Yahoo!ニュース

Z世代に人気の居酒屋、5社の特徴とトレンドをまとめてみた「前編」

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
東京・渋谷、池袋で頻繁に見かけるようになった「鶏ヤロー」の看板(筆者撮影)

筆者は還暦を越えた外食ウォッチャーである。日常的にさまざまな飲食店を体験して「いまの時代」を感じ取っている。そこでふと「大衆居酒屋チェーン」のことが気になった。

筆者が学生のころの1980年代は「大衆居酒屋チェーン」の全盛期であった。「つぼ八」「村さ来」といった大箱居酒屋が当時の若者向けで隆盛していた。「つぼ八の石井誠二」「村さ来の清宮勝一」はベンチャー経営者としてマスコミの寵児であった。

筆者もしかり、当時の若者はこれらの大箱居酒屋でサークルや仲間同士の宴会を行って酔っ払っていたものである。「イッキ禁止令」というものも生まれた。このような店には広い小上がりがあって、コンビニの手提げ袋のような袋に靴を入れて広間に上がり、長テーブルを囲んで飲食をした。メニューには枝豆、焼鳥、唐揚げをはじめ人気の食べ物は何でもそろっていた。客単価は2500円程度。若者にとって手が届くレジャー外食であった。

そこで、ふと思った。いまどきの若者、Z世代はどのような居酒屋に行っているのだろうか、と。彼らに人気の居酒屋を経営している経営者はどのような経歴で、これら居酒屋のアイデアを生み出したのだろうか、と。

こうして筆者は「Z世代に人気の居酒屋」を5社ピックアップして、これらを食べ歩き飲み歩き、そして実際に経営者にインタビューを行って、これらの特徴とトレンドをまとめた。これらを本日「前編」と明日「後編」の2回にわたって紹介したい。

コロナ禍にあって新業態を開発し成長

この記事の1番目は株式会社FS.shake(本社/東京都豊島区、代表/遠藤勇太)。創業は2013年1月。丸10年を経過した2023年9月期は店舗数74で売上高が62億円。近年まれな急成長を遂げている。

代表の遠藤氏(40歳)は料理人として飲食企業に入り、29歳で独立。「水炊き」を看板メニューとした飲食店を営んだ。その後、大箱で展開するようになり、焼鳥居酒屋とは差別化した「鶏料理」の居酒屋を展開していくようになる。店名は「とりいちず」で、独創的な路線を歩んできた。

FS.shake代表の遠藤勇太氏。和食の料理人から転じて、いまやZ世代から愛される居酒屋チェーンの経営者となり、この分野での先達として注目されている(筆者撮影)
FS.shake代表の遠藤勇太氏。和食の料理人から転じて、いまやZ世代から愛される居酒屋チェーンの経営者となり、この分野での先達として注目されている(筆者撮影)

同店では店頭に「生ビール199円」(税込219円/以下同)の表示を掲げてインパクトがあった。客単価は2000円。「安くてうまい」というキャッチフレーズで若者客を引き付けた。コロナ禍でも店舗展開を続けて「とりいちず」は50店舗体制となった。

「とりいちず」は完全に「安くておいしい」のコンセプトに振り切っている。これは東京・池袋の西口の様子(筆者撮影)
「とりいちず」は完全に「安くておいしい」のコンセプトに振り切っている。これは東京・池袋の西口の様子(筆者撮影)

コロナ禍にあって、新業態として「シーシャバー」と「もんじゃ」に取り組んだ。

まず、シーシャバーについて。2021年4月末、遠藤氏はある媒体の記事で「シーシャバー」を知った。その記事は、「80席のシーシャバーが新宿にオープンした」という内容。時短営業やアルコール提供自粛のご時世にあって、「こんな業態が新規にオープンするとは、この世界は儲かっているに違いない」と考えた。

早速、あるエリアの個人店のシーシャバーを視察したが「違和感」を抱いたという。まず「値段が高い」。初めて男3人で入った店は、シーシャを2台使用し、1人ドリンクを2~3杯飲んで、支払いが1万6000円を超えた。ほかの店も似たり寄ったり。

次に、「店が怪しい場所にある」。みな古い雑居ビルの中で営業していた。

そして、従業員が私服で営業をしていて「お客への対応の仕方がマニュアル化されていない」。さらに、「大手が存在しない」。これらがシーシャバー業界の特徴であると理解した。

