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「ファストカジュアル」が2024年の外食に続々と増える その理由とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
「極味や」では、表面を焼成して提供しお客が好みに焼き上げる(筆者撮影)

新年を迎えて早一カ月が経過した。ここで2024年の外食の動向を占ってみたい。

振り返ると2023年の飲食業界はコストプッシュを強いられた一年であった。コロナ禍が完全に落ち着いて、多くの店は好調に沸いたが、値上げが悩ましい課題であった。

その中で、新しい繁盛業態が顕在化してきている。それは「ファストカジュアル」である。この業態はファストフードに似ていて、クオリティの専門性が高い。多少高いと感じるが満足度が高い。筆者はこの業態が今年増えていくものと確信している。

以下、昨年筆者が体験した「ファストカジュアル」の事例から、筆者が確信している理由を解説していこう。

ハンバーグを自前焼き風にして提供

2023年を振り返って、筆者が最も感銘を受けた繁盛店は「極味や」である。

8月中旬に渋谷パルコ地下1階にある同店を訪れた。渋谷パルコの開店は11時で、飲食フロアの開店は11時30分となっていたことから「11時10分ごろに行けば余裕で入れるだろう」と思って行くと、すでに40人の行列ができていた。そこで14時に再度同店を訪れたらそのウエーティングの長さは変わらなかった。並んだところ、入店できたのは15時40分。1時間40分並んだことになる。

渋谷パルコ「極味や」のウエーティングの様子(2023年8月)、40人近いウエーティングが続いていた。韓国、中国からのインバウンドも多くみられた(筆者撮影)
渋谷パルコ「極味や」のウエーティングの様子(2023年8月)、40人近いウエーティングが続いていた。韓国、中国からのインバウンドも多くみられた(筆者撮影)

「極味や」を運営するのは、福岡市に本拠を置く極味やグループである(代表/松尾和幸)。和牛を扱う焼肉店で修業をした代表の松尾氏が、伊万里牛を使用する焼肉店「極味や」を2001年福岡市内の住宅街にオープンした。9坪ながら大層繁盛し月商はマックスで600万円を記録した。その後、焼肉店は3店舗に広げる。

繁盛店として有名となった「極味や」は、2010年3月にオープンを控えた福岡パルコの担当者から「肉を使った業態を考えて欲しい」と依頼を受けた。そこでひらめいたのがハンバーグ。同社ではまかないで牛肉の端肉を使ったハンバーグを食べていて(裏メニューにもあり)、この分野は得意であった。そこで赤身の牛肉を使用したハンバーグを開発し、出店に望んだ。

同店の規模は13.9坪、19席。店は回転することが重要である。カウンター席がメインとなっていて、テーブル席を設けるが中央部には調味料などを置くスペースをつくり、カウンター席のような構成にした。

ハンバーグはキッチンで表面を焼いて、お客は中身がレアなハンバーグをペレットで好みの大きさ、焼き加減にしてハンバーグを楽しむ。店の外にはウエーティングが東京ディズニーランドの行列のように幾重にも構成されている。こうして、約30分単位で5人6人のまとまった人数のお客が回転する。

渋谷パルコの『極味や』では、調理担当者がハンバーグを焼成する前に、ハンバーグを成型するなどのパフォーマンスを行うなど”おいしい”イメージを演出している(筆者撮影)
渋谷パルコの『極味や』では、調理担当者がハンバーグを焼成する前に、ハンバーグを成型するなどのパフォーマンスを行うなど”おいしい”イメージを演出している(筆者撮影)

その後食事の提供の仕方は変化し、東京にある2つの店(渋谷パルコ、東京駅グランスタ八重北)は、コの字型のカウンター席が2カ所設けられ、オープンキッチンの中でコック帽・シェフコートの調理人がハンバーグを整えるパフォーマンスを行っている。そして、ハンバーグの表面を焼成して、カウンター席の内側に張り巡らされた鉄板の上にサーブする。それをお客が好みの大きさと焼き加減で食事を楽しむ。両店ともに繁盛風景は福岡と変わらない。坪月商は福岡パルコの店で120万円、渋谷パルコでは110万円とのこと。客単価は2000円前後。

「ファストカジュアル」はファストフードの次の勢力

「ファストカジュアル」を定義する文言は、次のようになる。

①ファストフードに似て、カウンターサービス

②接客の要素は少ないが、ライブ感がある

③メニューはカジュアルレストアラン(*注1)のクオリティで専門性が高く、クックトゥオーダー *注1:カジュアルレストランとは客単価2000円から5000円あたり

④客単価は800円~2000円あたり

 筆者は1982年、新卒で食関連の総合出版社に入社。以来、外食分野の記者を約40年間続けている。入社した当時は、ファストフード、ファミリーレスランが一世を風靡していて、飲食業が近代的な業界に変貌しつつあった。

