日本一の代打の神様・川端慎吾の妹、川端友紀が女子野球クラブチーム「九州ハニーズ」を立ち上げた【前編】

■女子野球クラブチーム「九州ハニーズ」を発足
「この度、九州ハニーズを発足致しました」―。
驚きの宣言だった。元女子プロ野球選手であり、侍ジャパン女子代表でもある川端友紀選手が昨年末、3年間所属したエイジェックを退社することを発表した。そして年が明けてすぐの0時5分、新年のご挨拶ツイートで戦友・楢岡美和選手とともに女子野球のクラブチームを立ち上げたと明かしたのだ。
その名も「九州ハニーズ」だ。
『野球熱のある九州で女子野球を盛り上げる!』『本気で野球に打ち込める環境を作る!』『選手、指導者問わず全力で楽しみ、最強を目指す!』を掲げ、人材育成にも力を入れ、応援され愛されるチームを築いていくという。

大阪は貝塚市出身で、これまでの所属チームも京都、埼玉、栃木だったから、九州とはまたずいぶんと遠く、しかも真逆の方角である。
「九州は女子の社会人チームはなく、クラブチームも数えるほど。高校や大学も女子の硬式野球部があるのは数校だけ」。
女子野球がまだ盛んではない地で女子野球を活性化し、根づかせていきたいと考えているのだという。
「福岡で野球といったらソフトバンクホークス。ホークスのマスコットにハニーちゃんっているんですけど、それにあやかってというか、強くて人気のあるホークスの妹的存在になりたいというイメージで『九州ハニーズ』と名づけました。九州は野球熱が高いので、女子野球も一緒に盛り上げて応援していただけたら嬉しい」。
甘いだけではない。強いイメージも名前に込めた。現在、さまざまな準備に大忙しだが、まずは今月29、30日のトライアウトで選手を集める。(トライアウト詳細)

■エイジェックで日本一を達成
それにしても自身でチームを作るとは…。
聞けば「元々チームの立ち上げに興味があった」という。埼玉アストライア、エイジェックと9年間チームメイトだった楢岡選手には、以前からさまざまな野球の話をする中で「チームを作ってみたい」という気持ちも打ち明けていた。最初はそこまで興味を示さなかった楢岡選手が「一緒に協力してやりたい」とその気になったあたりから、前向きに実行することを考えだした。
ただ、エイジェックに入るときに「3年間やる。3年以内に日本一を獲る!」と目標を立てていた。それは楢岡選手も同じ思いだった。まずはお互い、エイジェックで優勝、日本一になることに全力を注いだ。
そして、その目標を昨年達成した。「全日本女子硬式野球選手権」だけでなく「全日本クラブ選手権」「ヴィーナスリーグ」でも優勝し、3冠を奪取した。まさに頂点に君臨できたのだ。そこで、ずっと抱いてきた「女子野球の普及、発展のために何かしたい」というもう一つの目標に向かって、楢岡選手ともども新チーム設立に動き出せることとなった。
「エイジェックにはすごくお世話になった。だから、日本一という形で恩返しできたのはよかった。(チーム立ち上げの決意を)話したら、すごく前向きに応援してくれ、送り出してくれたので、ほんとうに感謝しています」。
いずれ日本一を争う好敵手として相まみえる日が来るだろう。

■兄の後を追って野球を始め、ソフトボールに転向
女子野球界では、その存在を知らない人はいないであろう川端選手だが、これまでさまざまな壁にも当たってきた。一時は競技からまったく離れたこともある。
そもそも野球を始めたのは小学3年のときで、2歳上の兄・川端慎吾選手(東京ヤクルトスワローズ)の後を追ってだった。中学ではソフトボールに転向した。当時はまだ女子が野球を続けられるような土壌はほぼなく、あっても周知はされていなかったからだ。
「女子のプロ野球リーグもなかったし、女子野球の世界大会とか日本代表があるって知らなかった。なんなら高校に女子野球部があるってことすら知らなかったので、このまま野球を続けて先があるのかなっていうことを父とも相談した中で、ソフトボールがいいんじゃないかと。野球を続けようという気持ちはなかったですね。やりたい気持ちと、続けてもどうなるんかなという気持ちとで、結局、中学からはソフトボール部に入った」。

