「プロ野球選手になりたい!」―BCリーグのトライアウトより

松本陽雅選手と田中翼選手(撮影:筆者)

■BCリーグのトライアウトにて

 「プロ野球選手になりたい」―。

 野球少年のほとんどが抱く夢だろう。

 しかし、中学、高校…と進むにつれ、その夢が遠ざかっていくことを感じたとき、どうするか。

 諦めてほかの道に進む。いや、そうせざるを得なくなるだろう、大多数の選手は。

BCリーグのトライアウトに集まった選手たち(撮影:筆者)
BCリーグのトライアウトに集まった選手たち(撮影:筆者)

 だが、諦めきれない者もいるのだ。野球が好きで好きでしかたない。どうしてもプロ野球選手になりたい―。

 そんな諦めきれない男たちが、BCリーグのトライアウトに集まった。

 関東地区で2日間開催したのち、関西地区でも11月9日、貝塚市の日本生命野球部のグラウンドで行われた。

 関西地区のトライアウトには95名(投手47名、捕手4名、内野手18名、外野手26名)がエントリーし、一次の50m走、60m送球、守備、ピッチング、バッティングのテストで30名に絞られ、二次の実戦形式のテストに臨んだ。

 両会場を訪れたBC12球団の首脳陣は同15日のドラフト会議を前に、参加選手の動きに目を凝らしていた。

 では、トライアウト(関西地区)で光った2選手を紹介しよう。

 松本陽雅(まつもとようが)内野手と田中翼(たなかつばさ)捕手だ。

■松本陽雅(まつもとようが)

(写真提供:松本陽雅)
(写真提供:松本陽雅)

 速い。とにかく足が速い。自ら掲げる「一塁到達3.55秒」の看板に偽りなしだ。

 一組目で自身の打撃が終わると「盗塁していいですか」と申し出て、ランナーとして登場しては何度も自慢の快足を披露した。

 二盗はもちろん、一塁から三塁までの走塁でも韋駄天ぶりを見せつけ、関係者を驚嘆させていた。

◆俊足伝説

(写真提供:松本陽雅…撮影者・父)
(写真提供:松本陽雅…撮影者・父)

 快足の原点は笹栗中学時代にあった。1年冬に左手首をケガし、ギプスのお世話になった。できる練習は限られる。

 そこで松本少年は決意した。「とにかく走りまくろう!」と。

 メニューも自ら考案した。足に重りをつけたり、坂道ダッシュを多く取り入れたりするなど、来る日も来る日も走りまくった。

(写真提供:松本陽雅t…撮影者・父)
(写真提供:松本陽雅t…撮影者・父)

 すると、春の訪れとともにタイムが様変わりしていた。

 「急に速くなった」と、誰よりも本人が驚いた。自ら考えながら走ったことで、体の使い方などを会得できたのだろう。

 3年時には陸上部にもスカウトされるまでになり、数週間だけ所属したこともある。

 “武器”を手に入れた松本選手は、同時に自信も身につけていた。

(写真提供:松本陽雅)
(写真提供:松本陽雅)

 竟成館高校では、足に関しては敵なしだった。足ではとことん目立ち、学校行事では常に活躍した。

 もちろん野球部でも、足を生かしたプレーは専売特許だった。

 守備では「最初は内野手だったけど、試合に出だしたのはセンター」とその守備範囲の広さで、打撃では徹底的に課せられたセーフティバントで稼ぐ内野安打で、攻守にわたってチームに貢献した。

JABAスポニチ徳山大会で優勝(写真提供:松本陽雅…撮影・父)
JABAスポニチ徳山大会で優勝(写真提供:松本陽雅…撮影・父)