 この当時から、筆者は業界の構造について先輩記者やコンサルタントの諸氏に尋ね、そして自分の取材活動から、飲食業の「4つ業態分類」を知った。それが以下の4つである。A、B、C、Dの符丁の意味はこうだ。

A、客単価

B、注文を受けてから商品を提供するまでの時間

C、商品の提供方法

D、サービスの内容

・ファストフード

A:500円前後、B:5分以内、C:カウンターサービス、D:標準化されたサービス

・ファミリーレストラン

A:1000円前後、B:15分以内、C:テーブルサービス、D:標準化されたサービス

・カジュアルレストラン

A:1500円~4000円前後、B:15分以内、C:テーブルサービス、D:技能的なサービス

・ディナーレストラン

A:5000円以上、B:特になし、C:テーブルサービス、D:技能的なサービス

*これらは30年から40年ほど前に整理したものであるので、Aの客単価は、現在は当時のものより2割程度上振れしているものと思われる。

業態分類の最初に出てくる「ファストフード」は「ファミリーレストラン」のクオリティ(料理の価値)を提供するが、テーブルサービスを割愛してファミリーレストランよりも低価格でクイックに提供するという業態である。「ファストフード」の低価格とは、「ファミリーレストラン」のテーブルサービスをトレードオフすることで実現している。

では、今日の消費者はどうか。それは外食の経験値が著しく高くなり、ファストフードよりも上のクオリティを求めるようになった。また、所得も増えて。多少高くても満足度の高いものを容認する。経営する側は、コストプッシュを抱えている。ここで「ファストフードに似ているが」「クオリティはカジュアルレストラン」という業態が見えてくる。ここで低価格を実現するのがテーブルサービスのトレードオフである。これが「ファストカジュアル」である。

カルビ丼&スン豆腐でテイクアウトも充実

郊外ロードサイドで「韓丼」が店舗を広げている。同業態を展開するのは焼肉店を母体とする「やる気」で、1号店は新堀川本店(京都市伏見区)で2010年9月にオープンした。2023年12月末で70店舗(うち直営6店舗)となっている。

商品は「カルビ丼」と「スン豆腐」(スンドゥブであるが、豆腐料理であることをアピール)。「スン豆腐」は女性客の獲得のためにラインアップしたものだが。これが見事にヒットして「カルビ丼」と「スン豆腐」のセット(990円から)が人気を博すようになった。丼の単品は590円。ランチタイムにサクッと食事をするお客が多いことから客単価は880円とのこと。

「韓丼」のメニュー。同業態は1号店が出来て13年以上が経過したが、メニューの見せ方、価格構成は、続々とオープンしている類似業態にとってスタンダードとなっている(やる気提供)
「韓丼」のメニュー。同業態は1号店が出来て13年以上が経過したが、メニューの見せ方、価格構成は、続々とオープンしている類似業態にとってスタンダードとなっている(やる気提供)

筆者は昨年11月22日に新堀川本店で1人で食事をした。お客は店に入ると券売機でチケットを購入(筆者は990円のセット)。人数と名前を申告して、呼ばれるのを待つ。12時30分のランチタイムで入口近くの壁伝いにウエーティングのお客が10人ほど並んでいた。入口に近いカウンターでは、テイクアウトを注文していたお客が次々と来店。ちなみにテイクアウトはコロナ前から手掛けていて、コロナ禍の真っ最中に需要が急増して、コロナ前より売上を伸ばしたという。40坪40席の規模で月商1700万円を保っている。

オープンキッチンが客席に張り出していることが特徴。能舞台のような臨場感がある。

カルビ丼のカルビは、かつては注文があってから生肉を焼いて仕上げていが、焼きムラができるなどクオリティが安定せず、お客を待たせていたこともあったという。そこで、最初ジェットオーブンで肉を焼成し、お客から見える焼き台で炎のパフォーマンスも加えて仕上げるようになった。

食事を終えて席を離れたが、キッチンの中から「器の返却にご協力お願いします」と言われた。「韓丼」新堀川店では、料理を従業員が運んでくれるが、下げ膳はお客が行う。以前は、店内入口のタッチパネルでオーダー・決済し、料理の出来上がりをブザーで知らせていたが。この部分が、料理の出来上がりをモニターでお客の番号を表示する形に変わっていった。お客は、出来上がった料理を取りにいき、食事を終えたらトレーごと返却口に持っていく。完全なセルフサービスである。

