しみです」。

 意欲あふれる女子選手たちの、ますますのレベルアップを期待しているという。

 そんな川端選手自身も日々、スキルアップに余念がない。先日もお兄さんと一緒に練習をし、助言をもらった。

 「『ほんの少し重心が前にいくのが大きいから、ちょっと我慢したほうがいいんじゃない』と言われて、そこを修正したら打球の感覚がすごくよくなったんです。ちょっとしたことなんですけど、そういうふうにパッとアドバイスをくれるところが、すごくありがたい」。

 その鋭い打球はお父さんをも驚嘆させていたが、どこまでも貪欲である。野球をすることが、上達することが、この上なく楽しいのだ。

 「男子にはパワーやスピードで劣るところはある。でも、なんとかもっと女子野球の魅力を伝えられるように頑張っていきたい」。

 今年も個人として、チームとして、川端友紀は女子野球の発展に寄与していく。

進化し続ける川端友紀
進化し続ける川端友紀

【兄・川端慎吾のコメント】

 「チームを一から作るのもそうだし、全部自分たちでやっているのも、めちゃくちゃ大変なことだと思います。年末年始、家に帰ってきてもすごく忙しそうにしてるし、ほんとやることがいっぱいあるんだなぁって見ていました。

 僕としては見守ることしかできないですけど、すごいなって思っています。ほんと、すごいとしか言いようがないです。

 こっちに帰ってくると一緒に練習することが多いんで、気づいたことは言います。僕も腰の手術をしてから体も変ってしまったので、以前のようには打てなくなった。ここ数年、どうやったら今の体で打てるようになるかの研究をしているので、その経験を活かしながら伝えています。打ち方も似てますしね(笑)」。

子どもたちの質問に真摯に答える川端慎吾
子どもたちの質問に真摯に答える川端慎吾

“代打の神様”がバッティングのお手本を見せる
“代打の神様”がバッティングのお手本を見せる

(撮影:筆者)

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【九州ハニーズ】

球団公式サイト

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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