 いずれは社会人チームに入って東京ドームを目指したいと、まず卒業後は沖データコンピュータ教育学院に進み、2年のときにセカンドでレギュラーを獲った。

 「3年間で盗塁失敗は2回くらいだったと思う」と、足への自信をより深めた。

 そして今年の春、熊本ゴールデンラークスに入った。いつしか目標はさらに高くなり、「どれだけできるか試したい」とプロ行きを考えるようになった。

 ところがさまざまな事情が絡んで、この秋、戦力外を告げられた。

 「野球がしたい」―。

 ここで辞める気はさらさらなかった。そこで浮かんだのが独立リーグだった。NPBを目指すなら、確率的にそのほうが近道だと考えたのだ。

◆出塁には自信あり

(写真提供:松本陽雅)
(写真提供:松本陽雅)
(写真提供:松本陽雅)
(写真提供:松本陽雅)

 トライアウトでは内野安打、投手強襲の中前打、四球と持ち味はアピールできた。これまで磨いてきたものだ。

 「沖データでもラークスでも対戦相手のレベルが高かった。打てないピッチャーだと思ったら、ファウルで粘ってバントヒットか四球で出塁するようにしていた」。

 選球眼にもファウルでカウントを作る技術にも自信がある。

 しかし「これまでは走り打ちで内野安打が多かったけど、NPBに行くためにはしっかりミートして長打力もつけないといけないと思う。BCなら元NPBの方の指導が受けられるので楽しみ」との向上心を抱き、現在も練習に余念がない。

◆父には感謝してもしきれない

(写真提供:松本陽雅)
(写真提供:松本陽雅)
(写真提供:松本陽雅…撮影者・父)
(写真提供:松本陽雅…撮影者・父)

 夜中にカラオケ屋でアルバイトをしているため、朝6時から昼まで寝て、午後からみっちり練習し、また夜にはバイトに出かけるという日々だ。

 幸いにも練習場所とパートナーには恵まれている。

 「オヤジが自営業で、会社の駐車場に土を入れてネットを張ってくれて練習ができるようにしてくれた」。

 それだけでなく、父・賢一郎さんはトスを上げ、ノックを打つなどもしてくれる。

 「一番支えてくれている」と、二人三脚で息子の夢をバックアップしてくれているのだ。

(写真提供:松本陽雅)
(写真提供:松本陽雅)
トライアウトでの守備(撮影:筆者)
トライアウトでの守備(撮影:筆者)

 もちろんひとりでも素振りや置きティーなど、「毎日必ずバットを振る時間は作っている」という。

 その際にもただ漫然と振るのではなく、投手のボールをイメージし、内側を叩くよう心がけている。

 「左ピッチャーのスライダーが苦手なので、それをイメージしたり、たとえばフルカウントに追い込まれた想定をしてノーステップで打つとか」。

 変化球の軌道、ボールカウント、状況…イメージすることは多岐にわたる。

 ポジションはセカンドがメインだが、サード、ショート、外野も守れるユーティリティである。

 「走」はもちろんだが、「攻」も「守」も三拍子すべてでNPBに挑戦する。

■田中翼(たなかつばさ)

(写真提供:田中翼)
(写真提供:田中翼)

 礼儀正しい好青年というのが、最初の印象だった。

 捕手というポジションの特性だろうか、常に周りへの気配り目配りを忘れない。

 グラウンドやブルペンで移動するときは人の邪魔にならないよう気を遣い、トライアウト終了後はほかの選手たちが自分の身の回りのことで精一杯の中、グラウンドの後片づけなども率先して行っていた。

◆BBCジェッツに入り、教師の道を目指す

(写真提供:田中翼)
(写真提供:田中翼)

 中学卒業後は地元の鎮西学院高校に進学し、1年秋からベンチ入りした。しかし経済的な事情から高2夏に退学した。

 しかし野球は続けたかった。なんとか野球ができるところをとネットで検索すると、BBCジェッツという社会人硬式野球クラブチームに目が留まった。

 「高校中退、高校生、大学生、フリー、社会人を対象とした、勉強しながら、働きながら、元社会人野球選手の指導を受け、プロ野球選手を目指すあなたをサポートします」と書かれている。

 なにより働きながら野球ができるだけでなく、通信制の日本航空高校で高校卒業資格も取得できるという。

(写真提供:田中翼)
(写真提供:田中翼)