慎吾選手が通う和歌山商業高校(現市和歌山高校)に進学し、卒業後も塩野義製薬でソフトボールを続けた。しかし、ソフトボールがオリンピックの正式競技から外されると決定したことで目標が見い出せなくなったこと、社業との両立がかなり厳しかったことなど、さまざまなことが相まって退社した。そして、スポーツ店でのアルバイトを始めた。
1年半ほど経ったころだろうか。「和歌山県の成年女子チームで国体のソフトボールに出るから、やってみない?」との話が舞い込んできた。野球どころかソフトボールにもまったく関わっていない時期だったが、引き受け、そこから運動を再開した。
「その大会に出場したけど予選で負けちゃって、それがなんかめちゃくちゃ悔しかった。それで、よし、来年に向けてもう一回出場するために本気でやろう!と」
そう心に誓ったとき、女子プロ野球が発足すると聞いた。「うわ!野球かぁ…!」と信じられない思いだった。「『わたし、野球できんのかなぁ』っていうのが最初に知ったときの気持ちで、とりあえずチャレンジっていうくらいの気持ちでトライアウトを受けたら合格して、プロの世界に飛び込んだっていう感じです」。
負けた悔しさから闘志に火がつき、それが新しい扉を開いてくれたのだ。
「たぶん、ソフトボールをあのまま続けていたら、野球の世界には行ってなかったんじゃないかと思う。ほんとにタイミングがバッチリだった」。
きっとこうなるべくして、なった。“野球の神様”が野球界に川端選手を欲したのだろう。これは偶然ではなく必然の流れだったのだ。
こうして、女子野球界に稀代のヒットメーカーが誕生することとなった。

■女子プロ野球界でトップクラスの活躍
女子プロ野球界での活躍は群を抜いていた。いきなり初年度、そして翌年の2年連続で首位打者に輝き(.393、.406)、アストライアに移った2013年にはキャプテンとしてチームを牽引し、女子プロ野球選手初の4割超えとなる.431をマークして3度目の首位打者になったほか、最多打点(34)、最高出塁率(.537)で優勝し、リーグMVPも獲得した。
2017年にはプロ初本塁打を放ち、この年はジャパンカップでも優勝している。
プロ通算で380試合に出場、1398打席、1157打数、432安打(歴代2位)、2本塁打、192打点、98盗塁、打率.373、出塁率.467、長打率.505、OPS.972と素晴らしい打撃成績を収め、ベストナイン(2011年に新設)を3度(遊撃手2度、二塁手1度)、ゴールデングラブ賞(2016年に新設)は二塁手で受賞した。
また、女子野球ワールドカップに侍ジャパン女子代表(マドンナジャパン)として2012年から4大会連続で出場し、日本の6連覇に大きく貢献した(5大会連続で選出されたが、2020年はコロナ禍で延期→再延期→中止)。

■9年間貢献した手応えをもって引退を決意
そして2019年のシーズン終了後、引退を発表した。実は「年間に何回痛めたかわからない」というほど、ずっと腰の故障に悩まされていたという。
「まったく野球ができないほどのケガではないけど、自分のやりたいレベルまでの練習ができなくて、もどかしさがあった」とケガを怖れて練習を抑えなければならないのが不本意だったことと、「そろそろ次の道も考えるような時期」と指導者の道に進むことを念頭に置いて、シーズン前に「今年まで」と第一線から退くことを決めたていた。
「シーズン最後に決めるんじゃなくて、最初に決めてやりきろうと思ったので、リーグには伝えていました」。
ラストシーズンもしっかり3割超え(.339)で、9年間のプロ野球人生に幕を下ろした。

「女子野球の世界を知らずに飛び込んで、トライアウトのときに『こんなに野球をやってる女の子がいるんだ』ってビックリしたところから始まって、野球で活躍することだけでなく女子野球の普及、発展ということを考えながらやってきた。最初は『女子で野球?』って言われることが多くて、『ソフトボールじゃないの?』とか、『女子プロってプロレスラーじゃないの?』って言われることもあった(笑)」。
それが、プロで過ごした9年間でかなり変わってきた手応えはある。
「プレーを見てもらうと『すごいね』『うまいね』と言ってくれる人が多かった。女子が野球をすることが当たり前になってきたと思うし、そこに関われたことも自分自身の成長に繋がった。ほんとに人見知りだったのが、人と話したり人前で話したりする機会が増えて、自分でも変わったと思う。家族にはビックリされるけど(笑)。ほんとに、それくらい変われたかなって思います」。
やりきった。現役にまったく未練はなかった。
・・・はずだった。
(後編へ続く⇒コチラ)

【川端友紀*女子プロ野球での通算成績】
380試合 1398打席 1157打数 432安打(歴代2位) 2本塁打 192打点 98盗塁 198四球 69三振
打率.373 出塁率.467 長打率.505 OPS.972
首位打者3度(2010年、2011年、2013年)
*自己最高打率.431(2013年)
最高出塁率4度(2010年、2011年、2013年、2017年)
*自己最高出塁率.537(2013年)
最高長打率2度(2011年、2013年)
*自己最高長打率.631(2013年)
最多打点(2013年)
*自己最多打点34(2013年)
ベストナイン(遊撃手部門:2011年、2013年、二塁手部門:2017年)
ゴールデングラブ賞(二塁手部門:2017年)
ワールドカップ出場(2012年、2014年、2016年、2018年…第5回~第8回の4大会連続)
【九州ハニーズ】
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(撮影はすべて筆者)