上本博紀監督の“猛檄”に応えた阪神タイガースジュニア、そのブラボーな戦い
■扇の要・駒勇佑のブラボーな活躍
「ブラボー!」「ブラボー!」
一塁側ベンチから元気な声が響き渡る。12月4日、中日ドラゴンズジュニアを迎えての一戦で、阪神タイガースジュニアはまさに“ブラボーな戦い”を見せた。
中でも喉が張り裂けんばかりに「ブラボー」を連呼していたのが、このゲームのヒーローとなった駒勇佑選手だった。
三回表、1死から放った先制のソロホームランは、打った瞬間に確信できるくらいの超特大弾で、練習試合での自身第2号となった。「インコース低めで、前のオリックス戦のホームラン(11月27日のチーム第1号)もインコース低めだったので、今日も力強く振ったら思いきり入ったので嬉しかったです!」と、昂揚した表情で語る。
豪快なスイングにはかなりの手応えがあったようで、「原(辰徳)監督のバット投げみたいな感じがやりたかったけど…」と笑うが、それはさすがにできなかったようだ。
打つだけではない。捕手としても大きな声を出しながら、先発の殿垣内投手をしっかり引っ張った。ピンチではマウンドに足を運び、「バックを信じて投げてこい」と鼓舞したり、まったく関係ない話を持ち出して笑わせたりした。
強くハッパをかけるだけでなく、力を抜いてリラックスさせるなど、硬軟織り交ぜるあたりはキャッチャーとしての引き出しも多い。
小学1年で野球を始め、2年生からマスクをかぶるようになったのは、兄と姉がともにキャッチャーをしていたから、やりたくなったのだという。実際にやってみると「楽しかった」と、以来、ホームを守り続けている。
「みんなをまとめてゲームを作っていけるのが楽しい。ピッチャーも僕のサインで動いてくれるので、それも楽しい」と、キャッチャーの魅力を語る駒選手。強いリーダーシップでぐいぐいと投手陣を牽引できる捕手だ。
この日のひときわ大きな声での「ブラボー」にも、駒選手なりの思いがあった。
「昨日はちょっとみんな元気がなくて、ショボーンとして2連敗だった。今日からまた、上本(博紀)監督が言ったとおり集中して、『声出していこう』ってみんなで声を出すようにした」。
前日の2連戦はともに0-1の完封負けで、上本監督からも非常に厳しい言葉で奮起を促されていた。いや、それ以前にジュニアたち自身がとてつもなく悔しかった。そこで、より声を出し、溌溂とした動きで勝利を呼び込もうと決意した。そしてその先頭に、駒選手の姿があったのだ。
今年の大会は使用バットの規定が昨年とは変わったため、当初は飛ばすことに苦慮していたが、だんだんと強い当たりが出てきている。駒選手にも持ち前の飛距離が見えはじめたのは、「監督に言われたように初球から全力で振っていっている」と、教えに従ってフルスイングに徹しているからだ。
「ほかの11球団の強い選手、うまい選手を見て見習っていきたい」と貪欲な姿勢の駒選手は、本大会でも「ホームランを打ちます!」と意気込む。そして、打ったあかつきにはバット投げを実践すると約束した。
きっとブラボーなホームランで、チームを勝利に導くだろう。
■殿垣内大祐の完投勝利でチームを勢いづけた
この試合は「ゆうすけ・だいすけ」の「すけすけバッテリー」が大活躍した。その、もう一人のヒーローが殿垣内大祐選手だ。
朝のキャッチボール前に先発を告げられ、「ドラゴンズは打線がすごいチームなので、コースをしっかり投げ分けていこう」と気合が入ったという。六回を3安打1失点でみごとに完投勝利し、「しっかりコースに投げ分けられたので、よかったと思います」と、満足げな表情で振り返る。
「ものすごく調子もよかった」と話すとおり球数も62球と少なく、きっちり打たせて取った。唯一悔やまれるのが四回の被弾だが、そこも「ソロホームランだったので、すぐに切り替えた」と、崩れることなく後続をピシャリと断った。
それでも2度、ピンチは訪れた。三回裏、先頭にヒットを許し、次打者に四球を与えて無死一、二塁となった。そのときだ。駒捕手がマウンドに来て、「切り替えてミットに投げてこい」と声をかけてくれた。犠打で1死二、三塁となったが「力で押して、絶対に1点もやらんとこって思って投げました」と、気合いを入れ直して封じた。
最終回も内野安打と盗塁で2死三塁のピンチを背負ったが、「もう最後なので全部の力を出しきろうと、全力投球でいった」とゲームセットまで誰にもマウンドを譲る気はなく、最後は空振り三振に斬ってフィニッシュした。
殿垣内選手が野球を始めたのは5歳だ。「お父さんもお兄ちゃんも野球をやっていた」という野球一家の三男坊は、6こ上と3こ上のお兄ちゃんが憧れだ。
自チームではキャッチャーを務めるが、ジュニアでは安定したピッチャングを見込まれてピッチャーで出場している。