これらを踏まえて、2021年7月シーシャバー「C.STAND」の1号店を東京・新宿三丁目にオープンした。客単価は2400円。そして、次々と店舗を展開していった。

シーシャバー「C.STAND」は客単価2400円で、この業態を親しみやすい存在にして、コロナ禍にあってゼロから20店舗以上に拡大した(筆者撮影)
シーシャバー「C.STAND」は客単価2400円で、この業態を親しみやすい存在にして、コロナ禍にあってゼロから20店舗以上に拡大した(筆者撮影)

「安くておいしい」に振り切る

もう一つの新業態「もんじゃ」について。もんじゃの業界ではコロナ前から行列ができる人気店が存在していた。その店は従業員がお客にもんじゃを焼いて差し上げるということが特徴。これで単品メニューが1600円あたり。

それに倣って、FS.shakeでは2022年9月神奈川・川崎に「もんじゃ酒場だしや」の1号店をオープン。しかしながら、人気店のサービスの仕方を踏襲しているだけでは中途半端のイメージを拭い去ることが出来ないと判断。そこで、もんじゃは「お客から要望があったら、従業員が焼いて差し上げる」という方針に切り替えた。

そして、今年の1月から完全に「安くてうまい」に振り切った。もんじゃはすべて1枚990円(1089円)。ドリンクは全品299円(329円)。食べ放題飲み放題を2980円(3278円)に設定した。「もんじゃは土日中心型の営業になりがちだが、この売り方にしてから平日もにぎわうようになった」と遠藤氏は語る。客単価は2700円。

コロナ禍の中で開発して展開を進めた「もんじゃ酒場 だしや」は「酒場」としての存在感をアピールしている(筆者撮影)
コロナ禍の中で開発して展開を進めた「もんじゃ酒場 だしや」は「酒場」としての存在感をアピールしている(筆者撮影)

2024年2月末現在で、FS.shakeのシーシャバーは21店舗、もんじゃは15店舗になっている。これらの業容は、コロナ禍にあったわずか2年の間につくり上げた。繁盛店として定着するとFLコストがシーシャバーでは40%、もんじゃの場合は50%に抑えられるという。一般の居酒屋と比べると利益率が高い。シーシャバーの客単価2400円と前述したが、もんじゃは2700円。両業態ともアッパーな業態を始めて多様化に取り組んでいる。

もんじゃの池袋西口店の様子。ランチタイムからZ世代の利用で店内がにぎわっている(筆者撮影)
もんじゃの池袋西口店の様子。ランチタイムからZ世代の利用で店内がにぎわっている(筆者撮影)

創業の業態である「とりいちず」は客単価が2000円であったが、コロナ禍による原材料高騰によって原価率が31.5%から33.5%に上がったことから、生ビール199円だったところを299円(329円)に引き上げ、新しいドリンクとして「生搾りレモンサワー」150円(165円)を導入してZ世代に愛される業態を維持している。これによって、客単価は2200円に近づくようになった。

同社では2024年9月期は80億円を想定している。

コロナ禍の間に20店舗から約70店舗に増やした秘訣とは

2番目に紹介するのは株式会社鶏ヤロー(本社/千葉県流山市、代表/和田成司)。同社が展開する「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」(以下、鶏ヤロー)は1号店が2014年2月にオープンして以来10年を経て68店舗(2024年3月末)となっている。

旭日旗に似たデザインで赤と黄色の配色を施した看板は強烈に記憶に残る(筆者撮影)
旭日旗に似たデザインで赤と黄色の配色を施した看板は強烈に記憶に残る(筆者撮影)

店舗の特徴は、まず看板が派手でよく目立つこと。旭日旗をモチーフにしたような赤と黄色の配色を背景にして「レモンサワー50円」「サワー・カクテル99円~」「フード199円~」「生ビール299円」等々の文字を掲載。これが最近、都内の繁華街で増えてきた。渋谷、池袋でよく目にする。