出店の適地ではテイクアウト45%を獲得

外食大手でもこの業態の展開が進められている。その先端的な事例として、物語コーポレーションの動向を紹介しよう。

同社ではいま「焼肉きんぐ」を郊外ロードサイドで勢いよく展開している。2023年12月22日現在で315店舗。2023年6月期では同社売上高922億7400万円の中で「焼肉部門」が488億5200万円で52.9%を占めている。

同社では2021年8月に「焼きたてのかるび」の1号店(愛知県豊橋市)をオープンし、2023年12月末で14店舗となっている。2号店(愛知県岡崎市)は2022年3月であるから、20カ月で現在の陣容をつくっている。2023年12月度には3店舗オープンするなど急ピッチな展開である。

店内に入ってすぐのセルフレジの上にメニューを大きく掲げて分かりやすく、賑やかなメニュー構成が食事への期待を駆り立てる(筆者撮影)
店内に入ってすぐのセルフレジの上にメニューを大きく掲げて分かりやすく、賑やかなメニュー構成が食事への期待を駆り立てる(筆者撮影)

メインターゲットは30~40代の男性だが、女性が一緒に来ても注文に困らないメニュー構成を考えた。そこでスープに着眼。焼肉店で定番の玉子スープを想定したが「これでは弱い」と。そこでごちそう感が高い「ユッケジャンスープ」をもう一つの名物商品としてラインアップした。「焼きたてのカルビ丼」(並)は490円に設定(現在は550円)。これらに焼肉定食、盛岡冷麺を加えて「焼肉店ベース」のバラエティを整えた。オペレーションが整うようになってから「特選丼」として、牛タン、牛ハラミを加えた。客単価は750円でスタートしたが、現在は850円から900円あたりとなっている。

標準店舗は35坪~40坪、駐車場(20台)を入れて敷地300坪で月商900万円を想定。

出店立地は、同社の「焼肉きんぐ」「ゆず庵」と同じ郊外ロードサイドで当初展開していたが、「これがあまり適用しない」と考えるようになった。

これまで展開して見えてきた「適地」とは、ロードサイドでも住宅街が張り付いたエリア。これで、売上比率はテイクアウト45%、イートイン55%となっている。

ドライブスルーを併設した店舗は現状4店舗あるが、ドライブスルーを併設するとテイクアウトを目的としたお客がドライブスルーに流れるという。ある店舗の売上比率はドライブスルー25~30%程度、イートイン50%程度となっている。いずれにしろ、テイクアウトに強い業態である。

ディナー型の中国料理店が専門店をオープン

JR東京駅の商業施設「グランスタ八重北」は、このファストカジュアルをウォッチするには絶好の場所である。リニューアルした部分の店舗が2022年4月から順次オープンしている。

ここのリーシングを担当したJR東日本クロスステーションの原園誠氏(デベロップメントカンパニー、マーケティング戦略部、リーシングユニット次長)はこう語る。

「リーシングにあたり、このエリアのマーケットを分析した結果、まず、クイックであること。施設の1等地であることから、オンリーワンの業態でクオリティの高さを求めた。特に1階の場合は1人、2人のお客様が多いことからカウンター席を増やしてほしいと提案した」

ここの中心部にあるのが冒頭で述べた「極味や」である。絶え間ない行列が名物となっている。

その筋向いにあるのが「あんかけやきそば南国酒家」。同店を運営するのは創業が1961年の中国料理のディナー型総合レストランである。

「あんかけやきそば」の専門店をオープンした狙いについて南国酒家代表取締役社長の宮田順次氏はこう語る。

「お客様アンケートを行うと『やきそばだけを食べる店が欲しい』とご要望をいただいていました。また、あんかけやきそばをつくる技術は中国料理の料理人にとって基本的なものが整っていて、修業歴5~6年くらいの若手が活躍できる舞台もつくりたかった」

ディナー型総合レストラン「南国酒家」の人気メニューである「あんかけそば」は、顧客からその専門店の営業を待望されていた。JR東京駅内の店舗はその念願をかなえた形(南国酒家提供)
ディナー型総合レストラン「南国酒家」の人気メニューである「あんかけそば」は、顧客からその専門店の営業を待望されていた。JR東京駅内の店舗はその念願をかなえた形(南国酒家提供)

看板メニューとする「五目具だくさんあんかけやきそば」が単品で1500円、セット(焼売1個、ごはん、とろ~り杏仁豆腐)で400円プラスになる。あんかけやきそばは6品、あんかけつゆそばは3品と、メニューは専門特化されて絞り込まれている。客単価は1600円から1700円あたり。宮田氏は「もっとオートマチックな仕組みが整うと店舗展開ができる」と語る。

以上、ざっと筆者が取材をしてきた「ファストカジュアル」の動向について述べた。今日業種業態は多様化しているが、この業態の定義は、これからは一般的に認知をされて語られていくのではないだろうか。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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