 迷わず門を叩いた。そこから多忙な毎日が始まった。

 午前は練習、午後は授業、夕方以降はアルバイトだ。バイトは飲食店のほか、BBCジェッツの関連である野球教室にもスタッフとして入った。

 その野球教室で自身も子どもたちに野球を教えながら、教えることの素晴らしさを身をもって感じるようになった。

 すると「通信教育で教員免許を取ることもできるよ。それなら働きながらだから、お金の負担もかからないよ」と、助言してくれた人がいた。

 それならば、とその道に進もうと決意した、そのときだ。

◆目標はプロ野球選手に軌道修正

(写真提供:田中翼)
(写真提供:田中翼)

 またアドバイスをくれる人が現れた。NPB(日本ハムファイターズオリックス・バファローズ)で活躍した清水章夫氏だ。

 今年からBCリーグの新潟アルビレックスBCで監督をしているが、2年前のその当時は別の職業に就いていた。BBCジェッツの社長の同級生という縁で、臨時コーチとして教えにきてくれていたのだ。

 清水氏は言った。

 「上を目指したらいい。諦めるのはもったいないよ」と。

(写真提供:田中翼)
(写真提供:田中翼)

 上―。視界が開けた気がした。

 高いレベルで野球がやりたい。そして、その大好きな野球を仕事にしたい。

 気持ちは固まった。

 そこからはただひたすらプロ野球選手になることを考えた。まずは、よりNPBの目に留まるよう独立リーグを目指した。

 昨年の四国・BC合同トライアウトも受けたが、どこからも指名はなかった。しかしめげなかった。

◆打てるキャッチャーに

(写真提供:田中翼)
(写真提供:田中翼)

 より技術を磨き、キャッチャーとしてブロッキングと強気なリードに自信を深めた。

 BBCジェッツから四国・愛媛マンダリンパイレーツに入団し、再びBBCジェッツに戻った西村礼一投手には「一からしごいてもらいました」と、徹底的に鍛えてもらった。

 得意なのはピッチャーの気持ちをしっかりと汲み取り、うまく乗せることだ。そうすることで攻撃にいいリズムをもってこれるようにと腐心している。

 バッティングは長打よりアベレージタイプだ。

 「追い込まれても粘れるので、三振は少ない。逆方向にも狙って打てる」と胸を張る。

 トライアウトでは思いきりのいいフルスイングを見せ、三振、右前打、三敵失と、持てる力は出すことができた。

(写真提供:田中翼)
(写真提供:田中翼)

 小学3年でソフトボールを始めてから、ずっとキャッチャーだ。一つ上の先輩がキャッチャーで、その姿に憧れた。

 「純粋にカッコよかった。みんなと着けてるものとか違うし(笑)」。

 もともとがキャッチャーのような性格だったのか、キャッチャーをしているからそうなったのか。どっちが先かわからないが、常に冷静に周りを見渡せる能力はキャッチャーにもっとも求められるものだ。それを備えている。

 将来的にNPBに入れたら、やりたいことがあるという。

 「キャッチャーでシーズン200安打打った人っていない。そうなりたい」。

 まずはBCリーグに入って最多安打を狙うという。同リーグに刻まれているシーズン最多安打の記録は115安打(2017年/富山・ペゲロ選手)だ。

 巧打の捕手として、攻守でチームを盛り立てていくつもりだ。

松本 陽雅まつもと ようが)】

古賀竟成館高―沖データコンピュータ教育学院―熊本ゴールデンラークス

165cm・65kg/右投左打/A型

1998.3.23生/福岡県

50m(最速)5.75秒

田中 翼たなか つばさ)】

鎮西学院高―日本航空高―BBCジェッツ

172cm・72kg/右投右打/0型

1999.1.16生/長崎県

二塁送球(最速)1.80秒

*11月15日のBCドラフト会議で、オセアン滋賀ユナイテッドBCから松本選手が1位指名、田中選手が2位指名を受けた。