ドラフト直前!“ラストオーディション”でのBCリーグ投手陣―「ラプソード」の計測と捕手の寸評
■“ラストオーディション”での投手陣
今年のNPBドラフト会議は10月17日だ。その日を心待ちにしているのは高校生も大学生も社会人も、そして独立リーガーも同じだ。
日本の独立リーグの一つであるBCリーグでは、ひとりでも多くの選手が指名されるよう、シーズン終了後にNPBとの選抜試合を行っている。
これはBC全11球団の中から選抜した選手で1チームを結成し、NPBのファームや3軍と対戦するものだ。スカウトにとってもお目当ての選手の力量を再確認できるし、見落としを防ぐこともできる。
福井ミラクルエレファンツの田中雅彦監督が常々口にする「グラウンドはオーディションの場」という言葉を借りて、筆者はこの選抜試合を「ラストオーディション」と名づけてきた。
(詳細⇒ラストオーディション2018、ラストオーディション2018投手陣、ラストオーディション2019、ラストオーディション2019総括)
今年もその“ラストオーディション”が、大勢のスカウトが見ている前で4試合実施された。
その中から9月25日に行われたオリックス・バファローズのファームとの一戦で登板した6投手をピックアップする。
■「ラプソード」で計測
この日、石川ミリオンスターズの片田敬太郎フィジカル&コンディショニングコーチに「ラプソード」を持参してもらった。
石川球団が所有している「ラプソード」とはトラッキングデータの取得機器で、球速のほか、ボールの回転数や回転軸、変化量などの幅広いデータが取得可能である。
近年その名が普及してきた「トラックマン」の“持ち運びができるコンパクト版”といえばわかりやすいかもしれない。
ただ設置場所の関係上、試合中の計測は困難であるため、あくまでブルペンでの計測である。よって、試合での数値はこれを上回っているであろうと思われる。
(例:NPB投手のストレートの平均回転数は2200回転)
投手陣のブルペンでの投球時に計測した数値(球速、回転数、回転軸)に、投球を受けた喜多亮太捕手(石川)と坂本竜三郎捕手(福井)の寸評を交えて、BCリーグのドラフト候補投手を紹介しよう。
長谷川凌汰(新潟アルビレックスBC)右
ストレート …《球速》142《回転数》2192《回転軸》0:58
スライダー …《球速》120《回転数》1875《回転軸》8:52
フォーク …《球速》 《回転数》1022《回転軸》1:26
【喜多 評】
やっぱり、ほかのピッチャーと比べてひと味違う。まっすぐが速くて重たかった。
「まじであるんや、まっすぐが重いって」と、はじめて感じた。重くてキャッチャーミットにドシッとくる感じ。
フォークもよかった。一番、三振が取れる球。
フォークがしっかり投げきれるのは、去年セガサミーで受けていた森脇亮介投手(現 埼玉西武ライオンズ)と似ている。
前川哲(新潟アルビレックスBC)右
ストレート …《球速》140《回転数》2182《回転軸》2:52
スライダー …《球速》116《回転数》2295《回転軸》8:30
【喜多 評】
スピードガン表示はケタ違い。サイドで154キロとか出してきたから。
まっすぐの速さで言ったら、NPBでもなかなかいないんじゃないかな。サイドスローでのまっすぐの速さは一級品。
球が動くし、僕も指を突きまくった(笑)。
ジャイアンツもオリックスも嫌がっていた。キャッチャーの僕が怖いんやから、そりゃバッターも怖いと思う。
宮野結希(信濃グランセローズ)右
ストレート …《球速》137《回転数》2299《回転軸》0:24
カーブ …《球速》113《回転数》2137《回転軸》6:20
チェンジアップ…《球速》120《回転数》1340《回転軸》1:06
【喜多 評】(受けたのはブルペンのみ)
ブルペンで、めちゃくちゃいいピッチャーになると思った。
カーブがおもしろい。上から振ってくるような、ね。
まっすぐはまだそこまでじゃないけど、140キロいかなくても差し込める。あのカーブがあるから、まっすぐも生きる。チェンジアップもあるし、うまいこと遅い球で緩急を使えば、まっすぐも速く感じる。勝さん(武田監督)みたいな感じかな。
まだ完成してないし、伸びしろは一番あると思った。この子、すごくいいと思う。
有馬昌宏(富山GRNサンダーバーズ)左
ストレート …《球速》135《回転数》2103《回転軸》11:44
スライダー …《球速》114《回転数》2185《回転軸》4:04
チェンジアップ…《球速》118《回転数》1321《回転軸》11:10
【喜多 評】(受けたのはブルペンのみ)
変化球もしっかり投げられるし、なにより闘志系、気合い系のピッチャー。気持ちで投げるタイプ。僕はあのスタイル、大好き。
打たれてもいいからと、しっかり腕振って投げる。あれだけ腕振って投げたら、打たれても納得いくし、あれだけ気合い入ってたら、文句も言えない。
腕が振れるのは一番の強み。まっすぐも速いし、カーブでうまく緩急をつけられれば。
選抜試合では結果が出なかったけど、切り替えもしっかりできて取り組める投手やと思う。
矢鋪翼(石川ミリオンスターズ)右
ストレート …《球速》138《回転数》2457《回転軸》1:22
スライダー …《球速》118《回転数》2927《回転軸》7:50
フォーク …《球速》130《回転数》1586《回転軸》1:40
【喜多 評】
まっすぐとスライダーのピッチャーやけど、回転数の多さが特徴。
とくにスライダー!2段階曲がる。一回曲がって、ベースの手前でもう一回曲がる。わかっていても打てない。
あんなスライダー、見たことない。最初に受けたときは、本当にビックリした。
松岡洸希(埼玉武蔵ヒートベアーズ)右
ストレート …《球速》140《回転数》2243《回転軸》1:46
スライダー …《球速》120《回転数》2277《回転軸》7:12
チェンジアップ…《球速》123《回転数》 816《回転軸》1:12
【坂本 評】
まだしっかりとした制球力はないけど、球質自体は選抜メンバーの中でも群を抜いていた。
回転数だったりがあるのかな、手元でホップする感じ。
すごく落ち着いていて、林昌勇(イム・チャンヨン)に似てました(笑)。
同級生に見えなかった、マウンドにいるときは。(そういう坂本選手も落ち着いているが…)
ジャイアンツのときとオリックスのときと、立ち振る舞いは一緒だったけど、オリックスのときは調子はよくなかったんじゃないかな。でも悪いなりに低めに投げてゴロを打たせていた。
そこが、アイツのすごいところですよね。
実戦での結果はさまざまだったが、それぞれが持ち味を発揮できた選抜試合だった。
最終的な“答え合わせ”は10月17日、NPBドラフト会議の場だ。
彼らの夢が叶うことを祈りたい。
(撮影はすべて筆者)