代表の和田氏(41歳)は、千葉県流山市にあった焼肉店の会社に就職し、21歳から27歳まで勤務。そこで店長からマネージャーまで経験した。2009年10月に独立・起業して、飲食店を展開していたが、2014年に大きな転機を迎えた。かつて勤務していた焼肉店の社長から「うちの取引先が、和田君に店を運営してもらいたいと言っている」という。場所は東武スカイツリーラインの松原団地(現・獨協大学前)。近くには低価格均一の焼鳥居酒屋チェーンで売上上位の繁盛店があった。そこに勝つために「ハイボール50円」を打ち出した。「低価格だとしても客単価2000円になればいい」ということを目標にした。

学生や若者の多い街で「鶏ヤロー」のヒットの路線をつかみ、いまや都心での展開を進める代表の和田成司氏(筆者撮影)
学生や若者の多い街で「鶏ヤロー」のヒットの路線をつかみ、いまや都心での展開を進める代表の和田成司氏(筆者撮影)

同店はたちまち学生に人気の店となり、その後大学の近くや若者が多い駅前で店舗を展開していく。コロナ禍前は二十数店舗であったが、2024年3月末では68店舗(直営25店、社内独立13店、FC30店)となっている。この4年間で40店舗以上を増やした。

「鶏ヤロー」のフードは鶏肉を使用したおつまみを中心に約70品目、冒頭で紹介した低価格のドリンクを含めて客単価2000円。店内は衝立や段差のないフラットな構成で、客席は椅子とテーブル。壁には「飲み会の会話」にありそうな文言をイラストや画像を添えてまとめたA4の紙が、ラミネート加工されて張り付けられている。それは例えば「おしぼりで顔を拭く男性、好きです」といった具合である。

店内の壁には、Z世代がお酒の席で話題にするようなキャッチーな要素をA4の紙にプリントして壁にはり、居酒屋を楽しむ雰囲気を盛り上げている(筆者撮影)
店内の壁には、Z世代がお酒の席で話題にするようなキャッチーな要素をA4の紙にプリントして壁にはり、居酒屋を楽しむ雰囲気を盛り上げている(筆者撮影)

店のオープンは16時で、最初はガラーンとしているが、19時にはどの店も示し合わせたように満席になる。筆者はこの様子から「放課後の部室」を連想した。「Z世代の行動パターンを理解し尽くしている」という印象を抱いた。

池袋東口店の様子。19時ごろになると一気にZ世代ばかりで満席になる(筆者撮影)
池袋東口店の様子。19時ごろになると一気にZ世代ばかりで満席になる(筆者撮影)

「理念浸透」で働く人の意識を束ねる

コロナ禍にあって店舗を40店舗増やすことが出来た要因は、空いた物件を積極的に取りにいったこと。そして、同社にある業務委託の制度を使って独立をしたいという人材が入社してくるようになったことが挙げられる。

「客単価2000円」「居抜き物件」の居酒屋がブレることなく10年間で70店に近い陣容をつくることが出来たポイントはどのようなものか。和田氏はこう語る。

「コロナ前に20店舗を超える状態になった段階でブレが出てきました。そこで企業理念の浸透やKPIが必要だと考えるようになったのですね。そこでコンサルタントに入ってもらい、理念研修や評価制度について全社的に取り組むようになった」

アルバイトにもKPIは存在する。このような視点で優秀なアルバイトの表彰を毎月行っている。また、アルバイトの有志を募って、月1回、計4回の「ヤロー大学」を行っている。授業のテーマは「夢の叶え方」で、受講者の数は18人。これらの成果をスタッフアワードといった機会で発表している。

同社の「理念浸透」とは「WINWIN=3K」というもの。「WINWIN」とは企業理念で「W=『わくわく』オーダーを取り」「I=『いきいき』オーダーを作り」「N=『ニコニコ』で提供する」ということ。「3K」とは「かっこいい・稼げる・叶える」ということ。

このような活動を継続してきて、アルバイトからのリファーラル採用が定着してきている。「ヤロー大学」経験者のうち80%程度が同社の社員になっている。また、離職率も抑えられてきている。

卓上に置かれた差し込みメニューに、メインの客層となるZ世代を掲載。「ここで働いてみたい」という動機が醸し出されている(筆者撮影)
卓上に置かれた差し込みメニューに、メインの客層となるZ世代を掲載。「ここで働いてみたい」という動機が醸し出されている(筆者撮影)

■「『Z世代にいま人気の居酒屋』5社の特徴と傾向をまとめてみた」の「後編」は、明日4月16日(火)11時25分に公開します。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

千葉哲幸の最近の記事