「一番やりたいのはキャッチャーだけど、ピッチャーもやっていきたいと思っている」そうで、ピッチャーとしては「スローボールも使いながら、コースに投げ分けること」を大事にしているという。
「ピッチャーをすると肩も強くなるので、肩というのはキャッチャーをするときにも活きてくると思う」。こうプラスに考えて、どんなことにも全力で取り組む。
タイガースジュニアのピッチャーとして、「12球団で日本一になりたい」とテッペン獲りを誓っている。
■サヨナラ打はYUZUHA
1戦目の対ドラゴンズジュニア戦を2―1で勝利したタイガースジュニアは、2戦目のオリックス・バファローズジュニア戦でも連勝した。決めたのはYUZUHAのサヨナラ打だった。
2―2の同点で迎えた最終回の六回裏。2死二塁となり、次打者は新開柚葉選手。実はネクストバッターズサークルに向かおうとしたとき、上本監督から声をかけられた。「代打あるかも」と。
めちゃくちゃ悔しかった。指名打者のこの日、直前の第2打席でも悔しさを味わっていた。1―1の同点から味方が1点を勝ち越してなおも2死一、三塁のチャンスで、新開選手は空振り三振に倒れていた。その後、チームは追いつかれている。
このサヨナラの場面でなんとしても挽回したい。代わってなるものか。
「打ちたいか?」と訊かれ、キッパリと即答した。「打ちたい!!」
「よし!打ってこい!」と送り出されると、「とにかくヒットを打ってランナーを還すことだけ考えた」と集中力を高めた。「ストライクがきたら打とう」と決め、その初球だ。アウトコースにきた球に反応し、コースに逆らわず逆方向に打ち返した打球は、ライトの前で弾んだ。
サヨナラ打だ。勝気な新開選手が気持ちで呼び込んだサヨナラ打だった。上本監督の「代打あるかも」は、おそらく新開選手の性格を読んでの敢えての言葉だったのだろう。みごと発奮した新開選手もまた、強いメンタルの持ち主だ。大舞台での活躍も楽しみである。
小学2年で野球を始めたのは、小学校でやっているのを見て「楽しそうだったから」だという。1年生からやっていた体操は辞めて、野球に集中することにした。
3年生からピッチャーになったが、とにかく速い球を投げることを追求している。ここまでの自己最速は117キロだ。速さは男子にも負けない自信がある。
本当はジュニアで背番号1が欲しかった。希望者が重なり、じゃんけんで「1」は譲ったが、今着けている「00」に込めた「スタート」の意味をたいせつにしている。両親から教わった「初心を忘れないように」ということだ。日々の中でも「1球目」「1打席目」など、始まりを疎かにしない。この日のサヨナラ打も、とらえたのは初球だった。
今後もジュニアでのさらなる活躍を誓う。
「ピッチャーでは三振をいっぱい取りたいし、バッターではヒットをたくさん打ちたい。大きい当たりを狙うより、確実に打てるようにしたい」。
YUZUHAの負けん気の強さが、チームの勝利を引き寄せる。
■鋭い目力のショートストップ・中谷英太郎
この試合、先制点を叩き出したのは中谷英太郎選手だ。「3番・ショート」で先発出場すると、初回の1死二塁の場面で左越え二塁打で亀岡壮佑選手をホームに還した。
「ランナーを還すつもりで打ちました。甘い球が来たので振っていこうと、しっかりと振りきれたのでよかった」。
第2打席でも先頭で左前打を放って、高崎辰毅選手のタイムリーで得点を刻み、最終打席でも2死から四球を選んだ。「常に塁に出るつもりで打席に入っている」との言葉どおり、この試合のすべての打席で出塁した。
第1試合でも中前への当たりでチャンスを拡大し、それが2点目につながるなど、要所での仕事ぶりが光る。
幼稚園の年中のとき、夢中になったスポーツはまずサッカーだった。サッカーも大好きだったが、小学1年でいとことキャッチボールをしたとき、あまりの楽しさに野球に心を奪われ、野球を始めることにした。
「投げるのが楽しかったし、打つのも守るのも楽しかった」。
やはり基本は「楽しい」だ。楽しいからこそ、もっと上手くなりたいと思うし、だから練習も頑張れる。自チームではピッチャー、キャッチャー、ショートとポジションは多岐にわたるが、中でも一番好きなのは「ショートです!」と即答する。「あんま理由はないけど、なんかショートが好き」という。
目指すショート像は読売ジャイアンツの坂本勇人選手だといい、「広角に打ち分けるのとか、守備もうまいから」と憧れている。普段から練習に余念がないが、守備練習ではなんと小学2年の弟がノックを打ってくれているとか。ジュニアの練習や試合にもついてくる弟も、4年後にはタテジマを着ているかもしれない。
「守備でもバッティングでも日本一になりたいです!」
中谷選手は、力強く宣言した。
本大会まで2週間と少し。上本監督ら首脳陣のもと、阪神タイガースジュニア2022はこれからさらにギアを上げていく。
(文中の写真提供:阪神タイガースジュニア2022保護者)